女性シングル、老後の家をどうする?賃貸暮らしでフリーランス、コツコツ投資とポイ活、コミュニティーで安心を担保する
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昨年は、モトザワ自身が、老後の家を買えるのか、体当たりの体験ルポを書きました。その連載がこのほど、『老後の家がありません』(中央公論新社)として発売されました!(パチパチ) 57歳(もう58歳になっちゃいましたが)、フリーランス、夫なし、子なし、低収入、という悪条件でも、マンションが買えるのか? ローンはつきそうだ——という話でしたが、では、ほかの同世代の女性たちはどうしているのでしょう。今まで自分で働いて自分の食い扶持を稼いできた独身女性たちは、定年後の住まいをどう考えているのでしょう。それぞれ個別の事情もあるでしょう。「老後の住まい問題」について、1人ずつ聞き取って、ご紹介していきます。
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「実家で母と2人暮らし。61年間、一度も独り暮らしをしたことはない。「実家だから老後の家は安泰」とも限らない」はこちら
年金をあてにせず貯蓄と投資を続けて
収入が不安定なフリーランスライターで、独身で、賃貸暮らし、もらえる年金は国民年金だけ。家賃を払うためには働き続けるしかない、何歳になっても引退できそうもない——こんなふうに老後が心配な女性も、現役世代には少なくないでしょう。特に、就職氷河期に就職活動をした女性たちは、会社員ではなく非正規雇用の人も多いはずです。そのうえ、親の家も賃貸だったなら、親から遺産として残される住居もありません。そんな境遇にいるにもかかわらず、「でも、将来はきっと大丈夫、なんとかなりますよ〜」と明るく話すのは、都内在住のフリーランスライター、明子さん(仮名、57歳)です。
明子さんは30年以上ずっと、フリーランスライターとして働いてきました。20代から雑誌などに寄稿し、1990年代の、雑誌業界が好景気に沸いた時代も経験しました。連載を掛け持ちし、年収が1000万円を超えたことも。でも、組織には属さないフリーランスでしたから、年金として掛けてきたのは国民年金だけです。短大卒業後に5年だけ会社員として勤めましたが、厚生年金は雀の涙です。
「65歳から国民年金はもらおうと思います。ねんきん定期便で調べましたけど、月6万円ちょっとしかもらえない。そこから税金とか健保とか引いたら、きっと手取りは3万円とかですよね? 働ける限りは働かないといけないかなあ、って思ってます」
しっかり者の明子さんは、国の年金があてにならない分、貯蓄と投資を続けてきました。いまは、iDeCoに上限の2.3万円、フリーランスの人が入れる小規模企業共済に上限の7万円、新NISAで4.3万円と、毎月、合計約15万円を投資しています。普通預金に余りが出たら、すぐにネット証券口座に入金。投資信託でETFや、少しだけですが単位株も購入しています。株は5万円以下で購入可能な銘柄だけを探します。以前、買ったIT関連株が「当たり」、数年で2倍以上に化けたことも。それが楽しみだそうです。
明子さんは賃貸派
「でも本当は、毎月25万円くらいは投資しないといけない、と思ってるんです。年金暮らしになったら、収入は国民年金だけだから、貯蓄を切り崩して生活することになるので」。年金が頼れない分、貯蓄や投資・運用で、老後資金を自分で準備するつもりとは、明子さんはなんて堅実なのでしょう。投資ではありませんが、「ポイ活も、もちろんしています。買い物はd払いにして、地味に、こつこつdポイントを貯めています」。さすが、しっかりしています。
ちなみに明子さんは、生命保険は掛けていません。個人年金も入っていません。「そろそろ都民共済か国民共済には入ろうかと考えていますけど」。若い頃に、生命保険は保険会社がもうかる仕組みだと気付いてしまったからと言います。生保会社に計算してもらい、生命保険は120歳まで生きないと元が取れないし、医療保険は1年に7日以上入院しないと損だ、と分かりました。胴元のもうかる掛けは、掛けるだけもったいないです。なので、生命保険に入る代わりに、明子さんは自分で貯蓄し、金融商品に掛けているのです。
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いっぽうで、明子さんは支出も絞っています。若い時にはブランドものや着物を買ったりしましたが、最近はすっかり物欲も収まりました。服ももう買いません。美容院代だけは、ストレートパーマとカラーリングなどで年に20万円以上かけますが、「毎月の、家賃以外の支出は13万円以内に収めるのが理想です」。20万円を超える月もありますが、ほぼ13万円に抑えているそうです。「どうせ使わないので」、余ったら投資に回します。
ただし、最大の支出である住居費については、明子さんは賃貸派です。「若い頃に考えたんですけど、マンションは買わずに、ずっとギリギリまで賃貸で行って、その分お金を貯めておいて、その預貯金で最後に老人ホームに入るのがいい、って」。仕事を引退した老後も家賃を払うためにも、預貯金はしておこう、という考えです。
明子さんが親元を出たのは29歳の時でした。都内の賃貸アパートに、妹と二人暮らしを始めました。56平米2LDKのメゾネット。更新料のかからない物件です。妹が結婚して出ていった後も同じアパートで、明子さんは独り暮らしを続けています。
もしもの時、アテはある
明子さんは都内で生まれ育ちましたが、両親とも地方の出身で実家は賃貸でした。父母ともすでに他界しましたが、受け継ぐ家はありませんでした。今では、明子さんの部屋が実家代わりです。正月などに妹たちが来られる場所を残すためにも、別の物件への引っ越しは考えていません。(引っ越しばかりして、敷礼金や引っ越し代で無駄に出費をしているモトザワと比べると、20年近くも同じ物件に住み続けるなんて、明子さんはどれだけ堅実なのでしょう!)
家賃はいま12万5000円。実は、妹が出て行った後で、大家と交渉して14万1千円から減額してもらいました。イマドキ珍しく、近くに住む大家さんに毎月、明子さんは家賃を手渡しています。振り込み手数料を惜しんだためですが、結果的に、大家さんと顔見知りになれて良かったと言います。家賃を届けるたび、ちょっと世間話をしたりして、大家さんと交流を続けています。明子さんの母が亡くなった時には香典をもらったほど。父が亡くなった時も、大家さんに大丈夫?と声を掛けてもらいました。店子を大事に思ってくれる、良い大家さんなのです。
なので、年を取ったら、追い出されるかもという心配は、「あんまりしていないんです。たぶん、今のところに、年を取っても、ずっと住まわせてくれるんじゃないかって。大丈夫じゃないかと思ってます」。たしかに大家にとっても、滞りなく家賃を払い、長期間借り続けてくれるくれる店子は、良い借り手です。大家業にとって最大のリスクは「空室」ですから。個人的な関係も築けているなら、追い出す気にもならないでしょう。
とはいえ、大家が相続で代替わりしたら状況は変わるかもしれません。建て替えるから出て行けと、将来の大家に言われない保証はありません。老後になってから、そんな事態になったらどうします? 明子さんは、「どうしても、ってなった時には」と、冗談半分に、アテがあると言います。
母方の伯母が、都内の3LDKのマンションで、一人息子と二人暮らしです。この従兄弟も独身で、4歳年下。明子さん姉妹とも仲が良いので、「老後になって困ったら、一部屋貸してよ、と言っているんです」。伯母は会社経営をしていた資産家で、自宅マンションはすでに従兄弟名義です。一部屋くらいは借してくれる余裕がありそうです。
『老後の家がありません』(著:元沢賀南子/中央公論新社)
教会のコミュニティーは「神様の家族」
もう一つ、アテがあるそうです。それは、明子さんがここ20年通っているキリスト教会です。新興宗教ではなく、伝統的な、由緒ただしいプロテスタント教会です。子どもの頃に日曜学校に通っていた明子さんですが、洗礼と献金への疑問を越えられずに一度は教会を離れました。ところが仕事で、取材の一環でいまの教会と出会い、神様と再会。信仰を持ちました。いまは、神様から与えられたものを神様に「返金」することが献金だと思い、「喜んで捧げています」。
教会には、信頼できる牧師や仲間の信者たちがいます。コミュニティーがあります。この教会から遠いところに住みたくありません。そこで、教会に「親しい人たちと一緒に入る老人ホームを作って」と冗談交じりに言っています。老人ホームを作るのは無理でも、信者の仲間たちとルームシェアならできそうです。少なくとも、教会が身元保証人になってくれれば、賃貸物件が借りられないことはないだろうと、モトザワも予想します(孤独死を防ぐ意味でも、教会のような組織は頼りになりそうです)。実際、病気で入院する時の付き添いは、教会がしてくれます。
教会のコミュニティーは「神様の家族」だと、明子さんは言います。本当に困った時には教会が助けてくれます。例えば、教会に3年以上所属している信者には、教会がお金を貸してくれるのです。明子さんも実際、旅行費用を借りたことがあります。知人の派遣社員の女性は、がんで入院・手術した時、まとまったお金が用意できずに、教会に立て替えてもらいました。もちろん返済はしますが、営利事業ではないので利息はゼロです。
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その教会に収入の1割相当分を献金する、という「什一返金」を、明子さんは続けています。「収入は神様から与えられているものなので、旧約聖書に則って、収入の1割を神様にお返しする」という考えによるそうです。お返しすることで、さらに神様が祝福してくださる、という約束があるのだと、明子さんは説明します。
仕事を引退したら、教会でのボランティア活動に精を出すつもりです。今も、教会の奉仕活動に参加したり、教会主催の子ども食堂の手伝いをしたりしています。教会に来る子どもたちはみんな可愛い。もっと関わりたいと、参考書を買って、独学で保母の資格まで取得しました。「教会で幼稚園を作るのなら、働けます」。この子どもたちが、将来、自分たちの面倒を見てくれるかもしれません。
明子さんは「聖書に書いてある通り、ちゃんと神様は祝福してくれるはず」と、信じています。教会は、明子さんにとっては、楽しみであり、心の支えであり、癒しです。だから、老後についても、きっと大丈夫、何とかなるさ、と思えるのだそうです。信仰が、明子さんを精神的に支えていることは間違いありません。
56歳で契約社員に
そんな明子さんですが、実は昨年、フリーランスの傍ら、約30年ぶりに会社勤めを始めました。
きっかけはコロナでした。対面取材の仕事がなくなり、会議もオンラインになりました。「職人ライター」として、求められるものを仕上げる腕には自信を持っていましたが、コロナ後は編集部とのやりとりも一方通行になりがち。「やっぱり、みんなでわいわいモノを作るのが楽しい。そういう現場をもう一度経験したい」と、転職サイトで見つけた媒体の編集部に応募しました。業務委託でも十分と思っていたのに、正社員前提の契約社員として入社しました。
応募時は56歳。「もうこの年齢なので、まさか受かるとは思っていなかったんで、びっくり。しかも正社員だなんて」。これまでの職歴や経験がものを言ったのでしょう。
実は、その前まで、明子さんは仕事をセーブする「減速モード」でした。両親を亡くした後、かつてのようにバリバリ仕事をする気になれず、あまり仕事を入れていませんでした。もう年収200万円でいいか、といった気分だったそうです。明子さんは自覚していませんが、モトザワには、父母を亡くしたことによる鬱状態だったように見えます。
会社勤めに復帰したことで、明子さんには変化が起きました。まだ試用期間ですが、フリーランスと違って、物理的にも精神的にも会社に縛られます。10時〜18時の就業時間中はじっと職場にいなくてはいけません。上司との齟齬や軋轢もあります。ストレスから一時期は鬱っぽくなりました。ただ、その反動で、久しぶりにフリーランスとしての仕事も受けてみました。すると、すっきり。「仕事のストレスは仕事でしか解消できません」。仕事が明子さんにエネルギーを与えてくれました。最近、ようやく、当初の目標通り、「みんなと一緒に雑誌を作る」態勢が、会社で整いました。「いま、すごい楽しいです」
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信仰を持つことの美点
いまの会社では、厚生年金に入れます。副業OKなので、ライターとしての仕事も続けています。一昨年までは思いも寄らなかった展開ですが、副業と合わせると、年収は800万くらいになりそうです。「余裕で暮らせます」
このまま本採用されたら、60歳定年の後も再雇用で勤め続け、65歳まで働くつもりです。その間、厚生年金を掛けつつ、貯蓄や投資も充実させよう、と明子さんは計算しています。3年以上働けば退職金ももらえるようです。それなら、「やっぱり、老後の家は、なんとかなるんじゃないか、と思うんです」と、明子さんはあっけらかんと話します。神様は見ていてくれる。必ず支えてくれる、だから大丈夫、というのです。
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明子さんの偉いところは、若い頃から先を読んで、投資と貯蓄を始めたことでしょう。フリーランスは年金があてにならないと、早くに悟って準備したことが幸いしました。金融資産さえあれば、フリーだって、老後も恐くありません。明子さんの目論んだ通り、ギリギリまで賃貸で家賃を払い続け、最後はまとまった資金でどかんと老人ホームに入ればいいのです。
それに、投資は、老後になってすら続けられます。使わない資金は複利で増やしておけば、金融資産はさらに膨らむでしょう。明子さんの生き方は、会社員のように厚生年金がなくても、まとまったボーナスや退職金がもらえなくても、フリーランスでも、少ない元手からでも、計画的にお金を増やせる、という好例です。
ただ、明子さんの強さの背景には信仰があると、モトザワは感じます。ふつう、人は迷います。こうしたら大丈夫と計画しても、途中で誘惑に負けたりして頓挫します。そうならずに、精神的に安定して、自分を信じていられるのは、信仰のおかげでしょう。日本人で信仰を持つ人は多くありませんし、うさんくさいエセ宗教も世の中にはあふれています。でも、明子さんを見ていると、信仰を持つことの美点を感じます。彼女の強さ、潔さ、まっすぐさは、神様を信じているからこそでしょうから。
婦人公論.jp
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