「子どもに見せられない」選挙ポスター規制、住民ら歓迎…品位基準は「曖昧」で実効性に疑問も
2025年2月26日(水)7時9分 読売新聞
昨年の都知事選の選挙ポスター掲示板には、候補者と関係のない女性たちのポスターが多数貼られた(点線で囲んだ部分)。記載されたQRコードを読み取ると、有料SNSへの勧誘サイトにつながった=画像は一部修整しています
昨年の東京都知事選で候補者と無関係な選挙ポスターが多数貼られた問題を受け、品位を損なうポスターの掲示を禁じた公職選挙法改正案が、25日の衆院政治改革特別委員会で可決された。法案は3月中に成立する見通しで、今夏の都議選や参院選など大型選挙を控える各地の選挙管理委員会や有権者からは、評価の声が上がる一方、「『品位』の基準が曖昧で実効性はあるのか」との懸念が聞かれた。
■子どももいるのに
「子どもに見せられない卑わいなポスターがなくなってくれれば安心だ」。東京・表参道の閑静な住宅街で暮らす女性会社員(45)はこう話した。
昨年夏の都知事選の際、自宅近くの選挙ポスター掲示板に、若い男性の写真が入った風俗店の宣伝広告のようなポスターが大量に貼られた。ポスターに候補者名の記載はなく、男性は候補者とは別人だった。
女性は当時、ポスターが小学2年の長男(8)の目に触れないように、近くを通りかかる際は、自身の体で掲示板を隠すように歩いた。「保護者の間でも『こんなポスターが許されていいのか』と話題になった。信じられない行為で、二度と繰り返さないでほしい」と訴えた。
■相次いだ苦情
このポスターは、政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏が、関連団体とともに擁立した候補者24人分の掲示板の枠にポスターを掲示する権利を事実上販売した結果、貼られたものだ。
犬の写真や動物のイラスト、子どもが描いた花の絵など候補者と無関係なポスターが各地で掲示され、都選管には告示翌日までの2日間で、「公選法で認められるのか」「はがすべきだ」といった苦情が約1300件寄せられた。都選管の織田祐輔・選挙課長は「選管はポスターの内容に介入できないため、十分な対応ができなかった。選挙期間中、公平・公正な選挙を保てるのか、ずっと不安だった」と振り返り、法改正案については「再発防止には大切なことだ」と歓迎した。
■実効性に疑問
ただ、改正案の実効性を疑問視する声も多い。改正案では、「品位を損なう」記載内容として、他人の名誉を傷つけたり、善良な風俗を害したりすることを挙げたものの、抽象的な表現にとどまる。候補者名の記載さえあれば、ポスターの内容は問われない可能性があるうえ、営利目的での掲示以外では罰則もない。
25日の衆院政治改革特別委でも、委員から「法律の規定としてあまりに曖昧。これでは選管や警察がどう対応したらいいのかわからない」といった指摘が相次いだ。杉並区選管の石田幸男事務局長は「表現の自由もあり、例えば、どの程度で人の名誉を傷つける言葉とみなすのかなど、線引きは困難だ」と話す。
「2馬力」「SNS」引き続き検討
昨年11月の兵庫県知事選では他候補の当選を目的として立候補する「2馬力」運動が問題化したが、公選法改正案は、付則で「引き続き検討し、必要な措置を講じる」とするにとどめた。
同知事選では、当選した斎藤元彦知事のほか、稲村和美・元尼崎市長、立花孝志氏らが立候補。パワハラ疑惑などで批判された斎藤氏を、立花氏が街頭演説などで擁護する主張を繰り返した。次点の稲村氏を支援した県議の一人は「立花氏によって2馬力以上の威力が発揮され、公平性がゆがめられた」と訴える。
立花氏は3月16日投開票の千葉県知事選でも2馬力選挙の意向を示したが、再選を目指す熊谷俊人知事の「迷惑」との発言を受けて撤回。ただし、4月に投開票される大阪府岸和田市長選では2馬力を示唆した。同市の無職男性(77)は「当選を目指さない人が選挙に立候補するのはおかしい。法改正して抜け道をなくすべきだ」と話した。
SNS対策も同様に付則で「引き続き検討」止まりだ。兵庫県知事選では、斎藤氏に不信任決議を突きつけた県議らへの
宮城、京都、熊本など19府県の知事は今月17日、2馬力などについて対策を求める緊急提言をまとめ、総務省に提出。「抜本的な対策を講じていただくよう要請する」などと求めた。