短期取得できる「カウンセラー資格」はあり? タレント報告で波紋、専門家からは「適切な専門的サービス」提供できない懸念の声

2024年5月19日(日)10時0分 J-CASTニュース

悩みや不安、心の不調の相談に乗り、解決に向けたサポートをしてくれる心理カウンセラー。国家資格「公認心理師」や取得難易度の高い「臨床心理士」という資格があるものの、実はカウンセラーとして活動するために資格は必須ではなく、短期間の勉強で取得できる民間資格のみで活動する人もいる。例えば2024年2月には、タレントのあおちゃんぺさんが「心理カウンセラー」の資格を取得したとXで明かし、話題となった。

一方で、この資格のみを掲げて活動することを疑問視する声もある。公認心理師・臨床心理士の資格を持つ専門家は、「対価に見合う専門的なサービスを提供しているわけでもないのに、お金をもらっているという構造があるとすると、専門家の職業倫理からすると問題」と懸念点を指摘する。

あおちゃんぺさんが心理カウンセラーの2資格を取得報告

あおちゃんぺさんが取得したのは、一般財団法人日本能力開発推進協会が認定する「上級心理カウンセラー」と「JADP認定メンタル心理カウンセラー」の資格だ。

資格取得の報告とともに、「全国の小学校を回って講演会やカウンセリングをしたいと思っています」と今後の活動について明かした。

さらに「子供時代の経験や環境はその後の人生に大きく影響します。1人でも多くの子供達が楽しく生きられるように活動頑張ります!!」と意気込みを語った。

これに、あおちゃんぺさんの行動力を称賛し応援する声が多く寄せられた。一方、一部では国家資格などではない数か月で取得できる資格のみでカウンセリングの活動をすることへの疑問の声も上がった。

心理系の資格には、公認心理師法に定められた国家資格「公認心理師」や、公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会が認定する「臨床心理士」がある。いずれも主な受験資格は、指定の大学院修了またはそれと同等の知識や実務経験が必要だ。

対してあおちゃんぺさんが取得した2資格は、日本能力開発推進協会が指定する「認定教育機関等」のカリキュラムを修了すれば受験資格が与えられる。学習期間の目安は2資格で4か月。そもそも受験資格取得の段階で、必要な年月に大きな差がある。これではカウンセラーとして活動することに、十分な専門性が得られないのではないかといった懸念が出ている。

こうした懸念に、あおちゃんぺさんは「当たり前に希望者に対してカウンセリングするので国家資格の所有者にカウンセリングして欲しい人は来ないと思います。なので国家資格云々はどうでもいいです。それは利用者が選ぶ事なので信用ならないと思う人は来なければいいだけです」と反論している。

「上級心理カウンセラー」と「JADP認定メンタル心理カウンセラー」とは

では、あおちゃんぺさんが取得した「上級心理カウンセラー」と「JADP認定メンタル心理カウンセラー」はどのような内容を学んだうえでの資格なのか。

J-CASTニュースの取材に応じた日本能力開発推進協会の担当者は、「上級心理カウンセラー」のカリキュラムと資格取得によってできることについて次のように説明した。

「心理学部、大学院 2年間で学ぶカリキュラムの中から、『交流分析』『論理療法』『認知療法』『認知行動療法』『フォーカシング』『内観療法』『ソリューション・フォーカスト・アプローチ』『芸術療法』の8つの心理療法を身につけ、クライエントの悩みに合わせた適切な対応ができます」

「カウンセリングの上級テクニックを持った心理カウンセラー」に与えられる資格だとした。

履修範囲は「心理療法の基礎知識について」「カウンセリング運営について」「クライエント対応について」といい、認定の通信教育講座の公式サイトには、1か月目に「認知行動療法」、「論理療法」、「認知療法」、「交流分析」を学び「問題解決力を高めます」とある。

2か月目に「対応できるクライエントの幅が大きく広がる『フォーカシング』『内観療法』をはじめ、今カウンセリング業界で注目されている心理療法を習得していきます」と記されている。

「JADP認定メンタル心理カウンセラー」については、

「社会心理学や発達心理学などの基礎概論から来談者中心療法による実践的なカウンセリング技術を身につけ、心理的に悩める人を社会的観点からもサポートし、問題解決に導くことができます」

と説明する。

「カウンセリングに関する基礎知識」「クライエントに関する基礎知識」「心理学に関する基礎知識」「精神医学の基礎知識」を学ぶことができ、カリキュラムについて認定の通信教育講座の公式サイトには、1か月目に心理学とカウンセリングの基礎を学び「カウンセラーとして必要な基礎知識を身につけていきます」、2か月目に「クライエントとの信頼関係の築き方、仕事とプライベートの切り分け方など、カウンセラーとして働く際のルールを学びます」と記されている。

いずれも「公認心理師・臨床心理士資格を取得するための学びのうち、カウンセリングの実践に必要な知識を集約しています」というが、2資格はそれぞれ異なる心理療法を学ぶ内容となるという。

公認心理師・臨床心理士は「最低6年間の学習と学費が必要」

日本能力開発推進協会は、公認心理師・臨床心理士について、「受験資格を得ている方は受験可能ですが、受験資格を得ていない方は必須単位を取得できる大学・大学院で所定カリキュラムを履修しなくてはなりません。資格取得までに、大学・大学院で最低6年間の学習と学費が必要です。大学の学費は、国公立大学250万円、私立大学で400〜600万円。大学院は、受講科目により初年度費用は変動しますが10〜30万円です」としたうえで、

「社会人になってから、カウンセラーを目指すには、その方の状況によっては、学習自体が難しい場合もありますし、単位取得に長い年月が必要となるため、資格取得が現実的でない点があります」

とその取得の難しさを指摘した。

対して、日本能力開発推進協会の資格は、「サポートが必要な方への支援を目標に掲げた時点で目標達成に向けてスタートでき、大学・大学院での学びを短期間で学ぶことができますし、受講費用もチャレンジしやすい設定になっております」と答えた。

日本能力開発推進協会は、カウンセラーとして活動したい人へは、まずはカウンセラーの基本知識を学ぶ「JADP認定メンタル心理カウンセラー」からスタートすることを勧める。

そのうえで、

「クライエント様のお悩みや年齢層によって必要な知識は違ってまいりますので、当協会では、ご自身が必要とお感じになった資格のお勉強を進めていただけるよう心理系の資格を多数設定しています」

といい、その他の資格の取得も有用だとする。さらに、「心理療法によるアプローチと身体の健康等の多方面から問題解決のサポートを促すことができるよう、『癒し・健康・ボディケア』の資格もございます」と紹介した。

公認心理師・臨床心理士にも違いを聞いた

公認心理師・臨床心理士の資格を持つ専門家にも話を聞いた。

明星大学心理学部の藤井靖教授は、公認心理師・臨床心理士と日本能力開発推進協会の資格の違いについて、「資格を取るまでのプロセスと、取得してからの研鑽や自身の専門的な活動の振り返り」と挙げた。

公認心理師の場合、資格にかかる6年で心理学の基礎から体系的に学ぶほか、実習が必要になる。「臨床実習として、実際の患者や相談者の方に対して、指導を受けながら対応するというプロセスを数百時間こなします。資格を取る前の見習いとして、さまざまな経験や指導を受けながら自分の技術も高めていって、初めて受験資格が得られるわけです」。

さらに、学習期間は知識や経験を得るだけでなく、カウンセラーとしての適性を考える時間でもあるという。

「人間の心というのは本当に難しいので、学びの質も大事ですが、時間や量が大事なこともあります。カウンセラーとして人に向き合うということは、自分と向き合うことでもあります。自分が向いているのか、この仕事に耐えられるのか、そういうことを考えていくにはそれなりの時間が必要です。また指導者である教員から、適性についてアドバイスを受けることもできます」

資格取得の後も、研鑽が必要だ。臨床心理士の場合、5年に1回の更新制をとっており、その間に研修やベテランの心理士の指導を受ける必要があるという。公認心理師について定めている公認心理師法も、研鑽を積み、技術を高める必要があるとの理念に基づいた法律だと説明する。

「言ってみれば一生勉強です。それは単純に自分なりになんとなく経験していくことに止まらず、例えば学会に参加したり職能団体の研修会に出たり、ベテランの人からの指導を受けたり、自分の専門的活動の水準を常に最良に保てるように、知識と技術を積み上げていくという資格取得後のプロセスも重要視されています」

一方で、短期で取得できる資格は、取得後の研鑽は個人に一任されていることが多く、「資格としてのサービスの品質性において、一定の高い水準を保つということは、仕組み上難しいのかなという気がします」と見解を述べた。

カウンセラーに求められる「専門性」

藤井教授は、カウンセラーには相談者の問題や悩みの根本を捉え、適切な解決方法を判断するといった技術が必要だと指摘し、その技術がわずか数か月間で備えられるかどうかを疑問視する。

「相談に来られた方の問題や悩みが心理カウンセリングで解決するものなのかどうかという専門的判断が必要です。例えば、心の悩みのように言っているけれど、実は解決方法としては法律家に助けを求めた方がいいとか、家族に相談した方がいいとか、心理カウンセリング以外の方が向いている場合もあります。しかし、それは表面的には分かりづらいので、多面的な見立てを行い、解決の実現可能性を吟味する必要があります」

問題や悩みがカウンセリングで解決する可能性があると仮定できた場合も、専門性は必要だ。

「最初の面接で何を聞き、何を明らかにし、どういう情報を聞くかというのも一応フォーマットがあるのですが、単純にアンケート形式で聞いていけばいいというわけではなく、その人の特性や経緯を踏まえて、必要な部分を聞かなければなりません。混乱していればこそ、整理して話せないのが普通ですから。
例えば『死にたい』と言って来ている人に対して、なぜ死にたいのかの背景を専門的視点から理解できていないと、対応自体がずれてしまって、どんどん悪化することもあります。実際にそれで命を落としてしまったケースも、これまでにあります。そもそも死にたい理由が、本人さえ認識できていない例は稀ではありませんので、見立てるのは容易ではありません」

言葉での表現がまだ未成熟な子どもを対象にすることは、大人以上に難しいとも懸念する。

興味がある人は「心理学検定」やボランティアから

その上で、藤井教授は、公認心理師・臨床心理士の資格を取得せずに、数か月で取得できる資格のみでカウンセラーとして活動することについて、次のように問題点を指摘した。

「カウンセリングと言うと、基本的にはそれを受ける人は、専門的な支援が受けられるという前提でいらっしゃると思います。仮に、対価に見合う専門的なサービスを提供しているわけでもないのに、お金をもらっているという構造があるとすると、専門家の職業倫理からすると問題だと思います」

心理学に興味を持ったものの、時間的、経済的に公認心理師・臨床心理士の受験資格を得られない人に対しては、「心理学検定」を勧める。公認心理師・臨床心理士を目指す人も取得することが多いという。

対人援助をしたい人に向けては、ボランティアをすることを提案する。

「例えば児童養護施設で子どもに関わったり、学校現場で支援員をしたりするボランティアもあります。なかなか教室にじっとしていられない子どもや、不適応行動を起こすような子に付いて勉強や生活のサポートをすることも対人援助だと思います。いきなりカウンセリングでなくても、まずはこうした経験を積んで自分に向いているのかを判断してもらうのが良いと思います。もし資格を取りたいとなれば、放送大学もありますし、専門学校でも取得できるところはあります」

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