蛍(ほたる)の不思議な生態 キレイな水にしか生息できないって本当?

2024年5月19日(日)13時0分 ウェザーニュース

2024/05/19 13:00 ウェザーニュース

蛍(ほたる)の明滅(めいめつ)する幻想的な光が夜の水辺を舞い飛ぶ季節が近づいてきました。
ウェザーニュースが2022年に実施したアンケート調査では、今までに蛍を見たことが「ある」人は全体の約70%という結果になりました。
年代別に詳しく見ると、10代や20代の若い世代ほど、見たことが「ない」割合が大きくなっています。

古くから夏の風物詩として親しまれる蛍には“清流にすむ生き物”の印象が強く、キレイな水の中でしか生息できないと思われがちです。
ところが、蛍は汚すぎる水はNGですが、キレイ過ぎる水でも暮らしていけないといいます。
そんな蛍の不思議な生態について、山口県下関市立「豊田ホタルの里ミュージアム」学芸員の川野敬介さんに教えて頂きました。

蛍が光るメカニズム

蛍の種類

まず、蛍の基本的な情報についてお尋ねします。世界には何種の蛍が生息し、そのうち日本には何種が生息しているのでしょうか。
「F. A. McDermott が1966年に出版したホタル類の世界カタログに約1900種が挙げられており、以降も多くの新種が発見されていますので、現在は2200種以上となっています。
このうち日本に生息しているのは、ゲンジボタルやヘイケボタル、ヒメボタルなど、約50種です」
蛍が光る仕組みを教えてください。
「蛍が発光するしくみは、化学反応によるものです。蛍の場合は体内の『ルシフェリン』という物質が酸素と結びついて光を出し、『ルシフェラーゼ』という酵素がその反応を手助けしているのです。
日本の代表的な蛍であるゲンジボタルの成虫の場合、ルシフェリンは身体全体に、ルシフェラーゼは尻の部分に白く見える『発光器』の中に存在します。ルシフェラーゼは蛍によって性質に違いがあり、よく見られる黄緑色以外にも、黄色や赤色などの色を発光する種もいます。
蛍は成虫だけでなく、さなぎや幼虫、卵までもが光を発します。最近の研究では、蛍のさなぎは尻だけでなく頭も光り、尻と頭では発光の仕組みが違っていることが発見されています。蛍が光る仕組みや役割には、多くの謎が残されているのです」

蛍の減少は治まった?

日本では蛍の生息数は減っているのでしょうか。
「ゲンジボタルでみると、場所によって状況は異なりますが、環境意識の高まりもあって、昔のような河川の水質悪化そのものによって生息できなくなったというケースは少なくなっているようです。下関市立『豊田ホタルの里ミュージアム』周辺では、ゲンジボタルはそれほど減っていない印象です。
ただし、局所的には住宅開発や市街地化の進行によって『光害』が起きたり、治水事業で流れの三方(両川岸と川底)がコンクリートで固められたりしてゲンジボタルが見られなくなったというケースはあります。
特に近年豪雨に見舞われた地域などでは、河川そのものの状態がすっかり変わってしまったことで、ゲンジボタルも生息できなくなったという話も聞いています」

“キレイ過ぎず汚れ過ぎない”水環境が大事

“蛍(ここではゲンジボタルについて)はキレイな水では生息できない”というのは本当なのでしょうか。
「蛍はやや富栄養(ふえいよう)な水質を好み、湧き水のようにキレイ過ぎても、汚すぎてもよくありません。
これは、肉食のゲンジボタルが主食とする淡水性の巻き貝であるカワニナが、やや富栄養な水質の、河川の中流域に多く生息しているからです」
ゲンジボタルとカワニナが生息しやすい環境は他にどんなものが挙げられるのでしょうか。
「水温は5〜21℃がゲンジボタルとカワニナが生息しやすい状態といわれています。28℃以上ではゲンジボタルの生息が難しいと言われます。
また、水深はそれほど深くなく、日当たりが比較的よく、河川内に多様な環境があるようなところに多く生息しています」

蛍が安心して生息するためには

蛍を増やすにはどうすればいいのでしょうか。
「かつて頻繁に行われていた大量の養殖や放流はあまり意味がないことがわかっています。いま生息している蛍を減らさないために、悪影響を及ぼす行為をしないことが大切です。
たとえば蛍がさなぎになるために上陸する時期はちょうどソメイヨシノの開花の時期にあたっているため、ライトアップがなされることが増えてきましたが、幼虫の上陸を阻害することがあります。
他にも、河川を木が覆い暗くなり過ぎたり、ヨシが河川を覆うように繁茂すると蛍やカワニナの生息に影響をもたらすことがありますので、河川環境の維持管理も大事です」
私たち一人ひとりにできることはありますか。
「個人でできることはたぶんほとんどないですが、蛍のことを少しでも知って頂き、正しい知識で付き合うことが大事だと思います」
蛍が幻想的な光を放ちながら舞い飛ぶ時期はもうすぐです。生息地の環境を保つよう心がけ、静かに蛍の観察を楽しみましょう。

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