「夜中に尿意で目が覚める」は早死のサイン…専門医が指摘する"寿命とトイレ"の知られざる関係【2023下半期BEST5】

2024年2月4日(日)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/varunyu suriyachan

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2023年下半期(7月〜12月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。健康部門の第5位は——。(初公開日:2023年7月16日)
夜中に尿意で目が覚める「夜間頻尿」にはどんなリスクがあるのか。医師の平澤精一さんは「夜間排尿の回数が一晩に2回以上ある高齢者は、1回以下の高齢者に比べて、死亡率が1.98倍になる。夜間頻尿に悩む人は年齢が上がるほど多くなるが、『歳だから仕方ない』と考えないほうがいい」という——。

※本稿は、平澤精一『老化を「栄養」で食い止める 70歳からの栄養学』(アスコム)の一部を再編集したものです。


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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/varunyu suriyachan

■日本人を悩ませる「夜間頻尿」の怖さ


私の専門は泌尿器科ですが、高齢の患者さんから非常によく聞くのが夜間頻尿の悩みです。夜間頻尿とは、「就寝後、トイレに行くために1回以上起きなければならず、それによって日常生活に支障をきたして困っている状態」のことです。


みなさんの中にも、「歳をとってから、夜中に何度も尿意を覚えて目が覚め、トイレに行ってしまう」「そのせいで、なかなか熟睡できない」と悩んでいる方がいらっしゃるのではないでしょうか。


夜間頻尿に悩む人は、年齢が上がるほど多く、日本排尿機能学会が2002年に行った調査によると、60代では39.7%、70代では62.0%、80代では83.9%の人が夜間排尿の症状を抱えており、予備軍を含めると、40歳以上の約4500万人が夜間頻尿を患っていることがわかりました。


なかなか人に相談しづらく、多くの人が「歳だから仕方がない」とあきらめてしまいがちな夜間頻尿ですが、テストステロン不足や亜鉛不足などと同様、放っておくと、心身の健康に深刻な影響を及ぼしかねません。


■死亡率が1.98倍になる「夜間頻尿と死亡率」の関係


実は、国内の研究により、夜間排尿の回数が一晩に2回以上ある高齢者は、1回以下の高齢者に比べて、死亡率が1.98倍になるという報告が上がっています。


また、「夜間頻尿と死亡率の関係」に関する複数の研究結果を統合したところ、夜間排尿の回数が一晩に2回以上あると死亡率が29%増加し、3回以上になると46%増加するという結果が出ています。


夜間にトイレに行くと、足元がふらついたり、暗くて周りが見えなかったりするため、転倒するリスクも高まります。アメリカの研究機関からは、一晩に3回以上の夜間頻尿があると、トイレに行く際に転倒するリスクが1.28倍になるとの報告も上がっています。


転倒した際に打ちどころが悪ければ、死亡してしまう危険性もありますし、転倒による骨折がきっかけとなって、フレイルに、そして寝たきりになってしまうおそれも十分にあります。


さらに、夜間頻尿は、心身の健康やQOLにも大きな影響を及ぼします。夜中に、トイレに行くために何度も起きると、その後眠れなくなったり、眠りが浅くなったりして、十分な睡眠、質の高い睡眠をとることができなくなります。


■夜間頻尿は健康寿命を左右する重要な問題だ


すると、当然のことながら、意欲や集中力が低下する、疲れが取れにくくなる、昼間に眠くなる、イライラしやすくなる、といったことが起こりやすくなります。仕事でミスをすること、自動車を運転しているときに集中できなかったり眠くなったりして、事故を起こしてしまうこともあるかもしれません。


体のさまざまなホルモンのバランスも、7時間眠ることで整うといわれています。つまり、夜間頻尿で睡眠不足に陥ると、ホルモンのバランスが乱れ、心身にさまざまな不調が表れるおそれがあります。


写真=iStock.com/yanyong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yanyong

こうした心身の不調から、外出したり人に会ったりするのがおっくうになったり、うつ状態に陥ってしまったりする人もいるでしょう。70歳以上の人にとって夜間頻尿は、寿命を、そして健康寿命を左右する、非常に重要な問題なのです。


では、一体なぜ、夜間頻尿が死亡率の増加につながるのでしょうか?


まず考えられるのが、夜中にいきなり冷たい便座に座ることで、急激な温度変化に伴って血圧が変動し、脳出血や脳梗塞、心筋梗塞などが引き起こされることです。排尿によって血管が拡張され、血圧が下がり、心臓から脳へ送られる血液の量が急激に減って、脳が酸素不足になってしまう「排尿失神」が起こることもあります。


■原因は夜間多尿、膀胱蓄尿障害、睡眠障害の3つ


では、なぜ年齢を重ねると、夜間頻尿になってしまうのでしょうか?


その原因についてお話ししましょう。夜間頻尿の原因には、主に次の3つのタイプがあると考えられています。


①夜間多尿
②膀胱蓄尿障害
③睡眠障害


そして、糖尿病や高血圧、肥満、あるいは心疾患や腎疾患の治療薬の服用などが引き金となっているケースもありますが、多くの場合、ホルモンの減少、腎臓機能や膀胱機能の低下、筋力の低下、睡眠のリズムの乱れなど、加齢に伴う体の変化が、これら3つの原因を引き起こしています。


■ホルモンバランスの乱れ、筋力の低下


ここからは、夜間頻尿の3つの原因について、もう少し詳しくご説明しましょう。まず、①の「夜間多尿」は、夜間に作られる尿量が多い状態のことです。


通常、人間の一日の尿量は約1000〜2000mL、一回の排尿量は約200〜400mLであり、排尿回数は、日中は5〜7回程度、夜間(就寝中)は0〜1回程度です。


しかし、睡眠前に水分を過剰摂取したり、心疾患や腎疾患の患者さんが、睡眠前に利尿薬を服用したり、加齢により、尿量を調節する抗利尿ホルモンの分泌バランスが乱れたりすると、夜間の尿量が増えてしまうのです。


加齢による筋力や血管の収縮力の低下も、夜間多尿の原因となります。筋力や血管の収縮力が低下すると、血液の循環が悪くなり、下半身に水分がたまります。その状態のまま横になると、下半身にたまっていた水分が上半身に移動し、心臓に負担がかかります。


すると体は、排尿を促す「利尿ペプチド」というホルモンを分泌し、余計な水分を体の外に出そうとするのです。


なお、一日(24時間)に作られる尿量のうち、夜間(就寝中)に作られる量が、65歳以上の場合は3分の1(33%)以上、若年者では5分の1(20%)を超える場合、夜間多尿であるとされています。


■少ない尿量でも尿意を感じてしまう


②の「膀胱畜尿障害」は、膀胱に十分に尿をためることができない状態のことです。


膀胱は骨盤内にある臓器で、腎臓とは尿管でつながっています。腎臓は、細胞の活動の結果生じた老廃物や、体内の余計な塩分などを排出するため、尿を作って膀胱に送り、膀胱にある程度の量の尿がたまると、尿意を感じるようになっています。


写真=iStock.com/bymuratdeniz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bymuratdeniz

膀胱は、尿がたまるまでは風船のように膨らみ、十分にたまったら、収縮して尿を排出します。


通常は200mLほど尿がたまったところで尿意を感じ始め、400mLほどたまってから排尿するのですが、何らかの原因で膀胱畜尿障害になると、膀胱に十分に尿をためることができず、少ない尿量でも尿意を感じてしまうのです。


原因としては、出産や手術、病気、けがなどが挙げられますが、特に多いのが、加齢に伴う「過活動膀胱」や「前立腺肥大症」です。


過活動膀胱は、性別にかかわらず発生する症状です。歳をとると、血管が老化し、血流が悪くなります。すると、膀胱にも、細胞の活動に必要な栄養や酸素が行き渡らなくなり、膀胱のしなやかさや弾力性が失われてしまいます。


■男性特有の病気である恐れがある


さらに、血流が悪くなると、膀胱壁の神経がダメージを受け、排尿筋も過活動になります。その結果、膀胱に十分に尿をためられなくなり、かつ膀胱が過敏に反応して、少ない尿量でも尿意を感じてしまうのです。


加齢によって骨盤底筋が衰え、骨盤の上にある臓器を支えられなくなることも、過活動膀胱の原因となります。臓器が下垂して膀胱や尿道を圧迫し、尿意を感じやすくなるのです。


一方、前立腺肥大症は、男性特有の病気です。前立腺は、膀胱のすぐ下に、尿道を取り囲むように存在している、クルミのような形をした器官で、生殖に関わる働きや排尿をコントロールする働きがあります。


この前立腺が何らかの原因で肥大すると、尿道が圧迫され、ちょっとした刺激で尿意を感じたり、きちんと排尿ができず、残尿が生じてしまったりするのです。


原因は、まだ完全に明らかになってはいませんが、加齢に伴うテストステロンの分泌量の低下が、前立腺肥大を招いているのではないかと考えられています。


■睡眠障害で夜間頻尿になり、眠りがさらに浅くなる悪循環


最後に、③の「睡眠障害」についてお話ししましょう。


「寝つきが悪い」「熟睡できない」「夜中に目が覚めてしまう」など、睡眠に関する悩みを抱えている高齢者は少なくありません。


本書(第5章)でお伝えしたように、人間の睡眠のリズムにはメラトニンというホルモンが大きく関わっていますが、メラトニンの分泌量は、子どものころをピークに徐々に減っていき、高齢者の体内ではわずかな量しか作られません。そのため、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなり、ちょっとしたことで目が覚めたりするようになります。


さらに、高齢になり、社会活動から遠ざかると、日中の活動量が低下するため、体が必要とする睡眠の量が減りますし、狭心症や関節リウマチなど、高齢者がかかりやすい病気からくる痛みや辛さも睡眠を妨げます。


こうした原因で夜中に目が覚めたときに、たまたま尿意を感じた結果、尿意で目が覚めたと錯覚し、「目が覚めたときにトイレに行く」ことが習慣化して、夜間頻尿になることが少なくありません。


そして、睡眠障害が原因で夜間頻尿になり、眠りがさらに浅くなるという悪循環に陥ってしまうのです。


写真=iStock.com/Tzido
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■糖尿病の人、高血圧の人、太っている人は要注意


ほかに、睡眠時無呼吸症候群から夜間頻尿になることもあります。「睡眠時無呼吸」とは、睡眠中に呼吸が10秒以上止まる状態のことであり、1時間当たり5回以上の無呼吸や、呼吸が弱くなる低呼吸が発生していると、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。


糖尿病の人や高血圧の人、太っている人などは、睡眠時無呼吸症候群になりやすい傾向があります。


睡眠中の体内では、通常は、体を休息モードにする副交感神経が優位になっています。副交感神経が優位なとき、私たちは尿意を感じにくくなります。健康なときや若いとき、昼間に比べて、夜間にトイレに行くことが少ないのはそのためです。


ところが、睡眠時無呼吸症候群になると、無呼吸状態のときに血液中の酸素濃度が低下し、血圧や心拍数が上昇します。すると、体を緊張させる交感神経が優位になり、膀胱が収縮して、尿意を感じやすくなってしまうのです。


■寝る前の習慣を見直すことで、夜間頻尿は改善できる


多くの場合、夜間頻尿は、自然に治ることは期待できません。


たまたま寝る前に水分を摂りすぎた日だけ、夜中に何度かトイレに行きたくなるという人や、夜中にトイレで1〜2回起きても、その後熟睡できるため、生活に支障がないという人はあまり心配しなくても大丈夫ですが、毎晩必ず2回以上目が覚めてしまい、睡眠不足になったりストレスがたまったりしているという人は、改善のための対策をとる必要があります。


薬を使った治療も有効ですが、寝る前の習慣を見直すことで、夜間頻尿が改善することもあります。


ここでは、特に気をつけていただきたいポイントのみ、いくつかご紹介しましょう。


■「水分をたくさん摂ると健康になる」に医学的な根拠はない


近年、よく耳にするのが「高齢者はできるだけたくさん水分を摂ったほうがいい」「夜、寝る前に水分をたくさん摂ると、血液がサラサラになり、寝ている間の脳梗塞や心筋梗塞などを予防できる」といった情報です。


しかし、医学的には、「寝る前に水分をたくさん摂ることで、夜間や早朝の脳梗塞や心筋梗塞などを予防できる」とは証明されていません。


もちろん、体にとって水分は大事です。極端に水分摂取量を減らすと、たしかに、脱水症状や熱中症などを引き起こし、ひどくなると、循環不全や心筋梗塞、脳梗塞などのリスクも出てきます。


ただ、何事もバランスが大事です。当然のことながら、水をたくさん飲めば、その分、尿の量も増えます。寝る前に水分を摂りすぎることによって夜間頻尿になるケースも、実は少なくないのです。


また、寝る前だけたくさん摂るのではなく、朝から夜までの間に、こまめに水分補給をしてください。なお、温かい飲みものと冷たい飲みものとでは、冷たい飲みもののほうが体が冷え、膀胱の筋肉が縮んで、尿意を感じやすくなります。


夜間頻尿に悩んでいる人は、できるだけ温かい飲みものを口にするようにしましょう。


■寝る前のカフェイン、アルコール、塩分はNG


寝る前には、できるだけカフェインやアルコールを摂らないようにしましょう。カフェインには利尿作用があるからです。高齢者が好きな緑茶、特に玉露には、コーヒーの2倍以上のカフェインが含まれています。



平澤精一『老化を「栄養」で食い止める 70歳からの栄養学』(アスコム)

寝る前にどうしてもお茶が飲みたくなったときは、カフェインがほとんど、もしくはまったく含まれていない煎茶やウーロン茶、麦茶、ハーブティーなどを飲むようにしましょう。


アルコールにも利尿作用がありますが、中でも、新陳代謝を促すカリウムが含まれているビールや赤ワイン、紹興酒などを飲むと、頻尿になりやすくなります。


しかもビールは水などに比べ、10倍の速さで尿を作るといわれており、体外に水分が排出されると、体は脱水状態になるのを防ぐため、さらに水分が欲しくなるという悪循環に陥ります。夜間頻尿が気になる方は、寝る前のお酒はできるだけ控えるようにしましょう。


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平澤 精一(ひらさわ・せいいち)
医師 テストステロン治療認定医
日本医科大学卒業。日本医科大学大学院医学研究科にて、医学博士号取得。日本医科大学付属病院、三井記念病院などの勤務を経て、1992年に「マイシティクリニック」を開業。現在では新宿区医師会会長をつとめ、東京都医師会、新宿区医歯薬会、新宿医療行政関連の委員、役員を兼任。所属学会・医学会は日本泌尿器科学会、日本メンズヘルス医学会等多数。健康寿命に深くかかわる「テストステロン」の研究者として、「男性更年期障害」の治療、高齢者の健康を守る取り組みを数多く実践。著書に『60代からの最高の体調 ミネラル・ホルモンで「老いない体」を手に入れる』がある。
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(医師 テストステロン治療認定医 平澤 精一)

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