「インテル入ってる」だけで売れた時代はもう終わり…半導体の絶対王者が「台湾TSMC頼み」に陥っている大異変

2024年2月5日(月)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JHVEPhoto

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■インテルの業績から読み解く「半導体の二極化」


生成AI(人工知能)の登場をきっかけに、世界の半導体産業に大きな構造変化がみられる。これまで、スマホやPCの飽和感などから、汎用性の高い半導体の市況の低迷が続いてきた。その一方で、生成AI関連の精度の高い半導体に対する需要が急増している。そうした動きに伴って、世界の半導体産業に顕著な二極分化がみられるのである。


台湾積体電路製造(TSMC)など、最先端の製造技術を用いて“画像処理半導体(GPU=グラフィックス・プロセッシング・ユニット)”などの急速な需要増加に対応できる企業の業績は好調を維持しているのに対し、精度が相対的に低く汎用性の高い半導体の割合が多い企業の業績は低迷から抜け出せない。


個別半導体企業の事業ポートフォリオレベルでも、明確な二極分化が起きているようだ。その一例はインテルだろう。同社は昨年10〜12月期、“生成AI”に対応したパソコン向けのCPU(中央演算装置)需要でインテルの最終損益は26億6900万ドル(1ドル=148円換算で約3950億円)の黒字だったものの、それ以外の分野の収益は停滞気味だ。


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■AIの普及で対応パソコンの需要は盛り上がったが…


今後、世界全体で加速度的に生成AIの利用範囲は拡大する。より高性能なGPUやメモリーチップに対する需要は堅調を維持するだろう。そのため、より高度な半導体製造装置や部材需要は高まるはずだ。最先端分野での需要をいかに取り込むか、これまで以上に成長戦略を強化する必要がある。それができる企業と難しい企業の優劣の差は、一段と鮮明になるはずだ。


昨年10月〜12月期、生成AIの急速な普及に引っ張られ、米国のインテルの営業損益は黒字に転換した。同社の主な事業領域は、“パソコン”、“データセンターおよびAI”、“エッジコンピューティング(ネットワーク末端のIoT機器などで一部のデータ処理を行いシステム負荷の軽減などを行う事業)”、“モービルアイ(自動運転技術開発関連)”、“インテル・ファウンドリ・サービス(受託製造)”の5つ。


10月〜12月期はパソコン事業が収益を支えた。現在、産業分野からアカデミズム、安全保障など生成AIを使う範囲は次から次に広がっている。それをきっかけに、パソコン市場に変化が表れた。AIソフトを搭載したPC=AIパソコン出現である。それに伴い、PC向け半導体の需要が盛り上がった。


■先端分野ではいまだにTSMCの技術頼み


マイクロソフトは“ウィンドウズ11”をアップデートし、生成AIを用いた支援機能“コパイロット(Copilot)”を搭載した。“ウィンテル”と呼ばれ、マイクロソフトのOSを支えるインテルの新型CPU(中央演算装置)の需要は持ち直した。パソコン関連分野の営業利益は28億8800万ドル(約4274億円)。事実上、10月〜12月期の営業利益(25億8500万ドル)を支えた。


一方、パソコン以外の半導体事業は赤字が目立つ。旧世代の製造技術を用いて汎用型のチップを製造するファウンドリー事業は厳しい。2023年、同事業は4億8200万ドル(約713億円)の営業赤字を計上した。2022年から営業赤字は拡大した。


2016年、インテルは回路線幅14ナノメートル(ナノメートルは10億分の1メートル)から、10ナノメートルへの移行を計画通り進められなかった。その後、インテルは先端分野でTSMCの製造技術に頼り、旧世代の製造ラインを用いて車載用などのチップを受託製造する戦略をとった。


決算資料を見る限り、明確な成果はまだ読み取れない。生成AI利用に伴うデータセンター向けのGPU需要の急増などにもインテルは乗り遅れた。


■先端チップ分野ではTSMCの独走が続く


先端分野で収益は伸び、汎用型の製品やサービスの需要は停滞気味。インテルの収益状況は、二極分化が進む世界全体の半導体関連産業の縮図にも見える。


ファウンドリー分野では、エヌビディアが設計・開発する、画像処理半導体の製造をTSMCが受託した。GPUの供給は需要に追い付いていない。価格帯の高い製品の出荷増で、TSMCの業績は回復した。先端チップ製造に関して、TSMCの独走は一段と強まっているようだ。


それと対照的に、韓国サムスン電子の業績回復は遅れた。ファウンドリー事業で、先端チップの良品率向上に時間がかかった。また、中国のファウンドリーである中芯国際集成電路製造(SMIC)は、米国の制裁強化などで微細化が遅れた。現在、SMICは5ナノメートルの回路線幅のロジック半導体の製造を実現できないと報じられた。米国のファウンドリーであるグローバルファウンドリーズも、業績不透明感は強い。


メモリー分野でも二極分化が進む。SKハイニックスは、生成AIに対応した広帯域幅メモリー(HBM)を競合他社に先駆けて投入し業績は回復した。米国のマイクロン・テクノロジーも、AIに対応した処理能力の高いメモリーを投入した。家電事業も運営するサムスン電子は、そうした先端分野の変化への対応がやや遅れた。


■半導体装置メーカーも明暗が分かれる


汎用型の半導体メーカーでは、米テキサス・インスツルメンツ(TI)の業績懸念が高まった。産業機械や自動車向けのチップの需要回復に時間がかかる。一方、独インフィニオンはパワー半導体など需要の高まる分野で製造技術を磨き、事業運営の効率性を引き上げている。


半導体製造装置メーカーでは、オランダASMLの収益が拡大した。米国の対中半導体輸出規制の強化、中国経済の低迷が鮮明にもかかわらず、同社の受注は過去最高を更新した。ASMLは世界で唯一、極端紫外線(EUV)を用いた露光装置を供給する。生成AIの利用で新型のGPU、CPU、メモリーデバイスの需要が増加したことは大きい。


写真=iStock.com/katerinasergeevna
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一方、中国の半導体製造装置メーカーの業況は厳しい。不動産バブル崩壊による中国経済の低迷に加え、米国が日蘭と協力して対中制裁を強化したことは重要だ。


■長らく君臨してきたインテルは生き残れるのか


短中期的に、生成AIは世界全体の産業活動を押し上げる。先端分野の需要をより効率的に獲得すべく、他社との関係強化などを急ぐ企業は増える。先端と汎用型での需要の強弱など、半導体関連企業の優勝劣敗は鮮明化するだろう。業界再編など、半導体関連分野の構図が大きく変化する展開も想定される。


足許、インテルはTSMCに3ナノメートルのCPU、GPUの製造委託を増やすとみられる。今年、インテルは、パソコン搭載のAI対応チップの供給を一段と強化する方針だ。エヌビディアやAMD自前でAI対応チップの設計開発を進めるマイクロソフトなどへの対抗意識はかなり高いとみられる。


インテルは、台湾の聯華電子(UMC、世界第4位のファウンドリー)との提携も発表した。UMCから回路線幅12ナノメートルの製造技術の習得を目指す。ファウンドリー事業の強化だけでなく、インテルはTSMCとの分業体制を検討しているとみられる。TSMCにとっても、先端分野の製造に集中できたほうが事業運営の効率性は高めやすい。


■今後の半導体業界は合従連衡が進むか


メモリー半導体分野の変化も加速した。キオクシアとの経営統合が実現しなかった米ウエスタンデジタルは、市況の回復が遅れるフラッシュメモリー事業と、ハードディスク(HDD)事業を分割する。分業の強化で、生成AIなど最先端分野の変化に対応しやすくなる。


先端分野で成長する企業の増加で、半導体、製造装置など関連企業の業績の明暗はより克明になるだろう。業績回復が遅れる企業は、他社に買収される可能性は増す。分社化や競合他社との提携によって、ビジネスモデルを組み替える企業も増える。


当面、生成AIの利用は加速度的に広がる。対応が遅れた企業は挽回することが難しくなり、かなり厳しい収益状況に直面する恐れもある。半導体分野での二極分化はこれまで以上に鮮明化する可能性が高い。


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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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