誰も住まない住居5000万軒…経済がイカれた中国・習近平政権が不満爆発の国民対策のためにする日本への暴挙

2024年2月15日(木)11時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CHUNYIP WONG

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中国は不動産関連の価格下落が顕著で、株式市況は軟化。上場する民間企業の株式時価総額は2年半前の6割減だ。経営コンサルタントの小宮一慶さんは「多民族国家で貧富の格差をはらんだ難しい政策運営を、経済成長を求心力にして維持してきた中国だが、景気低迷によりフィリピン、台湾、そして日本への対外進出や圧力を強めるだろう」という——。
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■経済の体温計が異常値を示す中国経済


消費者物価上昇率(インフレ率)は「経済の体温計」と呼ばれます。図表1は、中国、日本、米国、ユーロ圏、台湾、韓国の上昇率です。一目見ただけで、中国だけが異常値だということが分かります。極めて低いのです。


米国は3%台、日本とユーロ圏(通貨ユーロを使っている国20カ国)、台湾、韓国は2%台ですが、中国だけが、ここ半年ほどはゼロかマイナスという状況です。どう考えても異常です。


日本ではコロナがほぼ収束に向かっていることもあり、インバウンドの観光客がコロナ前の2019年並みに回復していますが、その中で団体客が来ない中国人だけはコロナ前の水準を大きく割り込んでいます。中国政府などの意向もありますが、経済が悪いことも一つの要因です。


私の会社がコンサルティングしている顧客の中には中国でビジネスを行っている会社も少なくありませんが、一部の企業の中国関連では、このところの収益が以前ほどではないところも出てきています。


中国経済がおかしいのです。


■不動産バブル崩壊


最近、香港の高等法院(高裁)が、中国不動産大手の恒大集団の法的整理を決定しました。恒大集団は2021年にデフォルト(債務不履行)を宣告されていましたが、「債務弁済が不能な状態は議論の余地がない」として清算命令を出したのです。


米国の投資家などが、中国本土ではなく、比較的裁判プロセスに透明性の高い香港を選んで提訴したことをうけたものでした。恒大集団は2023年6月末時点で2兆3882億元(約49兆円)の負債を抱え、6442億元の債務超過の状態でした。


中国ではこのところ不動産価格の下落が顕著です。GDPの30%程度を不動産関連が占めているとも言われていますが、不動産不況に陥ったことが、景気の低迷をもたらしています。


そのこともあって、中国の株式市況は軟化しています。とくに上場している民間企業の株式時価総額は2年半前と比べてなんと6割減です。中国では国有企業や国家が関与している企業の比率が上場企業でも高いのですが、それを除いた民間企業の株価は大きく下げているのです。


■「共同富裕」のジレンマ


不動産市況が軟調になったのには理由があります。習近平国家主席が「共同富裕」を唱えたことが大きく関係しています。1970年代後半の鄧小平氏による「改革開放路線」により、中国経済は90年代あたりから急速に成長しました。それにより、富裕層も増大したのですが、弊害として貧富の差が激しくなりました。


中国は56の民族からなる多民族国家で、全人口の9割強が漢民族という複雑な国家です。新疆ウイグル自治区やチベット自治区、内モンゴル自治区では、厳しい思想統制や中国化のための弾圧も行われています。そのような状況で、成長のひずみとして都市部と農村部、漢民族と他民族との間での格差も広がりました。


中国政府にとっては、「共産党一党独裁体制の維持」が大きな政策目的ですから、経済格差は非常に大きな問題を生む可能性があるのです。そんな状況で習近平氏は、腐敗撲滅とともに共同富裕を打ち出したのです。


写真=iStock.com/mtcurado
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具体的な政策としては、一人っ子政策で富裕層は子供の塾に月に数十万円をかけるというようなことが起こっていたのですが、塾に対する規制の強化などを打ち出しました。そして、その政策の一環として、不動産の保有が貧富の格差を拡大しているということも大きく、不動産部門への融資を絞るなどの政策をとったのです。


中国では、かつての日本のように、不動産を保有していれば、将来は必ず値上がりするというような感覚が生まれ、富裕層は、自分で住む以外の不動産を保有するようになり、それがさらに貧富の差を拡大したのです。また、不動産事業を行う経営者が、恒大はじめ中国有数の金持ちともなりました。


いまでは、人の住まない住居が5000万軒あると言われています。それらの不動産価格が下がり始めたのです。


■シャドーバンキングの行き詰まり


不動産不況だけなら、問題はシンプルかもしれませんが、バブル崩壊の気配が見え隠れしています。中国では、土地は国が保有しています。地方政府はその土地を貸し出すことで収入を得ているのですが、開発が進めば、その分、地方政府の土地の賃料収入が増えるという構図となっています。そのため地方政府自身も開発に大きく関与しました。


開発業者や地方政府には資金が必要ですが、そこで登場したのが「融資平台」と言われる仕組みです。「シャドーバンキング」とも言われるものです。地方政府は通常は中央政府が認めた債券を発行して資金調達を行いますが、別動隊として銀行とはまた違う融資平台を活用して資金調達や資金供給をしてきました。


これも不動産価格の右肩上がりを前提としていましたが、恒大などの破綻や不動産価格の下落でそのシャドーバンキングで調達した資金が、不良債権化するリスクがあるのです。「シャドー」ですから、正確な金額の推計は難しいのですが、一説にはその額は2000兆円程度と言われています。


1990年代に日本のバブルが崩壊しましたが、その際に銀行の不良債権は約100兆円と言われました。その後の日本の金融危機や低迷具合を見れば、100兆円の不良債権処理のインパクトはすさまじいものでしたが、2000兆円全額でないにしても、中国で不動産バブルが崩壊すれば、そのインパクトは想像を絶するものとなる可能性があるのです。


■対外的に圧力


そういう状況のもと、先に述べたように、香港で恒大集団に対する法的整理命令が出たのです。恒大だけでなく、大手不動産会社は同様の危機に瀕しています。こういった状況で、中国政府の出方に注目が集まります。


もし、不動産バブル崩壊となれば、大きな衝撃が中国経済に及ぶことは間違いがありません。そうした意味では、中国政府としては、恒大集団などを延命させる措置を取る可能性があります。


しかし「共同富裕」を大命題としている習近平政権にとっては、ある意味政策矛盾となる可能性もあります。富裕層を優遇することとなりかねないからです。難しい選択を迫られるわけですが、いずれにしても経済が低迷していることは間違いありません。


もちろん、中国政府も景気浮揚策を模索していますが、今のところは効果が薄く、先に述べたように、物価の下落や株価低迷にさらされています(この原稿を書いているときに1月の中国の物価が発表され、図表1にもあるように前年比でマイナス0.8%でした)。


こういう状況で懸念されていることは、中国が対外的活動に活路を見出そうとすることです。これまでは、多民族国家での貧富の格差をはらんだ難しい政策運営を、経済成長を求心力とすることでなんとか国家を維持してきたのですが、経済成長がおぼつかないとなると、他の求心力を求めることとなります。国民が政権を支持し、大きな不満を持たないようにする手立てが必要になるのです。


それが「対外進出」です。以前から、南沙諸島での問題でフィリピンとの軋轢が生じていますが、台湾への圧力がさらに強まることは容易に想像できます。沖縄の尖閣諸島をめぐっても日本は今度さらに神経をすり減らされるケースが増えるかもしれません。


写真=iStock.com/IgorSPb
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習近平氏にとって台湾統一は悲願で、「武力行使も辞さない」とまで述べていますが、反中国派の頼清徳氏が新総統に選ばれたことから、さらに台湾に対する圧力が高まることとなります。


中国による武力行使は米国の介入を招く可能性があり、中国政府としては慎重にならざるをえませんが、経済の低迷が続く、あるいは、不動産バブルが崩壊するということになれば、海外に活路を見出す動きを活発化させるおそれは十分にあります。


台湾有事となれば、日本も経済的にも軍事的にも巻き込まれる可能性は低くはありません。今後の中国経済や習政権の動きに注意が必要です。


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小宮 一慶(こみや・かずよし)
小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)

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