このままでは「武器輸出の全面解禁」になりかねない…政府・自民党が突き進む「令和のゼロ戦」開発の大きな代償

2024年2月19日(月)7時15分 プレジデント社

防衛省が開発を目指す次期戦闘機のイメージ図 次期戦闘機の画像はあくまでイメージであり、最終的に決定されたものではありません。 - 写真=防衛省提供

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■自衛隊の「次期戦闘機」に暗雲


英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の輸出解禁をめぐり、公明党が慎重な姿勢に転じ、自民党との協議が続いている。


防衛省は2月中に決着しなければ英伊に後れを取り、日本が不利になると主張するが、昨年暮れには共同開発を担う新たな国際機関(GIGO)の本部を英国に置くことが決まり、早くも英国の先行を許した。輸出解禁を急ぐのも交渉上手な英国に乗せられたともいえる。


次期戦闘機は航空自衛隊のF2戦闘機の後継にあたる。


写真=防衛省提供
防衛省が開発を目指す次期戦闘機のイメージ図 次期戦闘機の画像はあくまでイメージであり、最終的に決定されたものではありません。 - 写真=防衛省提供

防衛省は当初、米国との共同開発を計画していたが、米政府との交渉が不調に終わり、断念した。米側の開発企業「ロッキード・マーチン」が最新技術の供与に反対し、米国防総省も秘密保持の観点からロ社の意向を尊重した。


これまで日本独自の戦闘機開発を妨害し、最低でも米国と共同開発するよう迫ってきた米国の様変わりに身構えてきた防衛省や開発企業「三菱重工業」の担当者らは拍子抜けした。


■防衛省が目指している「令和のゼロ戦」の開発


最先端技術の固まりとされる戦闘機は1カ国での開発は技術、費用の両面で困難になりつつある。


次なるパートナー国を探していた防衛省は2022年1月から、英政府との間でエンジンの実証事業を開始。同年12月、日英伊3カ国首脳は共同声明を発出し、2035年までに次世代戦闘機を共同開発する「グローバル戦闘航空プログラム」(GCAP)を発表した。


英国の主契約企業は欧州各国が採用する戦闘機「ユーロファイター」を開発した「BAEシステムズ」だ。これにエンジン担当の「ロールス・ロイス」とミサイル担当の「MBDA」が加わり、イタリアは航空・防衛大手の「レオナルド」が参加する。


これらの企業はユーロファイターが退役を始める2036年をメドに次期戦闘機「テンペスト」の開発に取り組んでおり、航空自衛隊のF2戦闘機の退役に合わせて次期戦闘機の研究を始めた日本側と行程が一致した。


F2戦闘機(主要装備 F-2A/B)出典=航空自衛隊〔JASDF〕オフィシャルサイトより

防衛省が次期戦闘機に求めるコンセプトは、①量に勝る敵に対する高度ネットワーク戦闘、②優れたステルス性、③敵機の捜索・探知に不可欠な高度なセンシング技術、の3点を併せ持つ機体とすること。


資料には「このような戦い方を可能とする戦闘機は存在しない」と異なる字体で大きく書かれ、防衛省が本気で「令和のゼロ戦」の開発を目指していることがわかる。


出典=防衛省・自衛隊「次期戦闘機の開発について」より

■日英の方向性は重なっていたが…


「高度ネットワーク戦闘」は、大容量高速ネットワークを駆使して敵の情報を味方同士で共有する。特徴的なのは無人機との連携だ。


無人機は戦闘機のパイロットが操作して複数の機体を同時に飛ばし、戦闘機と無人機の編隊を構成する。無人機から得られた情報を戦闘機が統合して活用する。有人機と無人機がワンチームとなることから「チーミング」と呼ばれ、人的資源が節約できる一方で対処力は強化される。


すでに中国やロシアは戦闘機と連携する無人機の開発を進めている。数的に有利な中ロでさえ導入する技術を戦闘機数で劣る自衛隊が導入するのは必然といえる。英国のテンペストもレーダーに映りにくいステルス性や無人機との連携を想定しており、この点でも日英の方向性は重なった。


だが、この後、暗雲が漂い始める。


英国側は、共同開発の割合を6:4、もしくは半々とすることを主張し始めた。この割合は開発にとどまらず、生産時の分担割合にも反映される可能性が高い。日英双方にとって持ち出すカネは少ない方がありがたいに決まっているが、英国は日本側の負担をより重い6割にしたいというのだ。


■日本の技術を当てにする英国の厚かましさ


英国のテンペストは構想段階だったが、日本が次期戦闘機へ向けて開発した先進技術実証機「X2」は実際に製造され、テスト飛行にも成功している。ステルス機を日本が製造できることを文字通り、実証した。その意味では日本は英国より一歩も二歩も進んでいる。その日本の技術を利用したい割には言うことは厚かましいのだ。


写真=UK MoD
BAEシステムズなどが開発を進める戦闘機「テンペスト」 - 写真=UK MoD

防衛省は独自開発した場合の経費を1兆4000億円と見積もった。高いと批判されたF2戦闘機の開発費の実に4倍以上にもなる。ただし、共同開発となれば、1兆円程度まで削減できる見通しが出てくる。


日英伊3カ国の防衛相は昨年12月、共同開発を実現するための新たな国際機関「GIGO」を設立する合意文書に署名した。


出典=防衛省・自衛隊「次期戦闘機の開発について」より

注目すべきは、本部を英国に置くと決まったことだ。英側関係者による接触が容易になる一方、飛行機で半日以上かかる日本にとって極めて不都合だ。主導権を英国に握られかねない体制といえる。


GIGOの代表は日本政府から出すことになり、英語が堪能な岡真臣元防衛審議官の就任が有力視される。温厚な人柄で人望も厚いが相手は百戦錬磨のジェントルマン達である。かの地にあって日本側の意向を通すのは容易ではない。


話は脇に逸れるが、英国は現在も続くイスラエルとパレスチナとの問題をつくり出した元凶とされる。第1次世界大戦の最中、戦況を有利に運ぼうとアラブ人、ユダヤ人、フランスとそれぞれ異なる協定を結んだ「3枚舌外交」で知られる。巧みな交渉術といえばそれまでだが、自分勝手な主張を通そうとする国だと警戒して向き合う必要がある。


■防衛省は「主導権を失いかねない」と危機感を募らせる


自民党が公明党に対し、2月末を期限として武器輸出を一部解禁した「防衛装備移転三原則」の見直しを迫るのは、3カ国による分担割合の協議がこの春から始まるからだ。


防衛省が先月、自民党国防部会・安全保障調査会の合同会議に提出した文書には「対等のパートナーとして輸出にかかわる努力をしない日本の意思は、英伊から軽んじられ、実質的に英伊中心に移転先が選定されていく恐れもある」と主導権を失いかねない危機感が記されている。


さらに「輸出も含めた各国のコスト面、技術面での貢献度合いは作業分担に大きく影響する」とし、「現時点で我が国からも完成品を直接移転できる枠組みを整えておかなければ、効果的・効率的な防衛力整備にも支障をきたす恐れがあり国益に反する」とあり、輸出解禁を「国益」として決断を迫っている。


防衛省関係者は「現段階でも英国に主導権を握られている証拠。担当者は『協議開始の時期に合わせて政治判断を求めたまで』と言うだろうが、英国に急かされ、無意識のうちに国内の問題にすり替えている。技術面の優位性を生かしきれていない」と指摘する。


写真=防衛装備庁(航空自衛隊撮影)
X-2(先進技術実証機) - 写真=防衛装備庁(航空自衛隊撮影)

■公明党が慎重姿勢に転じる


「防衛装備移転三原則」の見直しをめぐり、自民党と公明党は国内でライセンス生産した武器について、ライセンス元国への輸出を認めることで昨年中に合意したが、次期戦闘機の輸出をめぐっては昨年11月、公明党が慎重な姿勢に転じた。


公明党の山口那津男代表は昨年12月22日の会見で、輸出解禁について「もっと原点に戻って議論する必要がある。2月にとらわれる必要はない」と述べて慎重に対応する考えを示した。


自公の実務者協議は昨年7月、「第三国にも直接移転できるようにする方向で議論するべきだという意見が大宗を占めた」との中間報告書をまとめていたが、公明党が考えを変えた。


昨年11月といえば、公明党の支持母体・創価学会の池田大作名誉会長が死去した時期と重なる。「名誉会長のため」として選挙を頑張ってきた実働部隊である会員へのいっそうの配慮が必要になり、これまでのように自民党の右旋回した政策に追従するだけでは収まらないと判断、「平和の党」への原点回帰を図ったとみられる。


■既成事実を積み上げるより前にやるべきことがある


防衛省は国会提出した2024年度防衛予算案の中で次期戦闘機の開発に640億円、連携する無人機の研究に48億円、そしてGIGOへの拠出金として42億円を計上した。輸出の可否は決まらないまま、既成事実化がすすむ。


防衛省と英国防省との間では次期戦闘機の輸出について、欧州では英国が、またアジア各国に対しては日本が輸出することで内々に合意しているという。1機200億円以上ともいわれる次期戦闘機の輸出は低迷する国内産業の活性化にもつながるため政府・自民党とも簡単には譲れない。


公明党が折れて輸出可能となっても、上から目線の英国がいる。防衛省が考えるコンセプトが通るのか、開発や生産の割合がどうなるのか、いずれもタフな議論の末に見えてくる。


ただ、これだけは言える。武器輸出大国でもある英国やイタリアと共同開発すれば、両国からの圧力によって武器輸出の解禁を迫られることは最初からわかっていた話である。それでも議論を進めて後戻りできないところまで来たのは、この機会に武器輸出の全面的な解禁を狙っていたとしか考えようがない。


© Eurofighter Jagdflugzeug GmbH
ユーロファイター・タイフーン - © Eurofighter Jagdflugzeug GmbH

山口氏は13日、岸田文雄首相との定期会談後、記者団に「国民に分かりやすく説明し、理解を求めることが重要。今はそこに至っていない」と述べた。その指摘は正しい。


既成事実を積み上げるより前に、国民への説明責任を果たさなくてはならない。


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半田 滋(はんだ・しげる)
防衛ジャーナリスト
1955年(昭和30)年栃木県宇都宮市生まれ。防衛ジャーナリスト。元東京新聞論説兼編集委員。獨協大学非常勤講師。法政大学兼任講師。海上保安庁政策アドバイザー。下野新聞社を経て、91年中日新聞社入社、東京新聞編集局社会部記者を経て、2007年8月より編集委員。11年1月より論説委員兼務。1993年防衛庁防衛研究所特別課程修了。92年より防衛庁取材を担当。04年中国が東シナ海の日中中間線付近に建設を開始した春暁ガス田群をスクープした。07年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞。著書に、「台湾侵攻に巻き込まれる日本 安倍政治の『後継者』、岸田首相の敵基地攻撃と防衛費倍増の真実」(あけび書房)、「戦争と平和の船、ナッチャン」(講談社)、「変貌する日本の安全保障」(弓立社)、「安保法制下で進む! 先制攻撃できる自衛隊—新防衛大綱・中期防がもたらすもの」(あけび書房)、「検証 自衛隊・南スーダンPKO−融解するシビリアン・コントロール」(岩波書店)、「『北朝鮮の脅威』のカラクリ」(岩波ブックレット)、「零戦パイロットからの遺言−原田要が空から見た戦争」(講談社)、「日本は戦争をするのか−集団的自衛権と自衛隊」(岩波新書)、「僕たちの国の自衛隊に21の質問」(講談社)、「集団的自衛権のトリックと安倍改憲」(高文研)、「改憲と国防」(共著、旬報社)、「『戦地』派遣 変わる自衛隊」(岩波新書)=09年度日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞受賞、「自衛隊vs北朝鮮」(新潮新書)、「闘えない軍隊」(講談社+α新書)などがある。
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(防衛ジャーナリスト 半田 滋)

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