「ローソンと合併すれば強大な企業連合が誕生する」楽天が赤字決算を発表したら株価が急上昇した"意外な背景"

2024年2月20日(火)11時15分 プレジデント社

2023年8月2日、4年ぶりに会場で開催された「Rakuten Optimism2023」で基調講演をする楽天グループの三木谷浩史会長兼社長。(神奈川県横浜市のパシフィコ横浜) - 写真=時事通信フォト

写真を拡大

楽天グループの経営が苦境に立たされている。2月14日に発表した2023年12月期の連結決算で、最終損益は3394億円の赤字だった。その背景には携帯事業の苦戦がある。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「楽天モバイルが生み出す赤字で経営が傾いていることが鮮明になってきた。それでも楽天グループが携帯事業を続けるのは“やめないほうが得”だからだろう」という——。
写真=時事通信フォト
2023年8月2日、4年ぶりに会場で開催された「Rakuten Optimism2023」で基調講演をする楽天グループの三木谷浩史会長兼社長。(神奈川県横浜市のパシフィコ横浜) - 写真=時事通信フォト

■楽天グループの株は決算発表後に急上昇


楽天グループが2月14日、2023年12月期の連結決算を発表しました。最終損益は3394億円の赤字で、これは5年連続の最終赤字ということになります。そして携帯事業の営業損益は3375億円。つまりほぼほぼ楽天モバイルが生みだす赤字で経営が傾いているということが鮮明になってきています。


後述するように決算内容も、楽天モバイルのこの先の見通しについての発表も、内容自体は芳しいものではありませんでした。にもかかわらず、決算発表の翌日の楽天グループの株価は一時ストップ高。その翌日も株価は上昇し決算発表後の3日間で、楽天グループの株は25%以上も上昇しました。


発表を聞くかぎり楽天グループは携帯事業をあきらめるつもりは全くない様子です。にもかかわらず、巨額の投資が続く携帯ビジネスを抱える楽天の株を買う投資家は何を期待しているのでしょうか? そのメカニズムを解説してみたいと思います。


■赤字幅は約1400億円も縮小したが…


今回の決算発表の中でも楽天モバイルの赤字状況について詳しく見てみましょう。前期の赤字が4792億円だったところから1年間で3375億円と赤字幅は約1400億円も縮小しています。これまで巨額の赤字を生み出してきた基地局への投資が大幅に減ったのが主な原因です。今期1776億円に抑えた設備投資費用は、来期は約1000億円とさらに減る計画なので、計画通りにいけば来期の赤字額もさらに縮小することは期待できます。


とはいえ、このままいけば来期も楽天モバイルは巨額の赤字を生むことには間違いがありません。しかもその赤字幅は楽天グループの目標よりも大きくなる可能性があります。


三木谷CEOは決算発表で2024年度末までに楽天モバイルを単月で営業黒字化させる目標だと語りました。そしてその前提条件を発表したのですが、それは契約回線数が800万〜1000万回線に増え、かつARPU(契約あたりの月間収入)が2500〜3000円になることだと言うのです。


■2024年の黒字達成は非常に厳しい


現状の楽天モバイルでは契約数は609万回線、ARPUは1986円です。1年前と比べれば回線数は150万回線増えたのですが、増えた最大の要因は法人契約の増加でした。傘下の楽天市場の出店企業を中心に営業をかけ法人契約数を増やすことには成功したのですが、法人契約ユーザーの利用額が少なくなったためにARPUは逆に60円、前期比で減りました。


日本の携帯ユーザーの大半は月間のデータ利用料は20GB未満で、楽天モバイルの料金体系では月間の利用料は1980円以下になります。その前提で今期、回線数を200万回線増やしたうえにARPU全体を2500円に上げるというのは目標としては無理を感じます。論理的には2024年も楽天モバイルが単月黒字を達成するのは非常に厳しいことでしょう。


写真=iStock.com/oatawa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oatawa

その状況下で、楽天グループの経営の屋台骨を揺るがしているのは1.8兆円にのぼる有利子負債の存在です。ゼロ金利下の日本ですから金利負担自体はなんとか耐えられている一方で、スケジュールが刻一刻と近づいてくる負債の返済スケジュールが経営の大きな負担になってきています。楽天グループによれば2024年中の返済や社債の償還については資金のめどはたったというのですが、赤字のまますぐにまた2025年がやってきます。


■主力ビジネスが少しずつ切り売りされている


さらに言えば、この有利子負債の返済の原資として、楽天グループの主力ビジネスが少しずつ切り売りされています。まず楽天銀行が上場する形で外部に売りにだされ、つぎに楽天証券がみずほFGからの増資を受け入れる形で、資金と引き換えに楽天グループの持ち分が大幅に減る事態になりました。


このままいけば、楽天グループが保有する虎の子のグループ会社がつぎつぎと売りに出される事態になってもおかしくはありません。


さて、このような事態で楽天グループは何を考えているのでしょうか?


この記事の主眼はふたつあります。楽天グループがそれでも携帯事業をやめない理由はどこにあるのか? そして、このような悪い決算発表の直後に楽天の株価が25%以上も上昇した理由は何なのか? このふたつの謎を解明することです。


■中国IT大手なら喜んで楽天モバイルを買うだろう


まず最初の疑問。そもそも楽天グループは携帯事業をここでやめることはできるのでしょうか? 実はその気にさえなればやめることはできます。


やめるといっても加入者が600万もいますし、日本全国に2兆円規模の投資をして携帯電話網を構築したわけですからただやめるのは損ですよね。ですから楽天グループが携帯事業をやめる場合は、楽天モバイルを誰かに売ることになります。


その買い手ですが、おそらく探せばいます。今、日経平均が爆上げしている理由は、円安で日本企業に投資をしたい外国人投資家がたくさんいるからです。たとえば(政府が認めるかどうかは別にして)中国のアリババやテンセントに楽天モバイルの売却を持ちかけたらどうなるでしょうか。


写真=iStock.com/Robert Way
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Robert Way

今、中国は不動産バブルの崩壊で経済減速にあります。中国国内の景気が悪い中で中国のIT大手が成長しようとすれば日本市場への進出というのはひとつ、現実的かつ魅力的な分野です。日本全国に基地局インフラを持つ楽天モバイルが手に入るとしたら? わたしだったら1兆円を払ってでも手に入れたいと思います。


■いくらでも楽天モバイルの買い手はいる


中国企業がダメというのならアメリカのアマゾン、韓国のサムスンも候補にいれてもいいでしょう。どちらも1兆円など軽く捻出できるという点では日本企業をはるかに超える資金力を持っている企業体ですから。


もちろんわざわざ日本の携帯インフラを売る相手は外資だけが選択肢ではありません。日本企業が手を上げるのであればそれも当然選択肢です。ここで言いたいことは、条件次第ではいくらでも楽天モバイルの買い手はいて、決断次第では楽天グループは携帯事業を手放せるということです。


1兆円で売るというのはあくまで仮で挙げた数字ですが、そうなれば楽天はお荷物のモバイル事業から撤退することができますし、手元に残る借金は8000億円ぐらいまでは減らすことができます。そして楽天グループの他のインターネット事業、金融事業は業績絶好調ですから10年後には借金はすべて返し終わって堂々たる黒字企業へと復活できるはずです。


そのように楽天グループは「携帯ビジネスをやめる」ことはできるのです。しかしそれをやめるつもりはないというのが楽天グループ経営陣の意思のようです。


■「やめないほうが得だから」携帯ビジネスを続ける


そこで2番目の謎について考えてみましょう。なぜ楽天グループは大赤字の携帯ビジネスをやめないのでしょうか? 「それは意地だ」というのもひとつの答えですが、もうひとつの可能性として「今、やめるよりもやめないほうが得だから」というのが答えなのかもしれません。


もう一度、ここまで楽天グループに起きてきたことを整理します。2兆円規模の巨額の投資をして始めた携帯事業ですが、思ったほどには加入者が集まらない状況が続き、経営の足をひっぱるようになりました。中でも頭が痛いのが資金繰りで、このままいくと虎の子ともいえる優良グループ会社を切り売りする形でグループを縮小させていく以外に道がないかもしれないという状況に陥りました。


楽天グループの価値は楽天市場、楽天トラベル、楽天証券、楽天銀行、そして楽天カードなどそれぞれのグループ企業が好調であることに加えて、それらの事業を貫く形で楽天ポイントが生みだす巨大な楽天経済圏への魅力でした。


写真=iStock.com/nndanko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nndanko

■KDDIによるローソン買収という衝撃


その経済圏の切り売りが始まったことで楽天グループの株価は下がっていったのですが、ここで発想を180度変えるような事態が発生します。


「切り売りをするから企業価値が下がるのだけれども、全部まとめて売るのだったらむしろ企業価値はめちゃくちゃ高いのではないのか?」


という発想です。


そんなことを言っても楽天をまるまる買うなどという相手が見つかるわけがないということで、これまでそのような選択肢はありえなかったのですが、楽天の決算発表の1週間ほど前に、まったく別の場所から事態が動き始めます。


それがライバルでもあるKDDIによるローソンの買収です。コンビニ業界では長らくコンビニ3強による競争が繰り広げられ、その中から頭ひとつ抜きんでる形でセブン‐イレブンがトップの座を盤石なものとしていました。2位のファミマは伊藤忠と、3位のローソンは三菱商事とそれぞれ資本提携することで、商社が持つ物流や人材の資産を活用してそれに対抗することにしたのです。


その前提であればコンビニ業界ではそのまま従来型の競争が未来永劫(えいごう)続くことになったかもしれません。しかし業界3位のローソンの株主である三菱商事はそう考えなかったのです。記者会見で三菱商事のトップはいみじくも、三菱商事でローソンを支援する限界を表明しました。ここからさらに飛躍成長するには他のパートナーが必要だというのです。


■ローソンと楽天が合併すれば前代未聞の企業連合になる


ではKDDIがローソンの経営に加わると何が変わるのかというと、auのユーザーが生みだすGPS情報とローソンの利用者が生みだす利用データというふたつのビッグデータが融合されるのです。KDDI自体が巨大IT企業ですから、その巨大なビッグデータはAIによる分析が可能になります。


するとコンビニのビジネスが変わるのです。セブン‐イレブンの勝者のビジネスモデルとは、優秀な人材が商品開発をして、その売れ行きをPOSデータで分析して常に売り場に売れ筋の商品を並べ続けることなのですが、KDDIによってパワーアップされたローソンはビッグデータとAIでセブンの優位性を破壊することができるかもしれないのです。


さて、そこで楽天です。KDDIとローソンだけでも十分にセブンに対抗できそうな座組ではあるのですが、そこに楽天が加わったらどうでしょうか? さらにインターネット通販での日本最大のビッグデータ、ポイント経済圏での日本最大のビッグデータ、そしてフィンテックに関係するカード、銀行、証券子会社がすべてついてくるとしたら? つまりローソンと楽天が合併すれば日本経済史上かつてない強大な企業連合が生まれる可能性があるのです。


■投資家たちが「別の未来の可能性」に気づいた


日本の合併劇を振り返ると昭和の時代には日本製鉄と富士製鉄が合併して新日鐵が誕生したり、都市銀行が合併してメガバンクが誕生したりといったことが起きました。平成に入るとバンダイナムコや角川書店とドワンゴのようにやや違う業界同士での合併も目立つようになってきました。


その歴史線で考えると、ローソンと楽天のような完全に異業種間で、しかも1+1が5ぐらいになるような合併はこれまで日本では起きていませんでした。しかし今、その事実に投資家が気づいたというのがここわずか2週間の間に起きたことです。


付け加えると、わたしが「楽天グループをまるごと売る」といったのは実は身売りの話ではありません。同じ大きさの他の企業と合併することで企業価値を激増させるという新しい道が見つかったということを指しています。


とはいえ巨大合併の話が現実のものになるケースは歴史上は稀です。ほとんどの巨大合併話は、幻で消えていったというのも日本の経済史の史実です。


それはその通りなのですが、それでも「赤字に潰されて切り売りされて消えるだけが未来ではない」ことがわかったことは大きかったのでしょう。楽天グループの株価が一気に25%以上も上昇したことも、楽天グループがあいかわらず楽天モバイルをやめるつもりがないことも、これらの事柄から説明がつくということなのです。


----------
鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AIクソ上司」の脅威』など。
----------


(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

プレジデント社

「楽天」をもっと詳しく

「楽天」のニュース

「楽天」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ