英語が得意な小学生は破格の厚遇…中学受験で英語力競争が激化しているワケ

2024年2月22日(木)10時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

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小学校の「英語」必修化の影響で、中学受験の常識が激変。偏差値よりも英語力が重視される時代が到来しつつある。2月22日(木)発売の「プレジデント」(2024年3月15日号)の特集「『中学英語』でどんどん話す」より、記事の一部をお届けします——。
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■中学受験での英語入試の現状とは


中学受験が今、再びブームになっているのをご存じでしょうか? 私立校は未来志向のグローバル教育やコロナ禍に対応したリモート教育を取り入れるなど、教育ニーズに柔軟に対応しています。その姿勢が、子どもや保護者に高く評価されているのです。


そうした中、中学受験の新たなトレンドとして、注目を集めているのが「英語入試」。従来の中学入試科目は、国語、算数に社会、理科を加えた4科目が主流でしたが、そこに英語も入ってきたわけです。中学の英語入試を契機として今後、高校や大学も含めた受験の仕組みが激変し、進学コースや学歴ブランドの選び方も多様化するのではないかと、私は予想しています。


中学の英語入試の背景には、「小学校の英語教科化」があります。社会のグローバル化で、英語でのコミュニケーション能力が欠かせなくなり、文部科学省も英語教育の拡充に乗り出しました。とりわけ、英会話のスキルは、小学生の段階から習得したほうが向上しやすいと判断し、英会話を軸とした体験学習を、2020年度から小学校3〜6年生に義務付けたのです。


16年以降、「帰国生の特別枠」だけでなく、一般入試でも英語を選択できるようにするなど、英語入試を導入する中学が右肩上がりに増えました。首都圏には現在、約300校の私立中学がありますが、23年には、その半数近い約140校が英語入試を実施しました。中学の英語入試では、読み書き(リーディング、ライティング)だけではなく、英会話のリスニング、スピーキングも加えた4技能を試す私立中もあります。中には、英会話のみの入試を行う中学もあります。平均的な難易度は英検4〜3級相当で、さほど高いものではないことが多いです。


現状、ここ数年の中学受験では、英語入試の実施校数は伸び悩んでいます。とりわけ、首都圏では開成、麻布、武蔵の「男子御三家」をはじめ、難関校の多くが英語入試を行っていません。そのため、教育界では、「私立中学は、小学生の英語力を重視していない」との観測も広がっています。しかし、その判断は早計だと私は考えています。


私立中学の英語入試が広がっていない理由の一つに、中学受験ブームで英語を使ったブランディングをせずとも、受験者が集まることがあげられます。教員の負担を増やしてまで実施する必要がないのです。


もう一つの理由が御三家など上位校の方針。そうした私立中学は今のところ、英語入試を行わなくても、優秀な生徒を十分に集められます。また、御三家を目指す小学生は低学年から受験勉強を始めるので、「必修化されたばかりの英語を入試科目に加え、受験生に過大な負担を強いるのは好ましくない」と、上位校の多くが考えているようです。実際のところ、17年頃には開成の内部で「中学受験に英語を取り入れるとどうなるか」の議論が行われたと聞きます。あくまで、「いきなり英語入試を取り入れると混乱が生じるだろう」という判断だったようです。


■英語入試が急速に増えていく理由


中学受験では数年以内に、英語入試が一般化することが予想されます。現在、英語で受験した中学合格者は、全体の5%前後と見られていますが、その割合も急拡大するでしょう。なぜなら、中学・高校の進学先である大学が、実社会のニーズに対応するべく、「英語力の高い学生」を求めているからです。25年からは、大学入試システムも刷新され、英会話のスキルがより重視されます。私立大学は、中堅以下ほど、AO入試などで「英語」という“一芸”に秀でた学生を多く獲得し、就職実績と人気を高めようとするでしょう。


そうした大学のニーズを、私立中学・高校が見逃すはずはありません。大学から引く手あまたの英語力の高い卒業生を送り出せば、自校の進学実績もアップするからです。中長期的には、少子化が進むのは避けられません。中堅以下の中学が学校の命運を懸け、「英語力に優れた小学生の青田買い」に躍起になっても、不思議ではありません。頌栄女子学院は、帰国生など英語力の高い生徒を積極的に受け入れ、全体の学力を底上げ、大学進学実績を飛躍的に伸ばしたと言われています。


実際に、首都圏の私立中学について、23年の入試科目を調べてみると、中堅以下では、英語入試の実施校が目白押しであることがわかります。募集人数は少ないものの、「英語のみ」の入試を行う中学も約30校あります。「英検資格取得者には入試を免除する」という、特典を設けている中学も目立ちます。つまり、「英語が得意な小学生」は、破格の厚遇ぶりなのです。ほかの科目の成績が振るわなくても、英語の成績さえよければ、“合格させる”という中学もあるほどです。


英語入試を実施しているのは、中堅以下の中学ばかりではありません。例えば、慶應義塾湘南藤沢は、国語、算数、英語の選択入試を行っています。さきほど、中学受験の英語入試は平均で英検4〜3級相当のレベルとお伝えしました。英検3級であれば、「中学卒業レベル」の英語力です。ところが、慶應湘南の場合、何と大学生レベルの「英検準1級」の英語力が問われるほど、狭き門なのです。


私立大学の付属中学も続々と英語入試をスタートしており、例えば、大妻中野は、高校卒業レベルの「英検2級」でも不合格者が出るなど難関化しています。茨城県きっての進学校である江戸川学園取手は22年、全国初と言われる国語・算数・社会・理科・英語の5科目入試を始めました。


女子学院、フェリス女学院のような英語教育を強化してきたミッションスクールもやがては、中学の英語入試に踏み切る可能性があると見ています。女子校の入試ではグループワークが取り入れられることも多く、そこに英語が入ってきてもおかしくありません。


英会話力が弱いと言われてきた男子難関校も英語教育に力を入れ始めており、中学受験で英語入試を取り入れる中学が増えるでしょう。学習塾もそうした動きを見越して、小学生低学年向けの英会話スクールを開講しています。


■英語はコスパよく一発逆転を狙う手段だ


近い将来には、「抜きんでた英語4技能」のみを武器に、中学・高校入試、大学入試、就職を突破する道も、開かれるでしょう。大学は現在、国語・数学といった「総合学力の偏差値」を評価基準として、東大を頂点とするヒエラルキーを構成しています。しかし、今後は英会話やプログラミング、思考力といった、実社会のニーズが高い「特定の技能」に基づく第二、第三の評価軸ができ、教育界の勢力図も大きく塗り替えられるでしょう。小学校から英語力を鍛え、海外の有名大学やグローバル企業に進むといった、新たなエリートコースも台頭するでしょう。


中学を受験する小学生やその保護者にとって、英語入試は、一発逆転を狙える大きなチャンスでもあります。低学年から学習塾に通わなくても、さほど難しくない英語入試を突破するだけで、将来社会で必要とされる力を育てられるからです。「卒業までに英検2級クリア」を目標に掲げる中学は少なくありません。文化学園大学杉並は、決して偏差値の高い学校ではありませんが、日本とカナダの高校卒業資格が同時に取得できる「ダブルディプロマプラグラム」を採用。カナダ人教師との英会話を実践し、生徒の英語力を向上させました。同プラグラムの第1期卒業生は早慶上智のほか、海外有名大学などに進学しています。三田国際学園も、グローバルレベルの英語力が身につくと高い評価を受けています。大妻中野や共立女子は、学校ぐるみでフィリピンのオンライン教室に参加しています。


現在の偏差値や学校のブランド名にとらわれすぎずに、中学の英語カリキュラムをよく調べ、新しい選択肢を選ぶのも一つの方法でしょう。


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北 一成(きた・かずなり)
首都圏模試センター教育研究所長
1985年大手進学塾入社。広報や進学情報誌「進学レーダー」の編集などに携わる。取材等で約400の中高一貫校をのべ3000回以上訪問。2000人以上の保護者の相談を受けてきた経験を持つ。2013年より現職。
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(首都圏模試センター教育研究所長 北 一成 構成=野澤正毅)

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