プロテスト不合格は11回…女子ゴルファー笹原優美がそれでも「私はゴルフのプロ」と断言する理由

2024年2月27日(火)11時15分 プレジデント社

女子ゴルファーの笹原優美選手。TWGT(Thanks Women's Golf Tour)というミニツアーで活躍するかたわら、プロテストへの挑戦を続けている - 筆者撮影

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スポーツの世界には、アマチュア資格を失いながらもプロ認定されていない選手が多く存在する。女子ゴルファーの笹原優美選手は、プロテストに11回挑戦し、いずれも不合格。それでも笹原選手は自身を「ゴルフのプロ」と表現する。その真意を、ゴルフライターのコヤマカズヒロさんが聞いた——。(連載第1回)
筆者撮影
女子ゴルファーの笹原優美選手。TWGT(Thanks Women's Golf Tour)というミニツアーで活躍するかたわら、プロテストへの挑戦を続けている - 筆者撮影

■プロ協会の管轄外でプレーする選手たち


2018年、2019年と世界のトップティーチングプロ100選に選ばれた実績を持つ和田泰朗は、都内を中心にレッスンを展開するかたわら、TWGT(Thanks Women's Golf Tour)というミニツアーを主宰している。


国内のプロゴルフは、男子はJGTO(日本ゴルフツアー機構)、女子はJLPGA(日本女子プロゴルフ協会)という主管団体によって運営される。


ミニツアーとはそれらの管轄外で行われる試合で、トッププロたちが参戦するレギュラーツアーに出場できない選手たちが主に出場している。アメリカではこうしたミニツアーが盛んで、明日の成功を夢見てミニツアーで腕を磨く選手は多い。


和田の主宰するTWGTは、選手が1口2万円のサポーターを5人集めないと出場できないというユニークな形式を取っている。入場料として考えると2万円は高額だが、1試合とはいえ、その選手のスポンサーになれるのなら破格に安い。その収益は選手に還元され、何十人もサポーターを集める人気選手にとっては、無視できない収入となる。


和田はこの形式を通して、「プロスポーツ選手とファンとの関係性を問い直したい」のだという。


■「アマ日本一」ですら敗退するほど厳しいプロテスト


一方、JLPGAの試合に出場するためには、毎年行われるプロテストに合格して、JLPGAの会員になる必要がある。どんなに実力があってもこのプロテストを通過しないことには、高額賞金が用意された華々しいレギュラーツアーでは戦えないのだ。


近年、女子選手のレベルが上がり選手層も厚くなったことで、このプロテストを通過する難度がかなり上がっていると言われている。


毎年行われるプロテスト合格の枠は、1次予選、2次予選を勝ち抜き最終予選に進んだ選手のうち、上位20位タイまで。合格率は約3%程度で、有力選手の数に対して、枠が狭すぎるという意見もある。


例えば、2023年のプロテストではその年の日本女子アマを制した飯島早織が最終予選で涙を飲んだ。同じ年にアマチュア日本一となった選手ですら敗退するほど、女子のプロテストは狭き門になっているのだ。


TWGTは、コロナ禍の2020年にスタートした。それは試合を行うことが出来なくなった時期に、プロテスト合格を目指す女子選手たちに、なんとか試合経験を積む場を提供したいという、和田の想いからはじまっている。彼女たちは、決して恵まれた立場にいるわけではない。


■わずか一打差で◯か×に分けられる世界


「プロテストという制度は、評価の基準がひとつしかないんです。通るか通らないか。通ればその人は◯(マル)、落ちれば、その人は×(バツ)がつく。わずか一打の差であっても、合格した人と選手として不合格の選手に分けられてしまう」と和田は言う。


プロテストに挑戦した女子選手たちは、合格ラインを境に全く異なった評価を受ける。◯(マル)になれば、ツアープロとして新しい人生を歩むことが出来る。しかし、×(バツ)になれば、競技者として不合格の烙印(らくいん)を押され、それまでの努力も意味をなさないと見做されがちだ。


選手として不合格にならない方法は、自らを奮い起こして次の年にまた挑戦することだ。だから多くの選手たちは諦めず、プロゴルファーではなくアマチュアでもないという微妙な立場にいながら、挑戦を続けている。競技者として、本当に×(バツ)がつくのは、その挑戦をやめたときだからだ。


■プロテストに合格しないまま、レギュラーツアーに参戦


笹原優美は高校時代から和田の指導を受けていた、いわば愛弟子だ。1992年生まれで、2023年で11回目のプロテストを受け、残念ながら2次予選で涙をのんだ。高校卒業後の2011年に初めてのプロテストを受けてから、11度プロテストに挑戦し、すべて敗退しているのである。


しかし、プロテストの結果を見て、笹原が実力に乏しい選手だと断じてしまうのは早計だろう。2013年〜15年はプロテスト最終予選まで進出しており、15年は通過ラインまで2打差と迫っている。過去6度最終予選まで進出しており、合格まであと一歩のところに迫っているのだ。


また、2016〜17年の2年間はテストを受験せず、TPD単年登録制度を活用して、JLPGAのレギュラーツアーや2部にあたるステップ・アップ・ツアーに参戦していた。


TPD単年登録とは、プロテストに合格していない選手でも実力があればツアーに参戦できる制度だ。JLPGAツアーへの出場順は、QT(クォリファイングトーナメント)という予選会で決定する。QTで上位に入りさえすれば、TPD単年登録によってその一年をツアープロとして、JLPGAのトーナメントに参戦できる。


レギュラーツアーで21勝を挙げ、賞金女王にも2度輝いたイ・ボミも元々はTPD単年単年登録によって出場資格を得たプレーヤーだ。その他にもこの制度を利用して、ツアープレーヤーへの道を開いた選手は数多く存在する。


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和田泰朗氏が主宰するTWGTは、選手が1口2万円のサポーターを5人集めないと出場できないというユニークな形式を取っている - 筆者撮影

■プロ入りがさらに難しくなった要因とは


笹原は、2014年にQTファイナルまで進出しツアープロとなった。2016年〜17年には、レギュラーツアーにフル参戦している。


この期間はプロテスト合格を目指すというよりも、ツアープロとしての活動がメインとなっていた。2018年には、ステップ・アップ・ツアーの九州みらい建設グループレディースで2位に入っている。


このTPD単年登録制度だが、2018年に廃止が発表され、2020年からはJLPGAのツアーに参戦できるのは、原則的にプロテスト合格者のみと決まった。


この決定が、現在のプロテストがさらに狭き門となった一因だと言われている。本来ならツアープロとして活躍しているレベルの選手が、プロテストの最終予選20位タイという狭き門に殺到してしまうからだ。


笹原はこの制度変更の過渡期に、プロテストに合格しないままツアープロとして活動したことで、やや割を喰ってしまった印象がある。


2016〜17年はレギュラーツアーに専念し、年間30試合弱に出場していた。制度変更の決まった2018年のプロテストは最終予選まで進出しているが、ツアーを転戦しながらのプロテスト受験は簡単ではなかっただろう。


選手として充実していたこの時期、もう少しプロテストに集中できていれば、あるいは違った未来があったのかもしれない。


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笹原選手を高校1年生の時から指導してきた和田氏。ジュニア選手の指導では「スコアは人間性」というテーマを大切にしている - 筆者撮影

■「もともとゴルフが好きじゃなかった」


笹原は習い事としてゴルフを始めて、プロへの執着心がなかったという。


「もともとゴルフが好きじゃなかったので。プロになりたいと思ったこともなかったんです。やめたいけどやめられなくて、プロテストもあるから、受けなきゃいけない状況で。自分の意志ではなかったですね」


本意ではなかったが、プロテストがある以上、受験した。


最初のプロテストは、スコア「80」を切れば一次予選を通っていた時代。一般的なシングルプレーヤーでも十分に狙えるスコアだ。しかし、当時の笹原はそのハードルの低さであっても落ちてしまう実力だったという。


「その実力の時点で、受かるわけないですよね(笑)。でも、責任感はあったので、頑張って次の年は2次予選までいき、3年目は最終予選までいきました。一年、また一年と来年はもうちょっと頑張ろう、という感じでした」


2013年から2015年までの3年間、笹原はプロテスト最終予選まで進出する一方、QTにも挑戦して、TPD単年登録でツアープロとなった。


「プロテストが行われていて、競技ゴルフをやってる以上は受けた方がいい。受けるからには、結果を出したほうがいい、と思って頑張ってきたので、プロになりたくて努力したわけではないんです。QTを通ったら、どうなるかもわかってなくて、ステップ・アップ・ツアーがあることも知らなかったんです」


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■「ゴルフやること自体、向いてなかった」


プロになりたくて、プロテストを受けていたわけじゃない。だから、その期間に落ちた回数をカウントされるのは不本意だという。


「あの時期も入れてくるのかと(笑)。一般的に見たら、プロテスト受ける人は皆プロになりたいんだろうと思われるから、仕方ないんですけど。私はそうじゃないので、複雑な気持ちです」


しかし、そこまで嫌だったゴルフを続けてきたのはなぜだろうか。


「自分の意志がなかったというか。ゴルフをやめたら、父親に怒られると思って。子供ってそういうものじゃないですか? だから、もともとは始めたときから、だいぶゴルフが嫌いでした。


ゴルフは下手だったし、勝負事も好きじゃない。ゴルフやること自体、向いてなかったんですけど、そのときはやらなきゃいけない状況に置かれていて、やるからにはなんとかしなきゃいけなかった」


しかし、笹原のプレー振りを見ていると、少なくともゴルフが嫌いな人間のプレーには見えない。一打一打ひたむきにプレーし、最後まで粘り強く戦う。笑顔も見せるが、戦いの厳しさを感じるような精悍(せいかん)な表情を見せる。


「親にやらされてきたという拒否反応で、ゴルフを好きになりたくないという気持ちがずっと強かったですね。趣味としてゴルフをやってきたわけでもないので、アマチュアの人がゴルフが好きというのもそもそもよくわからなかったので。


でも、今は結果を出すために、好きになる努力をしています。心からゴルフを好きになりたいと思いながら取り組んでいるところです」


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■教え子に「スコアは人間性」と説く理由


笹原が和田の指導を受けるようになったのは、高校一年生からだ。


和田がジュニア選手の指導において掲げるテーマは、「スコアは人間性」というものだ。目標に向かって、努力することが出来るのか、自分の弱さと向き合える強さがあるのかなど、良いスコアを出すためには、人間として成長していかなければならないという考え方だった。


「だって、そうしないと。誰もがプロになれるわけではないので」と和田は言う。


プロゴルファーになって、華やかなツアーの世界で活躍するという夢を抱くのはいい。しかし、それを実現できるのは、言うまでもなくほんの一握りの選手に限られる。


ゴルフを通して自分を高めて、有意義な人生につなげてもらいたい、そんな想いからの「スコアは人間性」という言葉だった。


「笹原に限ったことではないですが、以前は選手の夢に寄り添っていきたいと考えていました。今は現実はこれだけ厳しいよ、全てを捧げても無理かもしれないよ、それでも出来る? と聞きながら、コーチングを行っています。商売にしたくないんです、人の夢を」


■人が変われるということを伝えたい


もし和田がスコア至上主義のスパルタコーチであったら、笹原はゴルフを続けてこれなかったかもしれない。「スコアは人間性」という言葉から、自分を変えていきたいという気持ちが、笹原の心に芽生えた。ゴルフが人として成長するためのツールになった。


「自分を変えるということに高校生の時から、ずっと取り組んできて。この状況で結果を出すためには、自分がどう変わっていけばいいのかということを軸に、ゴルフをやり続けている感じかなと」


眼前に、ゴルフの競技というものがあったから頑張れた。試合がなかったら、そこまで頑張ろうとは思えなかったというのは、笹原の偽らざる本心だろう。


しかし、QTを突破してツアーに参戦するようになり、また別の感情が表れるようになった。それは、応援している人の存在だ。ギャラリーはもちろん、リアルで会うことはなくてもSNSを通じて応援してくれる人もいる。その存在の多さを感じているという。


「私も以前は、絶対に自分は変われないと思っていたけど、めちゃくちゃにもがき苦しみながら、少しずつ変わっていけたという経験をしているので。


ゴルフは向いてないし、下手だということもわかってるけど、でも人は変われるということも知っているから。


自分と同じように、辛い想いをしていたり、夢も希望もないみたいな人生を送っている人にも、絶対に人は変われるんだよって伝えたい。だからゴルフを続けています」


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■「ゴルフのプロ」として生きる


現在の笹原は、コーチとしての和田の元を離れて活動している。イベント、メディア出演、レッスンなどの仕事もこなしながら、選手としての実力を高めるために出来るだけ多くの時間を練習とトレーニングに充てているという。


ミニツアーなどの賞金収入だけで生計を立てるのは難しいが、活動を支援するスポンサーが数社集まり、イベント出演などのギャランティも収入になる。


YouTubeなどで紹介するレッスンコンテンツは人気で、レッスンに集中すればそれが安定した収入源になるだろうが、それに積極的でないのは自分がレッスンプロではなく、プロアスリートだという自負があるからだろう。


プロテストに受からないとプロではない、という考え方がある一方で、ゴルフの活動を通して収入を得ている笹原はアマチュア資格を喪失している。自身ではなんと名乗っているのだろうか。


「ゴルフのプロです。選手として試合に出て、ゴルフのプロアスリートとしての活動で生活しています。だから、ゴルフのプロ」


けれん味も逡巡もなく、笹原はそう答える。プロでもアマでもないという微妙なモラトリアムの立場であっても、胸を張ってそう答えられるのは、自分の活動に揺るぎない想いがあるからだろう。


■笹原が目指す「ゴルフを通じた社会貢献」とは


「プロテスト合格はたしかに大きな目標だけど。でも、テストに受かるためにゴルフをやっているわけではないんです。


向いてないし、下手だったからこそ、これからもっと自分のゴルフを高めていきたい。私には、ゴルフを通じて社会貢献をするという目標があるので」


ゴルフを通じて社会貢献するというのは、笹原が高2の時に作った目標だという。真剣にゴルフと向き合って、自分が活動することで社会に貢献する。そのためにゴルフを続けているというのだ。


プレーヤーとしての笹原は、飛距離が出る飛ばし屋でもなく、ショットがピンを刺し続けるショットメーカーでもない。状況判断と集中力に優れ、シビれるアプローチとパッティングを決める粘りのゴルフが持ち味だ。TPD単年登録時代に、QTを勝ち上がってきたのも、勝負どころでの気合いと精神力の賜物だ。


そんなひたむきさを見て、笹原を応援する人は多い。TWGTでは常に数多くのサポーターを集めている看板選手だ。


「活動を見てもらうことで、楽しい気持ちになるとか、自分も頑張ろうと思えるとか。少しでもその人の生きる活力になることが出来れば、それが私にとっては社会貢献です」


■ベテランの域に差しかかっても、人は変われる


笹原と同世代の選手たちは、JLPGAでもすでにベテランの域に差しかかっている。近年の若い選手の台頭は著しく、すでに一線から退いたケースもある。しかし、笹原は30歳を超えてからも、年々その活動に熱が入ってきたように見える。


「本当の意味で頑張れるようになったのが、29歳の9月からなんです。努力のしかたがわかってきたというか」


2023年シーズンにレギュラーツアーで2勝を挙げた青木瀬令奈をはじめ、同世代で結果を出している人は、ゴルフ界はもちろん、異業種でも気になるという。


「(青木)瀬令奈は、同級生の中でもトップランナーで、ジュニアの頃に私が100とか打ってる頃に、すでにパープレーでラウンドしていました。すでに出発点が違うんですよね(笑)。今、プロテスト通過が惜しいと言われてる事自体、頑張れているのかなと思います。


でも、異業種でも同じくらいの年齢で結果を出している人たちは、きっとすごい努力をしているから、まだまだ足りないだろうなと感じることもあります。


彼らに自分を見てもらっても、恥ずかしくないような活動をしていたいと思ってます」


笹原がプロテスト挑戦を続けるのは、ゴルフを通じて社会貢献をするという自分の目標の一環なのだ。仮に不合格になったとしても、その挑戦が無になるわけではない。だからこそ、30歳を過ぎてなお、努力を重ね続けているのだ。(第2回へつづく)


笹原 優美(ささはら・ゆみ)
1992年生まれ。11歳でゴルフを始める。2014年からはTPD単年登録によりツアープロとなり、レギュラーツアーへのフル参戦経験も持つ。2019年度は中国LPGAツアー、2020年度は台湾LPGAツアーへの出場権を獲得。JLPGAプロテストは2023年までに11回受験しいずれも不合格(※うち6回が最終予選進出)。2018年九州みらい建設レディース2位。東京都出身。

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コヤマ カズヒロ
ゴルフライター
1974年生まれ。ゴルフトレンドウォッチャー。1999年に大手ゴルフショップチェーンの立ち上げに参加。以降、ゴルフ用品小売を中心に製品開発・マーケティングなどに従事。2012年からライターとして、雑誌・WEBメディア等に寄稿。21年にYouTubeチャンネル「コヤマカズヒロのゴルフ批評」を開設。
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(ゴルフライター コヤマ カズヒロ)

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