【NPO代表に聞く】お金をモチベーションにしない人の動かし方

2024年3月6日(水)6時0分 ダイヤモンドオンライン

【NPO代表に聞く】お金をモチベーションにしない人の動かし方

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大企業の人材を新興国に送り込んで現地の課題解決を行う「留職」プログラムをはじめ、ビジネスとソーシャルをつなぐさまざまな活動を展開してきたNPO法人のクロスフィールズ。代表の小沼大地さんによれば、近年ビジネスの世界で注目されているミッション・ビジョン・バリューやパーパスを主軸とした経営は、NPOのような非営利組織の運営においては、長年にわたって常識的に行われてきたものだといいます。その小沼さんが「すぐに実践に落とし込める稀有な本」「NPOで実践してきたことが非常によく整理されている」と絶賛するのが『理念経営2.0』という一冊だ。同書の著者である佐宗邦威さんは、クロスフィールズが2021年にビジョン・ミッションを改定する際に伴走役を務め、書籍の執筆過程においても、クロスフィールズの取り組みを大いに参考にしたという。時代に先んじて「理念経営2.0」を実践してきたクロスフィールズでは、今どんなことが起こっているのか──お二人の対談を全3回にわたってお送りする(第1回/全3回 構成:フェリックス清香 撮影:疋田千里)。

NPOは「理念経営」の先駆者

佐宗邦威(以下、佐宗) 『理念経営2.0』では理念を原動力にする組織について書いていますが、考えてみれば、NPOはお金をモチベーションにせずに人を動かしていく組織です。だからこそNPOでは企業に先んじてビジョンやミッション、パーパスなどを大事に経営してきたのですよね。クロスフィールズも創業当初からビジョン・ミッションを掲げていましたよね。

小沼大地(以下、小沼) そうなんです。設立した2011年時点で、「すべての人が、『働くこと』を通じて、想い・情熱を実現することのできる世界」「企業、行政、NPOが手を取り合って次々と社会の課題を解決する世界」という2つのビジョンを掲げていました。前者はパーパスを持って働くこと、後者はコレクティブインパクトを重視することと言えると思います。当時はコレクティブインパクトという言葉はありませんでしたが、自分でもよく2011年時点でこれをビジョンにできていたなと感じますね。ミッションは「社会の未来と組織の未来を切り拓くリーダーを創ること」としていました。

佐宗 時代を大きく先取りしている感がありますね。クロスフィールズは「留職」というユニークな事業とともにスタートしましたが、留職事業と理念とでは、どちらが先に生まれたんでしょうか。

小沼 クロスフィールズを立ち上げる前、私たちは20人くらいで勉強会をやっていて、「どういう世界を作っていきたいか」などを話し合っていました。その段階でクロスフィールズのビジョン・ミッションの元となるような話をしていましたし、NPOへの転職を促進するマッチングサービスの事業アイディアも出てきていました。

そこで結果的に「留職」がおもしろそうだということになって、その事業メインで起業することが決まりました。勉強会のメンバーの一人だった松島と私が共同創業者として2人で経営責任を持つと決まったのちに、もう一度留職をメイン事業とする組織のビジョン・ミッションをどうするかを相談しました。だから、両方を同時に考えながら創業したと言えると思います。

佐宗 なるほど。その創業時に、スタートアップなら「将来的にはIPOをしたい」というような欲望がドライバーになることも多いと思います。でもNPOはそういった欲望があるわけではないですよね。どんなことが原動力になっていたのですか?

小沼 株式会社を経営するときには、株主に対してファイナンシャルリターンを生み出すことを大きな目的としますよね。でもNPOの場合は、出資を受けることも、寄付者にファイナンシャルリターンを提供することもできない。では、何を目的として事業を設計するのかというと、最初から「社会へのリターン」を考えるしかないんですよ。

佐宗 今、株式会社も「地球環境を含めたステークホルダーのために」などと言い始めていますが、最初からその段階にいるわけですね。

小沼 そうなんです。だから「クロスフィールズは創業者2人だけのものではない」という感覚を最初から持っていました。そもそものきっかけとなった勉強会は、「チーム私たち」という名称だったんですよ。「今週の『私たち』のミーティングには誰が来ますか?」なんて質問したりして。

佐宗 最初から背後に、そういうコミュニティが存在する状態でスタートしたんですね。

小沼大地(こぬま・だいち)

NPO法人クロスフィールズ共同創業者・代表理事

1982年生まれ、神奈川県出身。一橋大学社会学部を卒業後、青年海外協力隊として中東シリアで活動。帰国後に一橋大学大学院社会学研究科を修了、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて勤務。2011年、ビジネスパーソンが新興国のNPOで社会課題解決にあたる「留職」を展開するクロスフィールズを創業。2011年に世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shaperに選出。2014年、日経ソーシャルイニシアチブ大賞・新人賞を受賞。新公益連盟(社会課題の解決に取り組むNPOと企業のネットワーク)の理事も務める。著書に『働く意義の見つけ方──仕事を「志事」にする流儀』(ダイヤモンド社)がある。


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