8万人の「起業家集団」! 中国家電大手・ハイアールの「人単合一」とは?

2024年3月4日(月)4時0分 JBpress

 未だ大企業が抜け出せない官僚主義。変化の激しい時代にあって、イノベーションの創発によって成長し続ける企業へと進化するには、どんな組織改革が必要なのか? 本連載では、世界で最も影響力のある経営思想家の1人、ロンドンビジネススクール客員教授ゲイリー・ハメル氏による『ヒューマノクラシー ——「人」が中心の組織をつくる』(ゲイリー・ハメル、ミケーレ・ザニーニ著/英治出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第4回は、異例の成長を続け、白物家電のシェアにおいて世界最大を誇る中国の家電メーカー・ハイアールを取り上げ、4000以上の小規模な事業体(ME:マイクロエンタープライズ)からなる革新的な組織モデルを概説する。

<連載ラインアップ>
■第1回 「人間らしさ」が失われると、なぜ組織は病んでしまうのか?
■第2回 高収益体質で業界トップを独走、米国鉄鋼大手・ニューコアの企業文化とは?
■第3回 業界平均より25%高い報酬を実現、米ニューコアの独自のボーナス制とは?
■第4回 8万人の「起業家集団」! 中国家電大手・ハイアールの「人単合一」とは?(本稿)
■第5回 ハイアールの成長と変革の源泉、「リーディング・ターゲット」とは何か?(3月11日公開)
■第6回 ライバルの足をすくったことは? 官僚主義的思考から脱却する12の問いかけ(3月18日公開)

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから


ハイアールという企業

 中国の青島を本拠地とするハイアール(海爾集團)は、ワールプールやLG電子、エレクトロラックスといった有名家電メーカーの競合企業だ。

 現時点で、ハイアールには8万4000人の従業員がいて、そのうち中国国外の従業員は2万8000人。海外従業員の多くは、企業買収によってハイアールの社員となった。今日までで最大の買収は、2016年のゼネラル・エレクトリック家電部門の買収だ。

 年間売上高が380億ドルを超えるハイアールは、このところずっと業績が好調だ。過去10年間、ハイアールの中核である家電事業は、粗利益が年率22%、売上高が年率20%増加する勢いで成長を続けてきた。

 また、同社はベンチャー企業の設立によって、20億ドル以上の株式時価総額を創造してもいる。こうした実績は、中国国内、あるいは海外のどの競合企業も及ぶものではない2

2:ハイアールが公開している財務データ、および中国内外の主要家電メーカーの財務データを筆者らが分析。

 ハイアールの成功は、従来型のマネジメントモデルを徹底的に見直した結果だ。ハイアールの型破りな会長兼CEO、張瑞敏(チャン・ルエミン)が率いたこの大胆な改革は、次の3つの目的にフォーカスしていた。

  1. 全従業員を起業家に変える。
  2. 従業員とユーザーの距離を「ゼロ」にする。
  3. ウェブを中心とした拡大しつづけるエコシステムのなかで、ハイアールが中核企業となる。

 これらの目標をひと言で言い表したのが「人単合一」だ。これは、顧客への価値と従業員が受け取る価値をしっかりと組み合わせる、ということを意味する。この人単合一モデルは7つの点において官僚主義モデルとは大きく異なっている。

■1 巨大事業からマイクロエンタープライズへ

 大企業は通常、いくつかの主要事業で構成され、それぞれの事業ごとに独自の戦略や顧客、技術などが確立されている。このように事業が巨大で文化が単一だと、新戦術を仕掛ける競合に対して脆弱になりやすく、新しいチャンスにも気づきにくくなる。

 これらのリスクを避けるために、ハイアールは自社を4000以上もの小規模事業(マイクロエンタープライズ)(ME)に分割した。1つのMEの人員は1015人程度だ。

 MEには、大きく分けて3つの種類がある。1つ目は、およそ200の「自己変革型ME」で、ハイアールの従来からの家電事業から生まれたものだ。

 これらのM Eは市場を直接相手にし、現在の顧客中心かつウェブ活用の潮流に対応すべく、自己変革を進めていく。都市に暮らす若者向けの冷蔵庫をつくっている智勝(ジーシェン)はその典型的な例だ。

 2つ目は、50あまりの「インキュベーティングME」だ。これらは自社発の新しいスタートアップで、超高速のゲーミングコンピュータを製造する雷神科技(サンダーロボット)(同社については後段のコラムで詳しく説明している)や、スマート冷蔵庫を製造する馨厨(シンチュ)などがある。馨厨の冷蔵庫は、ユーザーと生鮮食料品配達などのサードパーティとをつなぐことができる。

 3つ目は、おおよそ3800の「ノードME」で、1つ目の自己変革型MEに部品を販売するほか、設計、製造、人事サポートなどのサービスを提供する。それ以外にも、販売とマーケティングを手がけるノードMEが中国全土に広がっている。

 MEは、世界初のインターネット時代の企業をつくるという張(チャン)CEOの目標において鍵となる部分だ。この目標は、単にウェブに対応する製品の開発だけにとどまらず、インターネットの構造を真似た組織モデルを創造するという意味でもある。

 ウェブは非常に多様でありながら、共通の技術標準によってまとめられている。それによって、サイバースペースのなかを行き来できるし、サイトどうしがデータなどの共通の資源を交換できるようにもなっている。

 これがハイアールのモジュール構造のモデルだ。MEは、ほとんど本社の指示なしに、自由に形成、発展させることができる。だが、目標設定や社内契約、ユニット間の調整については、定められた共通のアプローチがある。

<連載ラインアップ>
■第1回 「人間らしさ」が失われると、なぜ組織は病んでしまうのか?
■第2回 高収益体質で業界トップを独走、米国鉄鋼大手・ニューコアの企業文化とは?
■第3回 業界平均より25%高い報酬を実現、米ニューコアの独自のボーナス制とは?
■第4回 8万人の「起業家集団」! 中国家電大手・ハイアールの「人単合一」とは?(本稿)
■第5回 ハイアールの成長と変革の源泉、「リーディング・ターゲット」とは何か?(3月11日公開)
■第6回 ライバルの足をすくったことは? 官僚主義的思考から脱却する12の問いかけ(3月18日公開)

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから

筆者:ゲイリー・ハメル,ミケーレ・ザニーニ,東方 雅美,嘉村 賢州

JBpress

「企業」をもっと詳しく

タグ

「企業」のニュース

「企業」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ