IQ118の弁護士はIQ85の建設作業員より競馬予想が下手だった…「本当の頭のよさ」を突き止めた珍研究

2024年3月19日(火)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sportlibrary

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頭のいい人とは、どんな人のことを指すのか。フォーチュン誌上級編集長のジョフ・コルヴァン氏は「IQテストの数値が引き合いに出されることがあるが、IQの高さは仕事の精度や手際の良さを測る上ではまったく役に立たない」という——。

※本稿は、ジョフ・コルヴァン、米田隆訳『新版 究極の鍛錬』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。


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■「頭のいい人」とは、どんな人なのか


多くのものを含み、とてつもなく深い、「知能」という概念をここで少しのぞき込んで探求してみよう。


誰かを頭がよいという場合、それは何を意味するのだろう。直感的に理解はできても、じっくり考えようとすると、とても複雑であることに気づく。数字に強い人もいれば、言葉にすぐれている人もいるように思える。抽象的な概念にすぐれている人もいれば、具体的な知識にすぐれている人もいるように思える。


どうすればこうしたあらゆる種類の賢い人たちを一つの概念にまとめられるのだろうか。冷静にこの問題を考えれば、これまでずいぶん批判されてきた知能指数とかなり似た概念を、頭のよさの基本的定義としたくなるのではないだろうか。


過去百年の間に開発されてきたIQテストは、実際10のサブテストを用いて知能のさまざまな側面をとらえようとするものだ(サブテストの対象は、情報、計算、語彙(ごい)、理解力、画像の完成、ブロックデザイン、対象の組み合わせ、暗号、絵の組み合わせ、相似である)。


こうしたテストを何百万人もに実施し、研究者はそれぞれのサブテストの結果の間に相関関係があることを突き止めた。


■IQテストは、人間のすべての能力を網羅できない


つまり、一つのサブテストの結果がよい人は、他のサブテストにおいてもよい結果を出すことがわかった。そこでその理由を探るためサブテストの結果に影響を与える一般的要因があるという仮説を立て、この要因を一般知能(G)と名づけた。この一般知能を測るものがIQテストだ。


学界の学識経験者からも、専門家以外の人からもこのIQは長年非難されつづけてきた。なぜならばIQテストで計測できなかったり説明できなかったりする事柄があるからであり、批判の多くは妥当なものだ。


たとえば、現実の世界では批判的思考法(クリティカルシンキング)は間違いなく重要なものだが、IQテストでは評価できない。社会的スキル、正直さ、寛容さ、知恵、その他、我々が価値を置き、よりよく理解したいと思う事柄をIQテストでは評価できない。いずれも検査の対象にはなっていないからだ。


作家や研究者たちはこうした批判にこたえるものとして、何年もかけて他の種類の知性と呼べる新しい概念を提案してきた。こうした中でもっとも著名な人物は、ハーバード大学のハワード・ガードナー教授で、同教授の多重知能(言語的知能、音楽的知能、ビジュアル=空間的知能、その他少なくとも五つ以上の異なる知能)という理論は大変影響力があるものだ。


■「IQが高い人ほど難しい仕事をこなしている」のも事実


作家のダニエル・ゴールマンは、「こころの知能指数」あるいは「EQ」と名づけた自身の著作でベストセラー作家になっている。このEQでは、結婚生活から職場まで、現実の世界での人間関係に役立つと思われる多くの要因(自己抑制、情熱、忍耐など)について書いている。


こうした概念は大変役立つが、「新たな種類の知能」と呼ぶには必ずしも適切ではないかもしれない。なぜなら知能の概念を曖昧にしてしまうからだ。知能の研究者としてもっとも著名な一人であるアーサー・ジェンセンはこうした試みをチェスを運動技能だと呼ぶようなものだと批判している。たしかにチェスを研究したいが、チェスを運動と分類してしまうと運動の技術がどうやってもたらされるか理解できなくしてしまう。


当面、知能とは、IQで評価されるという一般的な知能概念に基づいて議論を進めることにする。IQは実際知能の評価基準としては成果を上げている。完全とはいえないが、将来学校の成績がどうなるかをかなり正しく予想してくれる。


知能研究で著名なジェームズ・R・フリン教授は、専門職ならびに経営職や技術的職業に就いている人を集団としてみた場合、平均よりも高いIQをもっていると報告している。


労働者全体でみると、仕事の内容が複雑になるに従い、それに携わる労働者のIQも上昇する。このことはまったく驚きもしない。より賢い人はよりできるという世間の想像を裏づけているからだ。IQの高い人はより難しい仕事をこなし、より高い社会的な地位を獲得する。


■ではなぜ、IQが低くても成功する人がいるのか


古風な学問的な意味で知能一般を考えると、素粒子物理学者は歯医者より賢いし、歯医者は生産ラインで働く労働者よりも平均的には賢い。世界的な偉業をあげる人はたとえ特定の目的に対応する天賦の才をもたなくても、一般的な優位性、おそらくは優越的な知能を生まれつきもっているという見方にはたくさんの証拠があるように思える。


やっかいなのは、平均的なIQ以下の人たちにまで分析を進めたときだ。まわりを見てほしい。ビジネスの世界でほぼ間違いなく通常の意味であまり高い知能をもっていないのに、ときには目覚ましい成功を収める人に出会うことがある。こういった場合、普通はあの人は人づきあいが上手だとか、ものすごく働いたとか、本当に仕事に真剣に取り組んだとか言って成功の理由を説明する。


こうした要素はガードナーの多重知能やゴールマンのEQといった考え方に関連しているかもしれない。しかし決定的な点は、IQでは偉業を説明できないかもしれないと最初に我々が疑わしく感じたように、こうした能力ある人のもっているものは明らかに一般的な知能ではないということだ。


こうした証拠は実際のところ、山ほどある。我々が偶然遭遇する経験よりもはるかに多い。幅広い研究によればIQと業績との相関関係は、平均データが示すほどにはないかあるいはまったくないことが判明している。


■販売員が売り上げを稼ぐのに、知能は役に立たない


販売員の場合を考えてみよう。ここではメタ分析という手法を使っている。この種の調査での最大規模なもので数十の以前の研究からおよそ4万6000人の個人データを集め、検証するものだ。


ビジネス界の実業家を研究するのは、条件を均一にできないから困難だ。そのため、多くの場合結果がはっきりしない。意思決定がよかったか悪かったかは何年もの間わからないかもしれない。


その点、販売員を対象とする研究は非常に魅力的だ。少なくとも、「売上」という計測できる明確な対象を即座に生み出すからだ。それでも際限なく研究の邪魔となるようなものが現れるかもしれない。セールスパーソンたちは何度も上司に対し雄弁に言い訳をするからだ。しかし、時間をかけて多くの被験者を対象とすればこうしたノイズは消えていくものだ。


このメタ分析で部下のセールスパーソンを評価するよう上司に依頼すると、上司の評価と部下の知能との間に比較的高い相関関係を見いだせる。上司は賢いセールスパーソンはよりよい成果を出すセールスパーソンだと考えがちだ。


しかし、研究者が実際に販売成果とセールスパーソンの知能を比べてみると、その間には相関関係を見いだすことはできなかった。販売員がどれほど成果を上げるかを予想するうえで知能はほとんど役に立たなかった。どんなものであれ販売員を優秀にするものは、知能以外のもののようだ。


■次の研究は「IQが高い人は競馬も強いのか」


この結果をみて、販売員の管理者自身が勘違いをしていることには驚かされる。一般に販売員の管理者は、部下のパフォーマンスを客観的に知りたいと思っており、かつ一定の基準で評価していると世間では思われているだろう。


しかし、実際はそうではないようだ。この調査結果は、少なくとももう一つの大規模のメタ分析でも裏づけられている。必然的に知能がよりよい業績をもたらすという見方は、一般の人の心に強くしみついているので、ときには現実に目をつぶってしまうのかもしれない。


ビジネスと共通点が多い活動に焦点を絞り、現実の世界での業績を詳細に調査研究したものがある。それは、競馬予想だ。関連事実を調査研究し、かけ率(以下オッズ)を予想し、お金をどの馬にかけるか決定する。その本質は経営とさして変わらない。


研究者たちは競馬場に行き、被験者を募った。発走予定時刻でのオッズ予想能力に基づいて、こうした被験者を専門家か、非専門家かに分類した。ここでの専門家の定義は、オッズ予想で断然すぐれた能力を示したものを指している。


しかし、通常このような場合に大きな違いを示すと思われるような要素である、競馬での経験年数、正規教育の期間、職業的地位、そしてIQをみても、両グループ間の平均値には大きな違いはなかった。両グループの知能の平均値と偏差値が同じであるばかりか、人口全体と比べてもほとんど同じだった。専門家も非専門家もとくに賢いわけではなかった。


写真=iStock.com/quentinjlang
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■予想をズバズバ当てたのはIQ85の建設作業員


データをより詳細にみると競馬のオッズ予想の専門家であるかどうかを当てるには被験者の知能はまったく役に立たないことがわかった。たとえば、過去16年間定期的に競馬場に通う知能指数85(初期の知能テストの開発者が「中の下」と分類したレベル)の被験者は、建設現場で働く男だった。


この男は1着に入った馬を全10レースで当て、5回のレースでは上位3着に入った馬の順位を的中させた。これに対して、非専門家の一人は過去15年間定期的に競馬場に通っていた弁護士で、その知能指数は118だった(中の上、かなりできるレベル)。この弁護士の場合、10レースで1着となる馬を当てたのはたったの3回で、上位3着を正しい順番で当てたのは10レースでたった一度だけだった。


この結果がとくに興味深いのは、オッズの正確な予想は大変複雑な作業だという点だ。10以上の要素を考慮しなければならず、そうした要素は互いに複雑に絡み合っている。


いや実は馬のオッズ予想にあたり専門家たちは、非専門家が用いるモデルに加えて、いわゆる乗法モデルといわれるはるかに複雑なモデルを用いていることが研究者にもわかってきた。


■仕事の「手際のよさ」に、IQは関係ない


乗法モデルにおいては、たとえば馬場の状態のようないくつかの要素が、最終レースでの馬のスピードなど他の重要な要素にも影響を与えている。別の言い方をすれば、専門家になるためにはきわめて困難な技術が求められているのだ。繰り返していうが、ここでも知能は重要な要素とは思えないのだ。



ジョフ・コルヴァン、米田隆訳『新版 究極の鍛錬』(サンマーク出版)

IQの低い専門家はIQの高い非専門家より、複雑なモデルを用いていたことを研究者は発見した。オッズ予想の専門能力はIQとの相関関係がないばかりでなく、IQテストの中の算数のサブテストの結果とさえ相関関係がなかった。


研究者の結論は、以下のとおりだ。IQテストが測定するものがどんなものであろうとも、認知上複雑な形式をもつ多変量解析を行いうる能力をIQは測ることができない。


この多変量解析という言葉は日常生活ではあまり使われる言葉ではないが、実際には職場での活動や一流だといわれる人の手際よい仕事振りを実に見事に表現しているものだ。物事を卓越して行うには、世間でいわれているような意味でとくに賢くある必要などないのだ。


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ジョフ・コルヴァン
フォーチュン誌上級編集長
アメリカでもっとも尊敬を集めるジャーナリストの一人として広く講演・評論活動を行っており、経済会議「フォーチュン・グローバル・フォーラム」のレギュラー司会者も務める。PBS(アメリカ公共放送)の人気番組「ウォール・ストリート・ウィーク」でアンカーを3年間務めた。ハーバード大学卒業(最優秀学生)。ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネスでMBA取得。アメリカ、コネチカット州フェアフィールド在住。『究極の鍛錬』はビジネスウィーク誌のベストセラーに選ばれている。
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(フォーチュン誌上級編集長 ジョフ・コルヴァン)

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