CMを打ったものの・・・「認知率」が上がったのに、なぜ売上が増えないのか

2024年3月13日(水)4時0分 JBpress

 マーケティング戦略の中でもブランディングは、「好感度」や「ロイヤルティ」など“ふわっとした”イメージで語られることが多かった。そうした中、ユニリーバ本社でグローバルなブランド戦略設計を担った経験を持つ木村元氏は、顧客による購買をゴールに据え、売上や利益への貢献度なども含めたスコアとしての「ブランド・パワー」を提唱している。本連載では、同氏の『ブランド・パワー ブランド力を数値化する「マーケティングの新指標」』(木村元著/翔泳社)から内容の一部を抜粋・再編集、数値化したブランド・パワーをマーケティングに落とし込む方法を解説する。

 第4回は、一般に言われる「ブランド認知」を細かく分類することで、売上・収益との関連性を見ていく。

<連載ラインアップ>
■第1回 元ユニリーバのマーケターが語る、なぜ事業成長にはブランディングが重要か
■第2回 0から1を生み出す、ユニリーバの中長期的なブランド力向上の仕組みとは?
■第3回 重要なのはブランドか、営業か? ユニリーバで考えた売上拡大の独自ロジック
■第4回 CMを打ったものの・・・「認知率」が上がったのに、なぜ売上が増えないのか(本稿)
■第5回 なぜLUXの広告には、髪にツヤのあるハリウッド女優が起用され続けたのか?(3月27日公開)

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■本書におけるブランド・パワーの構成要素

 ブランドエクイティの代表的な考え方であるアーカーモデルとケラーモデルは、自社ブランドの価値を高めるために、一種のフレームワークとして世界中のグローバル企業に活用されています。業界や業種、市場環境に合わせて、各社独自のアレンジを加えながら、個別に進化し続けています。

 一方で、先に述べた通り、ブランドそのものを企業の資産として捉えるブランドエクイティの考え方は、マーケティングの実務に落とし込むには少々複雑かつ難解です。実際、ブランドエクイティを指標として取り入れ定点観測していくには、ブランディング専門のコンサルティング会社に依頼するなど高額な費用が発生することが多く、結果として大手ブランドにしか使えない指標になってしまっていると認識しています。

 私が本書を書く目的は、マーケティングに従事するあらゆる実務家において、ブランドパワーが定常的に数値化およびトラッキング可能な数値として認識・活用されることにあります。そしてその先には、日本企業にも、ブランドが持つ根元的な力に目を向け、ブランドの競争力を高めるという方針のもと、継続的かつ再現性のある形でブランディングに力を入れてほしいという思いがあります。

 その実現のためには、できる限りブランドパワーの構成要素をシンプルに研ぎ澄まし、日々のマーケティング業務に落とし込める具体的な指標にする必要があります。

 そこで、本書では、従来のブランド論をベースにしながら、次の二つをブランドパワーの構成要素とすることにします。売上との相関性を見出すことを第一目的とし、【図表2-4】のパーチェスファネルに寄与する構成要素を抽出しており、MentalAvailabilityを数値化する試みもここにヒントを得ています。

  1. ブランド想起
     ブランドに対する認知の「量」と「質」を測る指標。ブランドがどれくらいの顧客に知られているかという認知の量と、顧客がブランドにどのくらい興味を持っているか、購買の選択肢に入ることができるほどの良質なブランド認知になっているかという認知の質を測る。
  2. ブランドイメージ
     ブランドが、どのように顧客に認識・理解されているかを示す指標。ブランドから連想されるイメージの強弱を競合と比較しながら数値化する。

ブランド認知は「量」と「質」で区分して考えよ

 ブランドパワーの構成要素のうち、ブランド想起はブランド認知の量と質で決まり、ブランドパワーを構築する時の起点となります。

 ブランド想起を評価する項目として、一般的には次の4つのフェーズがあります。

  1. ブランド助成想起率:複数挙げたブランド名の中で自社ブランドを知っている率
  2. ブランド純粋想起率:カテゴリーを提示した時に、自社ブランドの名前が挙がる率
  3. ブランド想起集合率(エボークトセット):提示したカテゴリーにおいて、購入検討時に自社ブランドが選択肢として想起される率
  4. ブランド第一想起率:カテゴリーを提示した時に、自社ブランドが一番に挙がる率

 認知と一口に言っても、この4つのうちどのレベルでの認知率なのかを把握する必要があるわけです。

 事業会社のマーケティング担当者の方に「自社ブランドの認知率を知っていますか?」と聞くと、「はい、50%です」というふうに返ってくることがあります。その50%はほとんどの場合、助成想起率を指すわけですが、恐らく多くの日本企業も同じようにこの一つ目の助成想起率しか追いかけられていないのではないかと思います。助成想起に加え、他の3つの数値を把握できていると、自社ブランドの認知レベルに対する解像度が高まります。

 助成想起を計測する時は、提示された選択肢の中から知っているブランドを挙げてもらうので、想起をサポートするような聞き方をします。だから、“助成”想起です。たとえば、あるスキンケアブランドの助成想起率が80%だとすると、その80%の中には「ブランドのことをなんとなく知っている、聞いたことがある」という認知レベルの顧客も含まれることになります。

 次に、純粋想起を計測する時は「スキンケアブランドの中で、知っているブランドをすべて挙げてください」というような質問の仕方をします。その時点で顧客の記憶に残っていないと、ここで想起されることはありません。

 3つ目の想起集合(エボークトセット)は、さらにハードルが上がります。純粋想起で顧客が挙げたブランドが仮に10個あったとして、その中で「買いたいと思う」候補に入ってくるのはせいぜい2〜3ブランドでしょう。認知されていても購買に繋がらないと売上・利益は生まれませんから、ブランドが最も重視すべき認知レベルは、この想起集合であると言えます。

 もちろん、その次の第一想起が最上の認知レベルであることは間違いないのですが、消費者は常に複数の選択肢の中から比較・検討をして、最終的な意思決定(購買)に至ります。必ずしも最初に想起されたブランドが選ばれるわけではないため、マーケティング投資の意思決定をする際、第一想起にこだわる必要はないと考えます。

 たしかに、まったく新しい市場を創造する時には、その新しいカテゴリーにおける第一想起を優先的に獲得しにいく考え方もあります。グローバル企業やカテゴリー内でナンバー1を保持しているブランドなどを筆頭に、巨大な資本力を持ってカテゴリーを占有しにいくような戦略を展開する(できる)場合は、とにかく第一想起を狙うことになると考えます。

 ただ、永遠に他社が参入してこない市場というのは非常に稀ですし、一度獲得した第一想起も投資をし続けない限り、他社の資本力によっては維持し続けることは困難です。よって、基本的には、常に想起集合に入り続けることを目指すのが良いでしょう。

 よくブランドの認知率が上がったのに、売上に反映されないという話を聞きます。具体的には、テレビCMやウェブCMに多額のコストを投下したのにコンバージョンがあまり上がらず、CPAが見合わないといった悩みです。

 この場合、上記の認知指標のうち「ブランド助成想起」のスコアは高まっているけれども、それ以外の想起に関するスコアが高まっていない可能性が高いです。

 CMで見たからなんとなくブランド名には覚えがあるけれど、いざそのカテゴリーに関して検索したり購買を検討したりする時に思い出せない(思い出さない)。ゆえに、ウェブ上での検索のアクセス数は上がらず、購買にも繋がりません。

 さらに言えば、この状況はそもそも認知されているようで認知されていない状態とも言えます。認知指標として指名検索をベンチマークにするケースがありますが、これはブランド純粋想起をトラッキングする考え方に近いです。

 余談ですが、「× × ×と言えば、〇〇〇」というテレビCMをよく見かけると思います。これはまさにブランド純粋想起の向上にワークする手法です。カテゴリーとブランドをセットで伝えることにより、カテゴリー内での想起率を上げようとする意図があります。B2C、B2Bのどちらでも非常に効果的な方法で、「転職」「部屋探し」など様々なカテゴリーでこの手法がとられています。

<連載ラインアップ>
■第1回 元ユニリーバのマーケターが語る、なぜ事業成長にはブランディングが重要か
■第2回 0から1を生み出す、ユニリーバの中長期的なブランド力向上の仕組みとは?
■第3回 重要なのはブランドか、営業か? ユニリーバで考えた売上拡大の独自ロジック
■第4回 CMを打ったものの・・・「認知率」が上がったのに、なぜ売上が増えないのか(本稿)
■第5回 なぜLUXの広告には、髪にツヤのあるハリウッド女優が起用され続けたのか?(3月27日公開)

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筆者:木村 元

JBpress

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