富裕層の住所は「牛丼1杯分の値段」で手に入る…強盗犯がターゲット選びに使う「闇リスト」の実態

2024年3月30日(土)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bet_Noire

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2022〜23年、全国各地で強盗事件を引き起こした「ルフィ事件」では、店舗だけでなく民家もターゲットとなった。なぜ一般人の家が狙われたのか。週刊SPA!編集部 特殊詐欺取材班の『「ルフィ」の子どもたち』(扶桑社新書)より、「闇リスト」の実態を紹介する——。(第2回/全2回)
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■強盗の報酬は800万円という大金だった


2023年2月26日午後、福島県南相馬市。瓜田翔(20歳)はその家の門の前に立つと息を潜めた。


ターゲットとして指示役の石志福治(27歳)に指定された家はあまりにも大きい。見れば、敷地内には復興作業員のためと思しき簡易住宅が建てられている。朱色の門をくぐっても母家までたどり着くには数十メートルもある。誰に見られるかわかったものではない。そもそも数時間前、下見のために、道を聞くふりをして家主と接触したが、その目には明らかに不審の色が見てとれた。


警察など呼ばれてないだろうか……そんな不安が次々と押し寄せてくる。しかし、そんな不安を追い払ったのは「カネ」の存在だった。


目前の屋敷を見れば見るほど、「この家には“金塊”が溜め込まれている」という指示役の話に説得力を感じるようになっていた。強盗の報酬は800万円を約束されていた。それだけの大金があれば人生をやり直せる。瓜田はここ1、2年の間に自らの身に起きた出来事を噛み締めていた。


■「カネを持っているヤツから奪うまで」


そのとき、横にいた江口将匡(20歳)は「話が違う」と口に出しそうになっていた。


瓜田に貸したカネを「返す」と言われ、運転手役を引き受けたのに、まさか凶器を片手に民家に押し入ることになるなど思いもよらなかった。


瓜田からは「俺の仕事を手伝えば、借りているカネに色をつけて返すよ」と言われていた。もともとは自分のカネなのに、その言葉に目が眩んだ。ただ、瓜田は高校時代からの親友なのだ。ほっておけない、というのも本音だった。


一方、土岐渚(22歳)は自らの会社のためにはなんとしてもカネが必要だった。その額は400万円。借金を返さなければ会社が潰れてしまう。雇っている若い従業員達を露頭に迷わすことはできない。父親からカネを借りてしのいできたが、もう限界だった。


それならカネを持っているヤツから奪うまでだ。働きもしないヤツがカネを溜め込んでいるのが間違ってる。これはある意味、世直しだから退く理由もない。誰よりも覚悟が決まっていた。


そして、3人はハンマーやパイプレンチなどを手にその屋敷に押し入った。


■ルフィは逮捕されたのに、また強盗事件が…


ルフィ逮捕後の強盗事件の19日前——。


2023年2月7日、一連のルフィ事件をめぐり今村麿人ら4人がフィリピンから日本に強制送還され、逮捕された。ふてぶてしい表情で羽田空港を歩く今村らを映し出すニュースを目にしながら、連日報道されていた広域強盗事件が、これで終結するのだと安堵(あんど)した国民は多かったはずだ。


その時、取材を続けていた筆者は旧知の人物の言葉に戦慄(せんりつ)を覚えていた。


「減るわけないだろ。近いうちにまた起きるよ。次は福島や宮城で起こると思うね」


そして、3週間も経たずにその“予言”は現実のものとなった。


民家に強盗 男数人逃走 福島・南相馬 住人77歳 殴られ重傷
26日午後3時40分頃、福島県南相馬市のAさん(77歳)の家族から、「父親が血だらけになっている」と110番があった。Aさんは自宅に侵入してきた数人の男に棒状の物で殴られ、現金数万円などを奪われたといい、頭の骨を折る重傷。県警は強盗致傷容疑で逃げた男らの行方を追っている。(読売新聞 2023年2月27日付 ※記事では被害者は実名)

瓜田らが起こした事件は記事を読むに、一連の「ルフィ事件」の手口と同様だった。(ルフィの残党がいるのか……)そう感じずにはいられなかった筆者は“予言”をした男の元に出向いた。


■「名簿屋」の予言が当たった理由


「名簿屋」を訪ねると、挨拶もそこそこにまくしたてた。


「ほら言っただろう。ここ数カ月福島や宮城あたりの名簿がよく売れていたそうだ」


そう言うと、「最新のものではない」と断りを入れた上で当該名簿を見せてくれた。そこには、名前、住所、年収や資産など、詳細な個人情報が載っていた。


とくに資産額が大きい人物については、自宅近くの防犯カメラの位置まで記されていることに驚かされた。これは強盗のためのリストと言っていいだろう。名簿屋に疑問をぶつけた。


写真=iStock.com/Artystarty
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Artystarty

「強盗用? うん、そう思ってもらってもいい。2008年ころ、オレオレ詐欺全盛期に全国の『ターゲットリスト』というものがほぼ完成してたんだけど、それが近ごろ、更新されるようになった。当然、今起きている強盗にも使われていると思うね」


■最新情報に更新されていく「強盗用リスト」


個々の資産状況などは当然、日々変わっている。15年前のものともなると、それはすでに当てにならないと言っていい。しかし、こうしたリストを作る業者は、過去の名簿をベースに、アンケートと称して電話をかけたり、実地調査に赴くなどして、そのリストを更新していくのだという。時にはカード会社や銀行からの流出データを紐付けることもある。


その動きがここ2、3年活発になっていた。それも福島、宮城が圧倒的に多かったという。当初は、特殊詐欺のためのリスト更新だったが、それが2021年末ごろから防犯カメラの位置なども付記された「強盗用リスト」に転じていったという。


なぜこの地域のリストの更新が活発なのか、その理由は想像どおりだった。


■ターゲットは被災地に流れ込んだ巨額のカネ


「大量に入った震災の復興マネーがダブついていることに気づいたんだろう」


2011年の東日本大震災以降、復興予算として政府が組んだ予算は10年間で32兆円。さらに東京電力による賠償金なども含めると、確かに巨額のカネが被災地に流れ込んでいた。ここ数年そうした資金に群がるように、詐欺事件が頻発していたことは感じていた。しかし、なぜ「詐欺リスト」が転じて「強盗リスト」となったのか。名簿屋は話す。


写真=iStock.com/ricardoreitmeyer
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「今さらオレオレ(詐欺)とかやったところで、昔に比べたらアガり(儲け)は少ないからね。今では高齢者も警戒しているし。それゆえ投資詐欺がはやったんだけど、頭を使うその手の詐欺は手間ひまがかかる。バカにはできない仕事なんだよ。そうした「投資詐欺用リスト」を買う組織は限られている。しかし、強盗用に情報をバージョンアップしたリストを作ったら売れた。タタキ(強盗)のような、荒っぽい仕事をやっている連中が軒並み買っていったんだ」


こうしたリストは一件につき「牛丼一杯分の値段」で売られるという。1万人分集まれば、それを複数の組織が買うと考えたら、リストを作る業者が手間ひまかけるのもうなずける。闇リストを作る業者、販売する業者のほかにも、偽造免許証や架空名義で契約された「飛ばし携帯」業者、裏の人材派遣業者まであり、ひとつの産業構造を成しているのだ。そしてそれぞれの業者間で、競争原理が働くこともある。


■被害に遭った男性の情報もリストに掲載


日本で最初の「オレオレ詐欺」は2003年だと言われている。20年という年月が、こうした犯罪グループがより複雑化し、暗躍する土壌を形成した。


筆者は名簿屋に確認したかった。今回の被害者はリストに載っているのかと。


「あぁ、この事件が起きたとき確認したけど、家族構成や想定資産が載っていた」


ルフィグループが壊滅した後に起きた事件だ。模倣犯ではなく、ルフィとは別の組織が関与しているのだろうか。


「間違いなくそうだ。ルフィとは別だ。こういうリストは素人には買えないよ」


数日後、この話のウラが思わぬ形でとれることになる。


被害男性の妻が警察を通してマスコミに周辺取材などの自粛を呼びかけるとともに、こんなメッセージを発表したのだ。


■十数年前から「被害に遭うのでは」と怯えていた


「私と夫は突然の被害に死を覚悟しました。


今も、よみがえる恐怖もあり混乱の最中にいます。


夫の名前の載る闇リストの存在は震災以前から承知していたにもかかわらず詐欺被害を被ってしまい、民事裁判や刑事裁判に巻き込まれた事実も有ったことから、私たちなりに日々防犯に努めていましたが、このような事件に逢ってしまいました」(原文ママ)



週刊SPA!編集部 特殊詐欺取材班の『「ルフィ」の子どもたち』(扶桑社新書)

十数年前、福島県では、特殊詐欺事件の捜査段階で押収されたリストに名前などが載っていた人物に対し、警察から注意喚起をしたことがあった。そして当該リストに含まれていた一人が、今回の事件の被害者だったという。


マスコミ各社には警察から「周辺取材の自粛要請」が出されたが、それにはあえて触れず、被害者が「昔の名簿」に載っていたことに注視する報道が続けられた。テレビは被害者宅がいかに広大かをリポートし、新聞の社会面には大きな空撮写真が掲載された。


たしかにそれを見るだけで、この地域の名士だったことが伝わってくる。


同時にこの場所で、被害者である70代の夫婦が見えざる恐怖に怯えながら暮らしていた日々を思うと、実行犯だけでなく、名簿販売業者も非難されてしかるべきだ。


悪びれる様子のない名簿屋の話を鵜呑みにするのはシャクではあったが、筆者はこの事件を深掘りすることを決めた。「ルフィ」とは違う組織による犯罪が起きている。一連の報道ではなにか「詰めの甘さ」を感じていたからだ。取材を続ければ、新たなる組織像がおぼろげながら見えてくると思ったのだ。


(週刊SPA!編集部 特殊詐欺取材班)

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