「カイロ大卒」と書いても地獄、書かなくても地獄…女帝・小池百合子都知事の「3選」が危ぶまれるワケ

2024年5月3日(金)18時15分 プレジデント社

記者会見する東京都の小池百合子知事=2024年4月5日、東京都庁 - 写真=時事通信フォト

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■9日間も応援に入った東京補欠選で惨敗


小池百合子東京都知事の“女帝”の座が危うくなっている。


4月28日に投開票された3つの補欠選挙は、自民王国だった島根1区でも立憲民主党の亀井亜紀子氏が勝利して、裏金問題を含む不祥事が続発する岸田自民党への逆風が、予想以上に強いことが裏付けられた。


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記者会見する東京都の小池百合子知事=2024年4月5日、東京都庁 - 写真=時事通信フォト

島根ほどではないが注目されたのは東京15区だった。ここは小池都知事が自ら推し、全面的に支援した乙武洋匡氏が落選したのだ。それも当選した酒井菜摘氏からは約3万票も離された第5位だった。


朝日新聞デジタル(4月30日4時00分)によると、小池氏が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」のある都議は「負けすぎ」とつぶやいたという。


「乙武氏の選挙は、文字通り小池氏が仕切ったものだった。3月末の定例会見で、都民ファ政経塾の講師役などで縁のあった乙武氏の擁立を初めて公表。12日間の選挙戦のうち9日間も応援に入った。


『乙武洋匡、何としても勝たせていただきたい』。運動員と同じジャンパー姿で選挙カーからも声を張り上げた。『自分以外の選挙で、こんなに力を入れているのは見たことがない』(側近)という奮闘ぶりだった」(同)


■「学歴詐称疑惑」は前回知事選でも燃え上がったが…


小池氏は今夏、自身が3選に挑む都知事選挙が控えている。それだけに力の入れようも違ったのだろうが、彼女にとって大きな痛手になった敗戦であった。


落選が決まった28日の夜、乙武氏の選挙事務所に姿を見せず、支持者から不満の声が上がったという。


2期目の前回の都知事選では、選挙前の5月下旬、ノンフィクション作家の石井妙子氏が『女帝 小池百合子』(文藝春秋)を上梓し、その中で小池氏のカイロ時代のかつての同居人が、小池氏のカイロ大学首席卒業は作り話だと告発した。


これが大反響を呼び、都議会でも自民党や共産党が「小池都知事のカイロ大学卒業証書・卒業証明書の提出に関する決議案」を提出し、大騒ぎになった。


だが、突然、駐日エジプト大使館がフェイスブック上でカイロ大学長名の声明を英語と日本語で公表した。


「カイロ大学は、1952年生まれのコイケユリコ氏が、1976年10月にカイロ大学文学部社会学科を卒業したことを証明する。卒業証書はカイロ大学の正式な手続きにより発行された」


日本のジャーナリストがたびたびこれについて疑義を呈し、信憑性に疑問を抱いているが、これはカイロ大学および、カイロ大学卒業生への名誉棄損であると警告。これが続くようならエジプトの法令に則り適切な対抗手段を講じると表明したのだ。


■元側近が「学歴詐称工作に加担してしまった」と告白


公式なHPでの発信ではなくSNSでの発信。しかも日本語と英語だけで、アラビア語は載っていないというやや不思議なものだったが、事態を鎮静する効果は絶大だった。


結局、都知事選に自民党は対抗馬を立てず、366万票という票数を得て小池氏は圧勝したのである。


学歴詐称問題はこれで決着がついたと思われていた。


次の3選を達成した後は、都知事の座を捨てて衆院選に出馬し、自民党総裁選に名乗りを上げるのではないかとも囁かれていた。


初の女性都知事から初の女性総理へ。女帝から国王へと駆け上るのではないか。そのためには次の都知事選で再び圧勝する必要がある。


だが、小池氏の元側近で、都民ファーストの会の元事務総長だった小島敏郎氏が、文藝春秋5月号で「私は、学歴詐称工作に加担してしまった」と告白したのである。


小島氏は東大法学部を出て1973年に環境省に入庁。次官級ポストに就いたのちに退官。大学教授や弁護士としても活躍している。


2016年から都政に関わるようになり、築地市場移転問題を中心に政策を提案。小池氏が都知事就任後に特別顧問になり、都民ファが誕生してからは同党の政務調査会事務総長に就任した、小池氏の側近中の側近であった。


小島氏はその中で、次の都知事選に出馬するのなら、学歴詐称の公職選挙法違反で刑事告発するとまで語っているのだ。


内容を紹介しよう。


■「卒業証明書を見せればいい」に小池氏は…


先に書いたように、前回の都知事選前に小池氏の学歴詐称疑惑が大きな問題になっていたが、駐日エジプト大使館がフェイスブックに載せた声明で一気に沈静化した。


小島氏はこう書いている。


「小池さんは懇意にしている自民党の二階俊博幹事長(当時)に、都議会自民党をなんとかして欲しいと頼んでいました。しかし、それでも追及は止まらず、(中略)都議会自民党の若手が、小池さんの対抗馬として都知事選に立候補する動きもありました。


学歴詐称の疑惑を払拭しなければ、小池さんは出馬宣言ができない状況でした。彼女にとって政治生命の危機だった。困り果てて六月六日に私を呼び出したのです。都知事選は七月五日に迫っていました。(中略)


私は率直に聞きました。


『卒業証書や卒業証明書を見せればいいんじゃないですか。それがあれば通常、それ以上の証明は求められません。それはあるんですよね?』


小池さんは言いました。


『あるわよ。でも、それで解決しないから困っているのよ』」


小島氏は小池氏に、「カイロ大学に証明してもらえばいい」と提案した。その後、小島氏は、小池氏が出馬宣言をした場合の想定問答集を作っていたそうだ。


■わずか2日で「学長署名入りの声明文」が出た


すると、6月9日、カイロ大学学長のモハメド・オスマン・エルコシト氏署名入りの声明文が、駐日エジプト大使館のフェイスブックに載った。小島氏は、「こんなに早くカイロ大学が対応してくれたの?」と驚いたという。


「私が『カイロ大学に証明して貰えばいい』と提案したのが、六日の夕方。七日の朝に小池さんから文面や宛先について問い合わせのメールが来たのですから、その時点ではカイロ大学とやり取りさえしていないはず。


それなのに、九日には学長のサインのついた『声明文』が大使館のフェイスブックに掲載された。その間、わずか二日。通常、大学の公式声明なら、決裁の手続きもあるだろうし、エジプトとは時差もあるはずなのに……。


ただ、『やけに早いな』と思ったものの、当時は深くは考えませんでした」


小島氏はメディアへの疑問も呈している。


「私はこの時『大手メディアは、大使館のフェイスブックに載っただけで信じるんだ。大学ホームページを調べたり、アラビア語の原文はどう書いてあるかとか、学長への取材などもしないのだろうか。それで済むんだ』と正直、不思議に思いました」


小島氏は、こうした早すぎる対応に違和感を覚えていたが、そんな時、ある人物に出会って衝撃的な事実を知ったというのだ。


写真=iStock.com/blew_i
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/blew_i

■「文案を小池さんに頼まれ、私が書いたんです」


「その人物、A氏は元ジャーナリストで表には出ていませんが、小池さんのブレーンの一人で、私とも旧知の間柄でした。A氏は私に言いました。『実は駐日エジプト大使館のフェイスブックに上げられたカイロ大学声明は、文案を小池さんに頼まれ、私が書いたんです』と。(中略)そして、A氏は、更にこう言いました。


『声明文は、私が日本語で書いた文案を書き換えたものを英訳、カイロ大学の声明文として学長のサインをつけて発表したものです。時間が限られていたのでそれしか方法がなかったんだと思います。当時は私も、彼女は卒業していると思っていたから原案を書いたし、気軽に「エジプト大使館のHPに載せればいい」などと助言しました。


結果、エジプト政府も認めている形となり、メディアはこの問題を取り上げなくなった。今となっては忸怩たる思いです。このことは、どこかで明らかにするべきではないか、そう思ったりもしています』」


■「カイロ大学卒」と明示すれば「刑事告発します」


小島氏はこうも記す。


「声明文は、はからずも、私が発案して、A氏が文案を作成した。それに小池さん自身が修正を加えた。そして、ここからは推測になりますが、彼女側から大使館へ依頼して掲載された。これがカイロ大学声明発出の内実だ、というのが私とA氏の結論です」


この学歴詐称の件はすでに時効になっているが、今夏には再び都知事選がある。


「学歴の詐称は、公職選挙法の虚偽事項公表罪にあたります。ただ、公訴時効は三年。二〇年の都知事選の選挙広報にも、小池さんはカイロ大学卒業と明記していますが、すでに時効が成立しています。この手記を読んで、次の都知事選で彼女が再び学歴を明記するかどうか。私は注目しています」


そしてこういい切る。


「小池氏が『カイロ大学卒』と選挙公報に明示すれば、刑事告発します。その時に備え証拠を保全しています」(週刊文春4月25日号


もし、小池氏が「カイロ大学卒」と書かなければ、カイロ大卒という経歴は虚偽だったと自ら認めることになる。小池氏にとっては、どちらも致命傷になりかねないのである。


小池氏が政界の師と仰ぎ頼りにする二階元自民党幹事長は、派閥の裏金問題もあり、次期衆院選に出ないことを表明した。


■小池氏の元同居人の告発を朝日新聞は無視


後ろ盾を失い、これまですべて自分中心でやってきた小池氏だから、心を許せる友人や仲間はそう多くないようだ。


だが、小池氏には心強い味方がいる。メディアと多くの支持者たちである。先の朝日デジタルにもこうあった。


「朝日新聞の28日の出口調査では、『小池知事を支持する』という回答が54%だった」


支持者が離れない理由は、メディアが小池氏の「悪い話」を報じないからである。


今回の小島氏の告発も、ほとんどの大メディアは取り上げていない。都民は知る術がないのである。


同じ文藝春秋に、『女帝』の中で小池氏の学歴詐称を初めて告発した、かつての同居人、北原百代氏がメディアの怠慢をこう告発している。


「百合子さんがしていることは、やはり犯罪なのです。黙っていることは、その罪に加担するのと同じです。


そこで私は、メディアに伝えようと思い立ち、まず朝日新聞に配達証明郵便で、手紙を送りました。『小池百合子さんは学歴を詐称している。自分は同居しており、全てを知っているので、話を聞いてくれないか』という内容でした。自分の氏名と、当時は日本に滞在していたので、その住所も書きました。ところが、まったく連絡がなかった。メディアにもあなたの力が及んでいるのではないかと、私はさらに恐怖の念に囚われました」


朝日新聞はこの告発に対して沈黙したままである。


■公約の「7つのゼロ」はほとんど達成されていない


私も東京都民だが、東京都から恩恵を受けたことはほとんどない。


彼女が初当選した時の公約を憶えているだろうか。「7つのゼロ」を掲げた。「待機児童ゼロ」「残業ゼロ」「満員電車ゼロ」「ペット殺処分ゼロ」「介護離職ゼロ」「都道電柱ゼロ」「多摩格差ゼロ」。


この中で達成できたのは「ペット殺処分ゼロ」だけだが、これも「獣医師の判断によって病気やけがなどを理由に処分したイヌ、ネコは除外されています」(しんぶん赤旗2020年6月28日付)。


私の家の前の道は狭くて救急車が何とか通れるぐらいで、消防車は入れない。道路には多くの電柱が立ち並んでいて昭和30年代そのままの姿だが、首都圏大地震が来たらと思うと夜も眠れない。


築地の女将さんたちを喜ばせた、豊洲移転を白紙にし、築地を残すという“約束手形”も、いつまでも結論を出さなかった。


結局、2年遅れで土壌汚染問題が完全に解決されたわけではないのに、十分な説明もないまま豊洲市場移転を決めてしまったのである。


挙句に、築地を5万人収容のエンタメ施設にするなどといい出し、裏切られたと築地の女将さんたちを激怒させた。


写真=iStock.com/pattilabelle
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pattilabelle

■異論に耳を傾けず、「小池劇場」に終始している


東京五輪開催についても、先の小島氏はこう書いている。


「国内スポンサーからの収入は三千七百六十一億円にのぼり、そのうちIOC・JOC・電通の取り分は総額一千七十七億円でした。それらは適正な金額だったのか。どこにいくら入ったのか。東京都は五輪組織委員会に監事を送り込んでいましたが、言を左右にして説明していません」


「異論を許さない強権的な体制」(小島氏)は、現在、世界的な問題にもなっている明治神宮外苑の再開発問題でも同様、何ら説明責任を果たしていない。


思い出されるのは、2017年に安倍晋三首相(当時)が臨時国会冒頭解散を打ったときである。


彼女は突然「政治をリセットする」と宣言し、新党「希望の党」を立ち上げるといい出したのである。


突如、打倒安倍政権を旗印にしたのだが、党勢が勢いをなくしていた民進党は、前原誠司代表が前のめりになり、希望の党に民進党が吸収される形で合意したのである。


安倍一強政治に飽いていた国民は、これで政権交代ができると歓迎し、大フィーバーが起きた。


メディアも挙(こぞ)って希望の党を持ち上げ、安倍自民党も相当な危機感を持ったといわれる。


「小池劇場」最大の見せ場だった。


しかし、この勢いを止める小池氏本人の“本音”を引き出したのは、大メディアではなく都知事の定例会見に出ていたフリージャーナリストの横田一氏だった。


■加盟社の記者たちがニヤニヤ笑って見ている中…


いつもは小池氏は彼を指名しないのだが、この日の小池氏は高揚していたようだった。


横田氏は質問を始めたが、他の加盟社の記者たちはニヤニヤ笑って見ているだけだったと『女帝』の中にある。


要約するとだいたいこういう内容である。


「安保・改憲で一致しない人は公認しない。前原氏を騙して、リベラル派を大量虐殺、公認拒否をするということか」


小池氏は笑いをこらえるようにしながらこういった。


「『排除されない』ということはございません。排除いたします」


しかし、このひと言がここまでの流れを一気に変えてしまったのである。


細川護熙元首相は「公認するのに踏み絵を踏ませるというのはなんともこざかしいやり方」だと毎日新聞紙上で厳しく批判した。希望の党への国民の期待はあっという間に萎んでいってしまった。


これまでの政治家人生で、小池氏が味わった最大の“挫折”だったはずだ。


■“モンスター”に変身させたメディアの罪


私は彼女がまだ『竹村健一の世相講談』のアシスタントキャスターをしていた頃に、一度会ったきりだ。もちろん、今のような“女帝”になる片鱗もなかった。


私は、小池氏を“モンスター”のごとく変身させてしまったのは、メディア側の責任が重大だと考える。


前回の学歴詐称疑惑の時も、駐日エジプト大使館がSNSに載せただけの声明文に何ら疑いを持たず、裏も取らず、これで疑惑は晴れたとメディアは早々に追及の矛を収めてしまった。


小池氏の都知事としての実績を一つ一つ点検し、評価したメディアはほとんどないのではないか。


彼女の学歴詐称問題が再び問われているのを機に、人間・小池百合子と小池都政を冷静に総点検してみる必要があるこというまでもない。


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元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。
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(ジャーナリスト 元木 昌彦)

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