昔は簿記3級に落ちるレベル…絶好調「chocoZAP」仕掛ける社長が今、財務担当級の会計知識で敏腕振るうワケ

2024年5月14日(火)16時15分 プレジデント社

RIZAPグループ 代表取締役社長 瀬戸健 1978年、福岡県生まれ。2003年、RIZAPグループの前身となる健康コーポレーションを設立。パーソナルトレーニングジム「RIZAP」などのサービスを世に送り出す。コンビニジム「chocoZAP」が大ヒット中。

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■任せ上手だと思ったら勘違いに気づいた過去


人に仕事を任せたいが、自分でやったほうが早いのでためらってしまう——。そう考えたことがあるビジネスパーソンは多いでしょう。


とはいえ、私は21年前に妻と二人で会社を立ち上げたときから、躊躇することなく人に仕事を任せてきました。


RIZAPグループ 代表取締役社長 瀬戸健 1978年、福岡県生まれ。2003年、RIZAPグループの前身となる健康コーポレーションを設立。パーソナルトレーニングジム「RIZAP」などのサービスを世に送り出す。コンビニジム「chocoZAP」が大ヒット中。

理由は簡単。能力的に自分にできることが限られているからです。私は身の回りの細かい整理整頓が苦手です。RIZAPグループの前身である健康コーポレーションでは、創業当初に「豆乳クッキーダイエット」という商品がヒットしました。私は箱詰めや包装など、細やかさが必要な作業がヘタなので、それらの作業は妻の実家にお願いしました。社員や取引先が増えた後も、自分がパフォーマンスを発揮できない領域は積極的に人に任せていました。


自分でやったほうが早いし、クオリティも高いと考えている人は、自己評価が高すぎるのかもしれません。そのため、人に任せても足りないところばかりが気になってしまうのです。「自分はスーパーマンではない」と知っていれば、むしろ「補ってくれてありがとう」と、感謝の気持ちを持って人に任せられるはずです。


限界があるのは能力面だけではありません。働き方改革が進む今の時代、切実なのは時間の問題です。たとえ能力があっても、一日は24時間以上に増やせません。自分の時間が有限である以上、やはり人に任せざるをえません。


実は妻は何でも一生懸命やってしまうタイプでした。仕事を実家に任せても、心配になって自分も手伝いに行っていました。私としては、妻には自分が最も能力を発揮できる仕事に集中してほしかったのですが、頑張り屋なのでつい無理をしてしまうのです。


そんな妻が、ある日を境に実家の手伝いをピタッとやめました。妊娠がわかったからです。妻は自分の時間をすべて仕事に使えない現実に直面して、はじめて人に全面的に仕事を任せる覚悟ができたのでした。


妻が手伝いをやめた後に実家の作業が停滞したかといえば、そんなことはありませんでした。限られた時間の中で、自分がいなくても回る仕事は素直に人に任せたほうがいいのです。


躊躇なく人に仕事を任せる方針は、会社が上場し、経営が多角化していった後も変わりませんでした。なんなら、「自分は人に任せることが得意」「我が社は社員への権限委譲が進んでいる」と自慢げに語っていたくらいです。


しかし、私は甘かった。人にどんどん仕事を任せていたら、しだいに任せることの弊害が目立ってきたのです。


まず、全社で共通の認識を持てなくなりました。どのようなゴールを目指し、到達するまでにどのようなアプローチを取るのか。社員が少なかったうちは言わなくてもなんとなく共有できていたことが、中途で多様なキャリアの人が入社してくるにつれて曖昧になり、収拾がつかなくなっていきました。


手段も含めて自由にやらせると、任せた相手の実力がむき出しになって結果に反映されます。そこでいい結果が出ればいいのですが、数字が伴わず、苦しむ者もいました。


自分では任せ上手だと思っていましたが、それは勘違いでした。


考えてみると、子育てのときに親が何も関与せずに放置することはありません。子どもの能力や状況に合わせて、自由度を決めることが普通です。それなのに、仕事では任せっぱなしでも結果が出ると思っていた。いろいろと弊害が起きてはじめて自分は「仕事を任せてたのではなく、単に丸投げしていただけだ」と気づきました。そう反省してからは、同じ仕事を任せるにしても、任せ方を工夫しています。


■制約条件を明確化する


具体的に意識しているのは、「制約条件」を明確にすることです。例えば子どもに自分のお小遣いの使い方を任せるとします。このときいくら使っても使いきれないくらいのお小遣いをあげると、子どもはいつまで経ってもお金のやりくりを覚えられませんよね。


人に子会社の経営を任せるときも同じです。いくらまでは親会社から貸し付けるとあらかじめ取り決めないと、子会社側に当事者意識が芽生えません。お金が尽きれば困る環境を整えてこそ、お金のマネジメントを覚えます。


制約条件を腹落ちさせるために、その条件が生まれた背景を理解させることも重要です。


今年3月、コンビニジムの「chocoZAP」は、「キッズパーク」や「カラオケ」など7つの新サービスを店舗に導入すると発表しました。店舗で洗濯機と乾燥機が利用できる「ランドリー」もそのうちの一つです。


これまで金銭的な事情で我慢していた自分磨きや健康のための活動を、月々2980(税込3278)円で思い切り楽しんでもらうとうのがchocoZAPのコンセプト。ご自宅に洗濯機や乾燥機を置いていないユーザーのニーズに応えるランドリーは、chocoZAPのコンセプトにも合致していて、社員から提案があったときはすぐにテストしたいと思いました。


ところが社内での検討作業を任せていた段階で、いつの間にか導入する乾燥機がコストの高いガス式になっていました。ガス式はパワーがあって早く乾きますが、導入コストがすごく大きい。お客様が求める以上にハイスペックなものを用意してコストが高騰し、2980円のビジネスモデルの中でサービスを実現できなければ、そもそも意味がありません。乾燥機をガス式から家庭用に変更したうえでテストを行い、無事リリースに至りました。


ランドリーのサービス案が一時的に迷走したのは、組織や事業としての目的や目標を共有しきれていなかったから。目的や目標が明確ら、おのずとそれに適さないやり方はNGになります。リーダーはそのすり合わせを行ったうえで、人に仕事を任せるべきです。


環境を整えたら、次は方法論の共有です。組織が大きくなるにつれて、あるチームが失敗したことをほかのチームに共有しようと思っても、情報が伝わりにくくなります。情報が伝わらない原因は、共有する側の伝え方に問題があったり、共有される側の受け止めが軽いなど様々です。いずれにしても、これではほかのチームも同じ失敗を繰り返してしまうでしょう。


逆に、あるチームが成功したのに、隣のチームはそのやり方を知らず壁にぶつかるケースも。やり方を完全にチーム任せにしていると、往々にしてそのようなことが起こります。再現性の高いノウハウに関しては子会社や部署を越えて共有して、任せる相手に一定の武器を与えておくのがいいでしょう。


仕事の任せ方は、相手によって変える必要があります。経験豊かで結果を出している相手なら、より大きな裁量を与えても大丈夫かもしれませんが、経験や実績が心細い相手なら、足りないところは補完したほうがいい。例えば商談なら自分が同行したり、財務や人事など専門領域に関わる仕事なら社内の専門家をつけてサポートしたいところです。


どんなタイプの人に任せるかは、それほど重要ではないと思っています。条件として熱意や責任感を挙げる人もいますが、仕事の成否は変数が多すぎて、一概に「〜な人だから結果が出る」という因果関係がわかりにくい。ビジネスは総合力です。一つの要素にとらわれより、総合力の帰結としての成果に注目したほうがいいと思います。


そのうえで、任せた相手に足りないものがあれば人をつけるなどして補完します。重要なのは組織やチームで成果を出すこと。誰に仕事を任せるにせよ、任せる仕組みが整っている会社が成長できるのです。


■仕事を任せることは楽しみなことである


既存の仕事ではなく、企画の提案も含めて、新しい仕事を任せるときにはどうすればいいのでしょうか。


昨年末、中国のとある展示会に若手を含め、約20人の社員を連れていきました。chocoZAPで展開する新サービスや改善策を社員に考えてもらうのが目的です。経験を積むと会社の都合でものを見るようになりがちですが、若手はユーザーの立場に近く、いい意味で業界の常識に縛られていません。発表してもらうアイデアは一人3つで、計60個が出ました。その中からchocoZAPの新サービスに採用されたものはいくつもあります。


私が新サービスの採用基準で重視しているのは、アイデアがプランに落とし込まれているかどうかです。実は以前の我が社は、良さそうなアイデアがあればすぐ実行に移していました。PDCAならぬ、「IDEA→DO」のIDCAです。IDCAはスピードが速くていいのですが、プランなしに実行すると事後の振り返りができず、学びを得られないケースがよくありました。成功しても再現性がなく、失敗したときは原因がわからず改善につなげです。


私は失敗することを前提に、計画、設計、実装、テストの各工程で検証作業を繰り返す「アジャイル開発」的なサイクルを回したほうが正解に近づきやすいと考えています。だから自分自身よく失敗しますし、任せた人が失敗しても気になりません。ただ、失敗から学びを得るには、後で検証可能なプランが必要です。そう痛感してからは、たとえ熱心にアイデアを提案されても、プランを詰め切れていなければゴーサインを出さないようにしています。


逆にプランに落とし込まれていれば、提案した社員が経験不足でもとりあえずやらせます。プランをつくってプレゼンすれば、当事者意識が芽生え、本気になって目的を果たすための手段を考えます。当事者意識が強いと、失敗したときの精神的なダメージは大きくても、その経験が生きた学習材料になる。本人の成長という観点でも、プランをつくったうえで挑戦させることが大事です。


一方、任せる側もプランを見たときに良し悪しを判断できるくらいの最低限の知見が必要です。自分が得意ではない領域ほど人に任せたほうがいいとはいえ、我関せずでは適切なサポートができません。自分が苦手な領域でも、基本は押さえておくべきです。


■リーダーは、いわばオーケストラの指揮者です


私は創業当初、会計が大嫌いでした。しかし、経営者が経理や財務を知らずに人に丸投げするのは危険です。最初は簿記3級を受けても落ちるレベルでしたが、勉強を続けて今では財務担当者にツッコミを入れられるくらいになりました。任せる側も成長しないと、任せ上手になれないのです。


リーダーは、いわばオーケストラの指揮者です。楽団員より優れた演奏技術を持っていなくてもいいですが、楽器や演奏者をよく理解てこそ一人一人のパフォーマンスを引き出し、オーケストラとして最高の音楽をつくりだすことができます。


今年は中国の展示会に、新卒を含めて約100人の社員および関係者を連れていく予定です。そこからどのようなアイデアが生まれるのか。今から任せるのが楽しみです。


※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年5月17日号)の一部を再編集したものです。


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瀬戸 健(せと・たけし)
RIZAPグループ 代表取締役社長
1978年、福岡県生まれ。2003年、RIZAPグループの前身となる健康コーポレーションを設立。パーソナルトレーニングジム「RIZAP」やマンツーマン英会話スクールの「RIZAP ENGLISH」を世に送り出す。コンビニジム「chocoZAP」が大ヒット中。
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(RIZAPグループ 代表取締役社長 瀬戸 健 構成=村上 敬 撮影=宇佐美雅浩)

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