ボンネットバスが「昭和の町」へ、高齢者「懐かしい」・子ども「かわいい」…運転手は「ハンドル重く汗だく」
2025年5月18日(日)10時21分 読売新聞
昭和の町並みを走るボンネットバス。商店主が出てきて手を振ってくれる(大分県豊後高田市で)
[楽しいバス]<2>
「67歳。私じゃなくてバスよ」。4月中旬、車掌を務める西佐知子さん(53)が軽妙な語り口でバスを紹介すると、笑い声があがった。
昭和30年(1955年)以前に建てられた商店や、レトロな字体の看板などが中心部の商店街に残る大分県豊後高田市は、「昭和の町」を売り出している。その商店街の狭い道をゆっくり通り抜けるのが、運転席前が突き出ている1957年製造のボンネットバスだ。
床は板張りで、エアコンはない。秋田県内で路線バスとして使われていたが、69年に役割を終え、放置されていたという。これを豊後高田市が観光資源として目をつけ、大規模修繕してもらった車体を購入して、2009年から運行している。
当時をそのまま再現しているため、ハンドル操作を軽くするパワーステアリングは付けられておらず、運転手の清原一義さん(76)は「ハンドルが重くて、止まった状態から動かすときは汗だくになります」と話す。
550メートルほど続く「昭和の町」には、年間およそ30万人が訪れる。バスは日曜、祝日に1日9便運行され、無料で乗車できる。乗客の約8割は県外からの観光客で、バス好きだけでなく、若い世代も写真撮影などで、バスと昭和の町を楽しんでいる。
子どもの頃にボンネットバスを見た記憶があるという、千葉市の磯貝裕さん(74)は「バスといったらこれ。町並みと相まって、とても懐かしい気持ちになった」。鹿児島市から家族4人で訪れた小学4年の女児(10)は「普段見ているバスと形が違って、かわいい」とうれしそうだ。
四国交通(徳島県三好市)でもボンネットバスを運行している。1966年から路線バスとして活躍した後、定期観光バスで運行されたが、老朽化のため維持できなくなり、2021年に引退した。しかし、地域の住民などから乗りたいという声が上がり、22年にクラウドファンディングを実施。1000万円近くの支援が集まり、大規模改修を行うことができた。
車両を大切に使うため、路線バスとして運行するのは年に3〜4回ほどだが、運行日には全国からバスファンが訪れるという。
「RL型」も
レトロなのはボンネットバスだけではない。伊予鉄南予バス(愛媛県八幡浜市)が所有するのは「RL型バス」と呼ばれる車両。全体が丸みを帯び、車体にリベットと呼ばれるびょうがたくさんあるのが特徴だ。1980年に運行が始まり、数年前までは路線バスとして活躍していた。現在は年に数回貸し切りバスとして運行されているという。
NPO法人「日本バス文化保存振興委員会」理事長の鈴木文彦さんは、各地で人気を集める古いバスについて、「高齢者は懐かしく、若者には新しい。多世代が無理なく楽しむことができる」と指摘する。その上で、「古い車両の維持にはコストがかかり、だんだん数が減ってきている。レトロなバスに乗ったり、見たりできるのは長くないのかもしれず、気になる車両があれば、早めに訪れてみるといいですね」と話している。
見学ツアーも人気
往年のバスを見学できるツアーも人気だ。
近江トラベル(滋賀県彦根市)は、グループ会社の近江鉄道が運行する30年以上前の旧式バスに乗ったり、撮影したりできるツアーを2023年に開催したところ、定員30人が即日満員になった。参加費は1万2000〜1万5000円と決して安くはないが、これまで計6回開催し、いずれもほぼ完売だったという。
自身もバス好きという、企画した近江トラベルの尾道祐太さん(27)は「バスは公共交通なので、思うように見たり撮ったりできないこともあるが、ツアーなら思う存分楽しめる。往年のバスと思い思いの時間を過ごしてほしい」と話し、今後もツアーを予定しているという。