結婚できないオジサンに人権なんかない…生きているだけで冷遇される「弱者男性」の悲痛な叫び

2024年5月20日(月)8時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

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男性に「男らしさ」は必要なのか。「弱者男性」にインタビューしたライターのトイアンナさんは「『男性はこうあるべき』という古い価値観が男性自身を苦しめている。しかし、現状では男性が男らしさから降りるメリットはない」という。著書『弱者男性1500万人時代』(扶桑社新書)より、一部を紹介する——。(第2回/全2回)
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■男の「勝ち組」と「負け組」の基準


臨床心理学研究者の森裕子氏とお茶の水女子大学人間科学系准教授の石丸径一郎氏の論文によると、女性は自分の優位性を示すとき、3つの軸があるという。


伝統的な女性らしさを持つ女性
vs
自立した地位ある女性
vs
性的魅力を持つ女性


このうち、どれかに秀でていたとしても「でもあなたは○○がないから」と他の軸で自らの優位性を示すことができる。そのため、女性同士の優位性には勝ち負けが表れにくく、競争や格付け争いが複雑化しやすいというものだ。


それに対して、男性の価値基準は概ねシンプルである。


・年収
・外見


総じてこのいずれかである。たとえば、男性が男性に年収を自慢されたとき、「でもお前は育児に参加していないから」と反論しても優位性は誇示できない。また、「お前、100kgのバーベルも持てないくせに」と肉体的男性らしさをアピールしても、ギャグに映るのではないだろうか。


■親の年収と子の年収には相関関係がある


このように、男性社会における勝ち負けは実にシンプルである。また、年を追うごとに年収の価値も上がっていくため、中年男性においてはもはや「年収」の一極でもよくなってくる。ところが、このわかりやすすぎる勝敗は「弱者性」と相容れない。負けた側は、勝った側と公平なスタートラインに立ち、能力不足で負けたとみなされやすいからだ。


だが、実際にはそうではない。たとえば、お茶の水女子大学が発表した「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究」によると、親の年収は子の学歴に比例するという。


また、厚生労働省がまとめた「令和4年賃金構造基本統計調査」によれば、学歴別の賃金の平均は、高校が27万3800円、専門学校が29万4200円、高専・短大が29万2500円、大学が36万2800円、大学院が46万4200円である。


つまりは学歴の高さと年収にも相関関係があるということだ。結果として、親の年収は子の年収に相関関係があると推測される。


■生まれた時点でハンディを背負う人たち


東京大学学生委員会が行った「2020年度(第70回)学生生活実態調査」でも、東大生の親の42.5%が平均世帯年収1050万円以上だということがわかっている。年収アップに手堅い要素である学歴の最高峰においても、親の学歴が相関しているのである。


アメリカのデータでは、起業家の数には「親の年収」と明確な正の相関がある。親の年収が上位15%だと、起業家率がぐっと高くなるのだ。また、成功する起業家の年収は、親の年収と相関することもわかっている。


このように、年収とは親世代から受け継ぎやすいものだといえる。関連を考えても明確で、そもそも経済的に成功した者のもとに育てば、高年収になるコツを身近で学ぶことができる。学歴を得るための支援も受けやすい環境だ。少なくとも「勉強している暇があったら親の面倒を見ろ」とは言われない。周りにドロップアウトを誘うような仲間も少ない。


出所=『弱者男性1500万人時代

奨学金があろうが、支援者がいようが、その情報自体を知らなければ、そしてリーチできなければ意味はない。貧困家庭に育つということは、単純に金銭面だけではなく情報面でのハンディも背負う。だが、現状ではそれが勘案されていない。


■弱さを語ることは「男らしくない」


世の中には、弱さを語ることに対するバッシングもある。『男がつらい!』や『非モテの品格』の著者である、批評家の杉田俊介氏は「男の弱さとは自分自身の弱さを認められない弱さ」と語る。


フェミニストはよく、男性が弱さを認められないことから、DVやいじめといった攻撃性に転嫁するありさまを「有害な男らしさ(Toxic Masculinity)」と呼ぶ。「男性は強くあるべきだ」「男性は泣いてはいけない」など、「男性はこうあるべき」という古い価値観が、男性自身を苦しめるというのだ。


男らしさ、女らしさを求める旧来の社会における反省から、「男らしさから降りよう」という提言がなされることは多くあった。


■「上位のオス以外に存在価値なんてない」


だが、仮にこういった「男らしさ」の有害な側面を認めたところで、現状の日本男性にとって男らしさから降りるメリットはない。実際に降りてしまった後、どうしたらいいのか。結局は生きていく道がなく、逃げ場はない。同性である男性同士でその悩みを分かち合うことも難しい。


その点について、実際にいっとき、男らしいとされる行動から距離を置いた松尾昭一さん(仮名)から話を聞いた。


写真=iStock.com/kazuma seki
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——男らしさから「降りる」ということについて、どう思いますか。


昔は惹かれる面もありましたけど、何もいいことはなかったです。まずモテない。たとえば「男だからって、初デートで奢らなくていい」みたいなことを言う女って、クソだと思うんですよ。だって初デートで割り勘して、次につながるわけないじゃないですか。そういう提言をしている女だって、奢られるほうがいいんでしょ。というか、そういう男と結婚してるでしょっていう。


そもそも、上位のオス以外に存在価値なんてないんですよ。動物ってそうでしょ。メスに選ばれたオスにしか、子孫は残せないんですよ。メスは強いオスとしかつがいになりたくない。これはもう真実です。


マッチングアプリを開いたら、女はそこから上位の男だけを選んでいいねするでしょ。それでアルファ(上位の男)に遊ばれたとしても、俺みたいな下位の男と寝るより、ずっとマシなんですよ。むしろ俺だったら、金をもらってでもやりたくないって言われるだけですよ。


■「総結婚時代」が終わり、動物の世界へ


みんなが結婚できる時代って、終わったわけじゃないですか。恋愛結婚って、動物の世界に逆戻りしたのと同じです。つまり、アルファオスが女を独占して、下位のオスは黙って死ぬしかないんです。


女はそれで、「男はみんな浮気してる」とか言うじゃないですか。俺らのことが見えてないんです。俺らは透明な存在なんですよ。アルファ以外の男は、視界に入らないんです。だから選ばれない。


俺らみたいな下位オスができることって2つしかなくて。ひとつは諦めて死ぬ。もうひとつは自分がアルファになることです。ナンパ師みたいな人たちって、必死で整形して、服全部買い替えて、話術も鍛えてて、すごいですよ。(ナンパ師を)バカにする人もいるけど、結局セックスできてるのはどっちだ、って話なんです。


■「独身のおっさん」はいるだけでやばい


——「女性から選ばれない」ことが、そこまで不幸感につながっているのはどうしてだと思いますか。


40代も後半になったらわかりますよ。毎日同じ仕事をして、割引になった惣菜買って、安い焼酎を買って……って繰り返してみなさいよ。同級生は3人目の子どもが生まれて、家を買って、小学校の卒業式の写真をアップしてるんですよ。


それを見ながら酒を飲んで、ソシャゲのログボ(定期的にゲームを起動することで得られる特典)だけ回収して、クソして寝る。このどこに幸せを見いだせって言うんですか。今さら趣味のサークルに顔を出したって、公園でただ日向ぼっこしてたって、下手すりゃちゃんと金払って居酒屋で飲んでても、俺みたいなのは不審者ですよ。


いいっすか、独身のおっさんに人権なんかないんです。そこにいるだけで怪しくて、やばいんですよ。だからこのインタビューを見てくれる人には言いたいですね。死ぬ気でスペック上げろ。女を抱け。そうしないと人生終わるって。


■怖い人から逃げる男性は「卑怯」?


松尾さんの言葉には、インパクトがあった。とてもではないが、筆者に否定する力は起きなかった。この数十年で「独り身の女性」の待遇はかなり変わった。オールドミスなどとバカにされた時代から、趣味や仕事を楽しむ「ソロ活」としての自分を認めてもらえる時代に変化しつつある。


さすがに女性一人でディズニーランドや焼き肉店へ入るのは抵抗があるという女性もいるだろうが、たとえ行動したとしても、わかりやすい悪口を聞かされることはない。


それと比較して、独り身の中年男性は確かに冷遇される。通学路、公園、夜道、どこにいても「怖い、危ない」存在に映るからだ。通報されるリスクは高い。


2023年に、Xではこんな話題が出た。「男らしさから降りればいい」と言う女性に対して、ある男性が「だったら、怖い人に絡まれたときに怯えて逃げる男性と添い遂げてほしい」と反論が届いたのだ。それに対して、元の発言をした女性は「それは弱い男ではなく、卑怯な男だ」と切り返した。


■男性は「男らしさ」から降りられない


だが、そうだろうか。「土壇場では男は女を守るもの。そうでなければ卑怯である」という前提がそこにはないだろうか。女を置いて逃げる男は、男ではないと認識していないだろうか。



トイアンナ『弱者男性1500万人時代』(扶桑社新書)

そこに、男性が「男らしさ」から降りられない構造がある。そして、未婚であることが社会的に大きなスティグマとなり得る男性にとっては、女性から恋愛対象として“ないわ”と軽蔑されることが、あまりにも大きなマイナスとなるのだ。


もし、本当に「男らしさから降りて」も平等に扱われるなら、降りたい男性は多いだろう。だが、暴漢に脅されて泣きながら女性にしがみつく男性は、モテない。同じシチュエーションでも女性なら立ち向かおうが、泣きつこうが恋愛対象になるのとは対照的である。


念のため付記するが、日本で女性に対する差別がないとは言っていない。ただ、この数十年で女性が「女性らしさ」から少しずつ解放されてきた流れとは裏腹に、男性はまだ男らしさの呪縛に、がっちりと囚われている。男らしさは構造的な問題であるがゆえに、男性個人が「降りた」と反旗を翻すだけでは、価値観を引っくり返せないのだ。


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トイアンナ(といあんな)
ライター・経営者
慶應義塾大学を卒業後、P&GジャパンとLVMHグループにてマーケティングを担当。同時期にブログが最大月50万PVを記録し、2015年に独立。主にキャリアや恋愛について執筆。書籍『就職活動が面白いほどうまくいく 確実内定』(KADOKAWA)、『モテたいわけではないのだが ガツガツしない男子のための恋愛入門』(イースト・プレス)、『ハピネスエンディング株式会社』(小学館)など。これまで5000人以上の悩み相談を聞き、弱者男性に関しても記事を寄稿。
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(ライター・経営者 トイアンナ)

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