「なぜ家族に怒鳴ってしまったの?」同じことを聞き出すにも責めているように聞こえない言い換えフレーズ

2024年5月23日(木)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

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相手が話しやすい質問は何か。心理カウンセラーの古宮昇さんは「『質問を上手に使う対話』は傾聴ができているが、『根ほり葉ほりの尋問をしている対話』は事情聴取のようになってしまう。事情聴取の目的は、聴き手が知りたい情報を集めて話の内容をコントロールし、何を話させるかを決める一方で、傾聴は会話のコントロールを話し手に委ねるものだ。特に『なぜ』『どうして』と尋ねるときには、批判的に感じさせないよう、表情、言い方、声の様子についても留意すべきだ」という——。

※本稿は、古宮昇『一生使える! プロカウンセラーの傾聴の基本』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。


■使い方ひとつで「質問」は「尋問」にもなりうる


傾聴では、話し手のペースに沿って話を聴いていきます。聴き手からはどのように質問すればよいのでしょうか?


聴き手が質問を上手に使うと、話し手は話しやすくなります。


上手な質問のコツは、話の流れに沿った質問をすることです。そうすれば、話し手は話したいことをさらに話しやすくなります。話し手が話したいことをより話しやすくするのが適切な質問であり、話そうとしていないことを掘り下げるような質問は対話の邪魔をします。


根ほり葉ほりの尋問になってしまっては、話し手が嫌な思いをします。また、あれこれと質問しすぎると、傾聴の対話ではなく一問一答式のやり取りになってしまいます。


それでは話し手は質問に答えるだけになってしまい、本当に話したいことを話すことができなくなります。


話し手の話の流れに沿っている質問と、話の流れを邪魔する質問を比べてみましょう。


写真=iStock.com/PeopleImages
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《質問を上手に使う対話》

【話し手】今年ね、大きな震災に遭ったんです!
【聴き手】えっ、地震に遭われたんですか!
【話し手】ええ、かなり揺れましてね。怖かったですよ
【聴き手】それは怖かったでしょう
【話し手】ほんと、怖かったです。で、私は大丈夫だったんですけど、妻がケガをしましてね
【聴き手】そうなんですか。おケガはひどかったんですか?
【話し手】家から逃げ出そうとしたら、転んで脚を折ったんです。それで、3日ほど入院しまして
【聴き手】3日間も?
【話し手】それが、妻は骨折より、地震の揺れがすごくショックだったようで、夜もうなされるようになって、今もときどき眠りが浅い日があるんです(心配そうな様子)
【聴き手】そうですか。ショックが尾を引いておられて、それはご心配でしょう?


《根ほり葉ほりの尋問をしている対話》

【話し手】今年、大きな地震に遭ったんです
【聴き手】いつですか?
【話し手】3月です
【聴き手】どこですか?
【話し手】茨城です
【聴き手】震度はいくつだったんですか?
【話し手】5ぐらいです
【聴き手】へえ……
【話し手】はい……(話が続かない)


上の2つの対話は、何が違うのでしょうか。


■話しやすくなるよう助けるのが適切な質問


《質問を上手に使う対話》では、聴き手は話し手の話の流れに沿って、話し手が話したいことを話しやすくなるよう質問をしています。具体的に見ていきましょう。


まず、聴き手は話し手が話したいことに沿って質問をしています「おケガはひどかったんですか?」「それはご心配でしょう?」がそれにあたります。


そして、聴き手は話の大切なポイントを短く返し、共感的な態度を伝えています。「えっ、地震に遭われたんですか!」「それは怖かったでしょう」「3日間も?」「ショックが尾を引いておられて、それはご心配でしょう」といった応答です。


写真=iStock.com/davidf
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/davidf

それに対して《根ほり葉ほりの尋問をしている対話》では、聴き手は話し手の内容に沿うことなく、聴き手が知りたいことを尋ねています。また、理解をしめす応答ではなく質問ばかりなので、会話もはずんでいません。


《質問を上手に使う対話》は傾聴ができていますが、《根ほり葉ほりの尋問をしている対話》は事情聴取のようになっています。プロ・カウンセラーであっても、実力の低い人は傾聴ではなく事情聴取をしてしまっていることがよくあります。


2つの違いについて、さらに詳しく見てみましょう。


■会話のコントロールを話し手に委ねる


話し手の気持ちや考えを自由に話してもらおうとするのではなく、聴き手が知りたいことを話させようとしたり、話し手の感情に注意を当てず、話の事実ばかりに注意を向けたりすると、事情聴取になってしまいます。


事情聴取の目的は、聴き手が知りたい情報を集めることです。ですから、聴き手が話の内容をコントロールし、何を話させるかを決めます。そして、起きた事件について客観的な事実をつかもうとします。もし何も話してもらえなければ、事情聴取は進みません。


それに対して傾聴は、会話のコントロールを話し手に委ねるものです。聴き手は話し手についていきます。客観的な事実を集めるのではなく、話し手が伝えたいことを、できるだけ話し手の身になって理解しようとします。


学校でも、問題を起こした子どもを呼び出して話を聞くとき、事情聴取と説教だけで終わってしまうことがよくあります。


その子の気持ちをその子の身になって理解しようとするよりも、「いつ」「どこで」「何をしたか」という客観的な事実の情報を集めるとともに、「なぜそんなことをしたのか」と問い詰めるのです。


しかしそんな態度で接すると、そこが警察署であれ学校であれ、話し手は脅威を感じていっそう心を閉ざすものです。もし事情聴取によって心がラクになったり人として成長したりするなら、警察の事情聴取によって犯人は癒され、更生するでしょう。


■あれこれ詮索せず、話し手の心の動きについていく


「とにかく話をさせよう」と考えている聴き手は、根ほり葉ほりの質問をしてしまいます。


しかし、話し手がその根ほり葉ほりの質問に答えてしゃべったところで、本来の心の自己治癒力が動き出すわけではありません。


それどころか、自分のペースを尊重し守ってもらえないため、聴き手との関係が安全なものではなくなり、心がさらに固くなりかねません。


ですから知りたいことを詮索するのではなく、なるべく話し手が話したいことについていくような対話に努めましょう。


聴き手が無理に話をさせようとしたり、あれこれ詮索したりすると、傾聴の援助的な対話にはなりません。


傾聴とは、あくまで話し手が表現する考えや感情をなるべく共感的に理解し、その理解を言葉で返すことによって、話し手の心の動きについていくことなのです。


■「なぜ」「どうして」ではなく「何が」「どう」と尋ねられるか


パーティーなどで楽しく話すときには、上手に質問することで「私はあなたの話に興味があります。もっと聴きたいです」というメッセージが伝わります。


その場合は、相手が話していることについてもっと教えてもらうための質問と、相手の興味あることや好きなことについて尋ねる質問をしましょう。


写真=iStock.com/maroke
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《上手な質問例1》

【聴き手】○○さんはお休みの日は何をして過ごされることが多いのですか?


《上手な質問例2》

【聴き手】シュノーケリングがお好きなんですね! シュノーケリングの楽しいところって何ですか?


しかし、悩み相談など話し手にとって深刻な話題のときは、質問を減らし、話し手が話す内容を繰り返すような応答をしましょう。なぜなら、辛い内容の場合は話をするなかでも傷つきを感じやすいので、詮索されることなく自分のペースで話す必要があるからです。


また、「なぜ」「どうして」という質問は、話し手を批判しているように聞こえがちです。ですから、代わりに「何が」「どう」「どんなふうに」と尋ねることができるのなら、そのほうが安全です。


■批判的に感じさせないための表情、言い方、声の様子


「なぜ」「どうして」と尋ねるときには、批判的に感じさせないよう、表情、言い方、声の様子についても留意しましょう。



古宮昇『一生使える! プロカウンセラーの傾聴の基本』(総合法令出版)
《質問の言い換え例1》

「なぜ奥さまに怒鳴ったんですか?」

「奥さまに怒鳴らずにいられないぐらい腹が立ったんですね。何に腹が立ったんですか?」


《質問の言い換え例2》

「なぜ泣いているの?」

「本当に悲しいんだね。何がそんなに悲しいの?」


《質問の言い換え例3》

「どうしてその集まりに行きたくないんですか?」

「その集まりに行くのは何がイヤなんですか?」


いざ実践しようとすると、傾聴が難しい場面にもぶつかります。話し手が沈黙する、話し手が気持ちを話してくれない、自分のことを話さず質問をしてくる、などなど。


本書にはこうした状況が起きたときにそれをどう理解し、どう対応すればいいかを解説しています。是非ご一読ください。


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古宮 昇(こみや・のぼる)
心理カウンセラー
心理学博士。公認心理師・臨床心理士。米国州立ミズーリ大学コロンビア校より心理学博士号(PhD.)を取得。米国にて、州立児童相談所、精神科病棟などで心理カウンセラーとして勤務し、州立ミズーリ大学心理学部で教鞭を執る。日本に帰国後は、心療内科医院および大学の学生カウンセリング・ルームのカウンセラー、大阪経済大学人間科学部教授を経て、現在は神戸にてカウンセリング・ルーム輝代表。
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(心理カウンセラー 古宮 昇)

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