1口330万円が2時間半で200口完売…東京の子育て世代が「館山のシェア別荘」に飛びついた意外すぎる理由

2024年5月23日(木)6時15分 プレジデント社

SANUの福島弦さん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

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別荘サブスクを展開するSANUが2024年3月に発売した「1口330万円のシェア別荘」が、2時間半で全200口を完売した。購入者の多くは30〜40代の子育て世代だったという。なぜ子育て世代が別荘購入に殺到したのか。SANUの福島弦代表に聞いた——。
撮影=プレジデントオンライン編集部
SANUの福島弦さん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■330万円の別荘プラン200口が即完売


——2021年に開始した別荘サブスク「SANU 2nd Home」(月額5万5000円)は、4月末現在で18拠点100室となりましたが、登録待ちが続いています。2024年末までに30拠点200室に拡大予定ですが、なぜ買い切り型の「シェア別荘」も始めたのでしょうか。


おかげさまでSANUの事業は順調で、収益は約2年半で30倍になり、資金調達は累積で120億円になりました。共有オーナー型の構想自体はSANUの立ち上げ当初からありました。ただ、月額のサブスクと違って、共有オーナー型は30年間の契約になるため、新しい企業がいきなり始められるものではありません。状況が整ったので、このタイミングでのローンチとなりました。


2024年3月に発売した「SANU 2nd Home Co-Owners(コオーナーズ)」の第1弾「館山1st」は、販売価格330万円(税込)、年間管理費9万3600円(同)でした。この場合は年12泊、30年間で360泊できる仕組みです。


——「200枠、約6億円分が2.5時間で完売した」というプレスリリースを出されていますね。


サブスクではある程度の手応えを得ていましたが、共有オーナー型での反響がどうなるかは、ローンチしてみなければわかりません。2年半前に別荘サブスクを開始したときと同じぐらい緊張しました。あっという間に完売し、本当にうれしく思っています。


■顧客は都市部に暮らす30〜40代のファミリー


——「330万円の会員権」に購入者が殺到するというのは驚きです。


「クルマを買うのと同じぐらいの価格にする」というのが出発点でした。SANUのコンセプトは「自然と共に生きる」です。そこに共感してもらえる30〜40代のヤングファミリー層が、家族会議で決められるような出費はどんなものか。そう考えました。


私自身がそうなのですが、自分の求めるライフスタイルを実現するためには、ある程度の出費は惜しみません。そのときの上限が「クルマと同じぐらい」というものでした。


——別荘は買うけれど、クルマは持っていない、という利用者もいるのでしょうか。


はい。SANU 2nd Homeでは利用者の約4割がカーシェアやレンタカーを使って各地の拠点に通っています。都市部で生活していれば、自家用車は必ずしも必要ありません。合理的な選択肢として、クルマよりも別荘、ということになるのだと思います。


利用者は30〜40代が中心です。これまで別荘のマーケットは、資産や所得の多い50〜60代をターゲットにしていましたが、SANUの年齢層はもっと下です。この世代は、すごく余裕があるというわけではないですが、自分たちの求めるライフスタイルのためにはある程度の支出は許容するという傾向があるように思います。


■高級別荘は競合にならない


——共有オーナー型の別荘では、東急ハーヴェストクラブやリゾートトラスト(「エクシブ」「ベイコート倶楽部」など)といった大手がいます。競合にはならないのですか?


比較していただければわかりますが、そうした大手に比べると330万円はかなりリーズナブルです。大手は「いかにラグジュアリーか」という点で勝負されています。だから価格も高いですし、顧客もリッチなシニア層が中心になります。


そうした施設は建物も設備も豪華で利便性が高く、食事も併設の高級レストランで優雅に取れます。一方、SANUでは、ラグジュアリーな雰囲気よりオーガニックな雰囲気を提供しています。高級レストランでの食事より、家族で楽しく料理をしたい、という人たちをターゲットにしています。


——今まではそうした人たちのニーズに応える滞在先がなかったと。


だからSANUが選ばれているんだと思います。また、今の30〜40代には、テレワークで仕事している人や飛行機でのアクセスに慣れている人も少なくありません。そうした人たちの中には、従来のいわゆる「バカンス」とは違う、もっと軽やかな余暇の過ごし方を望んでいる人もいます。


写真提供=SANU

■地元以外に「地元のように過ごせる場所」をつくる


スケジュールに少し余裕ができたら家族で好きな場所へ、たとえば奄美大島などに飛んで、自然の中での滞在を楽しむ。その間、数本のリモート会議をこなすなど、ライフとワークを少しずつ重ね合わせながら過ごす形ですね。


そうした過ごし方には、やはり別荘という形が適しているでしょう。別荘なら子どもが走り回っても他の宿泊客に迷惑をかけることもありませんし、自宅のように人を招くこともできます。


若い世代にとっては、自分の好きな土地に友だちや両親を招いて、そこの魅力を紹介したり、おいしいお店に案内したりするのも楽しみのひとつ。僕自身も以前、母を軽井沢のSANUに連れて行ったことがあります。


特別なことは何もせず、近所を散歩して、僕の推しのレストランでご飯を食べて、泊まっただけなんですが、久しぶりに母と2人でゆっくり話せました。こういう時間も、自分の地元のように気楽に過ごせる場所があってこそ持てるもの。母もとても喜んで、次回を楽しみにしてくれています。


撮影=プレジデントオンライン編集部
SANUが利用者に配布している冊子。キャビン近くのおすすめのレストランやアクティビティースポットが紹介されている。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■「2拠点生活」は今後広がっていく


僕やSANUの利用者のような人たちが望んでいるのは、バカンスというより「2拠点目の生活場所を持つという新しいライフスタイル」といったほうが近いと思います。従来はそれを手が届く価格で提供してくれるサービスがなく、僕もずっとそういうものがあったらいいのになと思っていました。それがSANUを立ち上げた理由でもあります。


時間や場所に縛られることなく、自由に滞在先を選んで好きな人と好きなように過ごす。今後は、そんな軽やかなライフスタイルを求める人が徐々に増えていって、やがてはマス化する可能性もあるのではと思っています。


——「館山1st」は全200口が完売しましたが、コオーナーズの次の計画はあるのでしょうか。


おかげさまでコオーナーズは大きな反響をいただきました。そのため、7月上旬ごろをめどに第2弾を発表する予定です。また、月額制の拠点は、2025年にかけて北海道ニセコから鹿児島奄美まで全国30拠点に拡大し、国内最大拠点数の会員制別荘事業者となります。


■「都市」と「地方」のいいところを融合する


——「別荘」という概念が変わりそうですね。


日本では都市への人口集中と地方の過疎化が急速に進み、地方の経済やインフラをどう維持していくのかという問題が起きています。その点、SANUの事業は都市と地方を繰り返し通う仕組みにより安定的に人流を生むもので、自分たちとしては現在でも社会的課題の解決に貢献しうる、意味のある事業だと思って取り組んでいます。


ちょっとおこがましいですが、今後は国としても、こうした人流を生む仕掛けを新しい社会インフラとして整備すべきだと思います。地方の活性化が重要といっても、現状では若い世代を都市からUターンさせるのは難しい。そこを補完しうるのが、自然の中に2拠点目の生活場所を持つという考え方ではないでしょうか。


僕は、課題を持つもの同士をくっつけて、両方をハッピーにする仕組みをつくるようなビジネスが好きなんです。SANUの事業でいえば、都市には人もお金も集まっているけど自然がなくて皆が窮屈そう、地方は人は少ないけど自然があってのびのびと暮らせる。じゃあこの2つをくっつければ、双方に新しい魅力を生み出せるだろうということですね。


こうした事業は、その土地の魅力や地元の方々との良好な関係があって初めて成立するもの。僕たちもそれらを見出したり築いたりする努力を積み重ねて、より多くの人に地方の魅力を再発見してもらえるようにしていきたいと思っています。


■成長と還元を同時に行っていく


——福島さん自身は、どんな経営者を目指しているのですか。


経営者の在り方という点では、理想としているのは松下幸之助さんです。本当に世のため人のためにビジネスをしたいと考えていた方だと思うので。


僕は家族や親戚の中で一番年下だったこともあって、周囲からたくさんの愛情と叱咤激励を受けて育ちました。そのことに対しては、もう本当に感謝しかありません。自分の仕事はその感謝を世の中に還元していくことであり、会社も事業もそうしたもののために存在すべきだと思っています。


スタートアップ界隈でこうしたことを語ると、「青臭いね」とか「儲からなさそうだね」とか色々言われるんですよ(笑)。でも、僕はそう言われれば言われるほど、この事業で稼いでやろうという気持ちになります。


世の中にとって意味のある事業をして、社会的課題にも真摯に向き合いながら、それでもきちんと利益を出して、社員に還元して、成長もする。それを実際に見せてあげましょうという思いで経営に当たっています。


これからの世の中で求められる会社の在り方って何だろうと考えたとき、個人的には無限成長を追い求めるのは違うかなという気がしています。成長と還元をいかにして同時に行っていくか、それを真剣に考える会社が求められるのかなと。


SANUでも、無限成長を目指すのではなくある程度ストイックに、成長と還元の両立を追求していくつもりです。でなければ新事業を立ち上げても成功しないでしょうし、そうしたビジョンを掲げてこそ優秀な人間が集まる組織になっていけるんじゃないかなと思います。


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福島 弦(ふくしま・げん)
SANU CEO 代表取締役
マッキンゼー・アンド・カンパニーでコンサルタント業に従事したのち、ラグビー界に転身。プロラグビーチーム「Sunwolves」創業メンバーを経て、ラグビーW杯2019日本大会の運営に参画。2019年、本間貴裕氏とともにSANUを設立し、2021年より貸別荘のサブスクリプションサービス「SANU 2nd Home」を提供開始。
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(SANU CEO 代表取締役 福島 弦 構成=辻村洋子)

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