体が硬い人ほど血管も硬く、動脈硬化の進行が早い…専門医が教える「心臓病を予防する2大習慣」

2024年5月27日(月)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/west

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健康寿命を延ばすにはどうすればいいのか。心臓専門医の大島一太さんは「心臓力を強化するために、ストレッチや有酸素運動に取り組むべきだ。慢性心不全の患者に適切な運動療法を行ったところ、死亡率は42%も減少した」という——。

※本稿は、大島一太『100歳まで元気でいたければ心臓力を鍛えなさい』(かんき出版)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/west
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■「体の硬さ」と「血管の硬さ」の関係


「100年寿命の時代」を健康的に生き抜くうえで不可欠な要素とは、「歩く力」と「食べる力」、つまり「足」と「歯」の2つに集約されます。


そこで、ここからは心臓力を強化するための決め手である、「歩く力」と「食べる力」の2大要素をいかに維持・向上させていけばよいのか、について紹介します。


まずは、心臓力強化のための運動について。


カラダのかたさと血管のかたさを調べた研究によると、40歳以上になると、カラダがかたい人ほど血管もかたく、動脈硬化の進行が早いという結果が示されています。


また、カラダや血管がかたい人が柔軟体操やストレッチを取り入れると、カラダがやわらかくなり、血管もまたやわらかくすることができます。


ストレッチを行うと、血管を柔軟にする「NO(エヌオー)」という物質が増え、血圧を下げる効果があらわれます。そうすると、血管に血液を送り出す心臓にかかる負荷が軽くなり、心臓力も高まるのです。


■心臓病と診断されていても、運動は効果的


さらに、やわらかいカラダは、転倒や骨折のリスクも大きく低減します。


また、心臓力をパワーアップさせるためには、有酸素運動も外せません。十分に酸素を吸って、苦しくならず、全身の血流をよくする運動が、有酸素運動です。代謝をうながし、カラダから不要な脂肪や糖分を追い出し、少し軽い筋トレを追加すれば、下半身の強化にもつながります。


日々の生活のなかに新たにストレッチや有酸素運動を取り入れ、心臓力をアップさせることは、「100年寿命」へのカラダづくりの基本となるのです。


そこで、自宅でできるストレッチや有酸素運動を中心に、心臓力をアップするためのエクササイズを紹介します。たとえ心臓病と診断されていても、運動療法は効果的です。医師と相談しながら、自分の状態にあわせて取り組んでください。


■運動器の不具合が、体全体に悪影響を及ぼす


「ロコモティブ・シンドローム(略してロコモ)」という言葉を最近よく見聞きするようになりました。ロコモは、2007年に日本整形外科学会が提唱した概念で、「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」と定義されています。「ロコモティブ」とは、もとは英語で「移動するための動力や機関車」を意味します。


つまり、カラダにおける「ロコモ」とは、運動に必要な骨・関節・筋肉・靭帯・腱・神経などの器官で構成される「運動器」が衰えることを指します。


2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」(厚生労働省)によると、要介護になった原因の30%以上、要支援の場合は50%以上が「高齢による衰弱」「骨折・転倒」「関節疾患」などの運動器の障害によるものです。


かつて「人生80年」といわれていた時代には想定されていませんでしたが、いまや「100年時代」を迎えるにあたって、ロコモは大きな問題となっています。


運動器のひとつにでも不具合が生じると、日常生活に支障があらわれます。それは、カラダのあらゆる箇所に影響を及ぼし、生活習慣病を悪化させ、心臓への負担も増していきます。したがって、1日でも早くロコモの兆候を見出し、予防する手立てを打たなければなりません。


運動器が衰えてきたサインを別表にしたので、チェックしてください。もし、ひとつでも当てはまるようなら、ロコモが疑われます。また、たとえすべてをクリアした人でも、何も対策を講じなければ、やがて必ずそのときがやってきます。


過信は禁物。年齢にかかわらず、しっかり予防しなければなりません。


出所=『100歳まで元気でいたければ心臓力を鍛えなさい

■「運動する」「しない」で驚くほど変わる心臓


以前、電車に乗っていたときに見た広告に、とてもいいコピーがありました。


「もし若い頃の自分に伝えられるとしたら、カラダを動かすことだけは続けろと言いたい——」


名言ですね。私もまったく同感です。


運動は万能薬です。高血圧のクスリを飲めば、血圧が下がる。糖尿病のクスリを飲めば、血糖値が下がる。運動すれば、どれもこれも、同時に改善されるのです。


過去の世界の研究から、運動体力が低下すると寿命も縮まってしまうことがわかっています。


私が専門としている心臓病の分野でも、たとえば慢性心不全の患者さんに週2〜3回の適切な運動療法を行うと、約3年間で心不全による入院が19%、心臓死が22.8%、全死亡が42%も減少したとする劇的な効果が報告されています。


■心臓への負担も少ない「有酸素運動」が最も有効


このため私が院長をつとめる大島医院でも、病状が安定していれば、心臓病の患者さんにも運動療法を広く積極的に施しています。


その最も有効な手段が、有酸素運動です。


有酸素運動は英語で「エアロビクス」といい、カラダを動かす燃料として酸素を使った軽い負荷の運動です。スポーツジムで激しく手足を動かすアレは、どう見ても息が苦しそうで、有酸素というよりは、無酸素運動と考えたほうがいいかもしれません。


運動を強くすると、筋肉から疲労物質である乳酸が出てきて疲れてきます。乳酸によってカラダが酸性になるので、呼吸を大きく頻繁に行うことで二酸化炭素を吐き出し、元に戻そうとして息が上がってくるのです。


これより、強い運動を「無酸素運動」といいます。無酸素運動は筋肉を動かすエネルギー源として酸素を使わず、息が苦しくなって、血圧が上昇し、心拍数が速まり、その先はもう運動ができなくなってしまいます。


有酸素運動は、カラダに酸素を十分に取り込んだ状態で運動することで、血圧や心拍数の上昇が起こりにくく、心臓への負担も少ない。息も苦しくありません。だから、安全に長く続けることができるのです。糖尿病や脂質異常症、高血圧にも劇的な効果を示し、心筋梗塞や脳梗塞を予防する効果も明らかとなっています。


■ウォーキングは「1日3000歩」から始める


心臓力を高めるために最適な有酸素運動は、ウォーキング(歩くこと)です。ケガや事故が少なく、長期にわたって個人のペースで続けることができ、糖尿病や脂質異常症、高血圧が改善します。


写真=iStock.com/SPmemory
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SPmemory

最初は、1日30分、最低1日おきに歩きましょう。はじめから歩数を決めてしまうと、無理な運動になってしまい、腰痛や膝痛の原因になりかねません。歩数はあくまでも結果です。まずは、1日3000歩を目安にスタートするのがよいでしょう。


1日に3000歩を無理なくこなせるようになると、歩数は自然に増えていきます。それが「運動療法」の効果であり、長く歩けるようになると、寿命も延びることが研究結果としてあらわれています。


運動の強度を上げていくと、次第に息が苦しくなっていきます。その分岐点を専門用語でAT(Anaerobics Threshold/嫌気性(けんきせい)代謝(たいしゃ)閾値(いきち))といいます。


その分岐点を意識することが、有酸素運動のポイントです。ATの範囲内の運動であれば、カラダに酸素が足りている状態なので、心臓に負担がかかり過ぎることなく、危険が少ないのです。


■目安は「ラクである」から「ややきつい」の範囲


運動しながら心拍数を測るのは難しいのですが、「きつい」と感じる自覚症状と有酸素運動の上限がピタリと合うことが、過去の研究でわかっています。


これを「ボルグ指数」といいます。


1962年、スウェーデンの心理学者グンナー・ボルグ氏によって開発され、運動を行う本人がどの程度の疲労度、きつさを感じているかを測定する指標です。ボルグ指数では、「非常にラクである」から「非常にきつい」までの自覚症状を、6〜20の数値で表します。



大島一太『100歳まで元気でいたければ心臓力を鍛えなさい』(かんき出版)

このうち、「ラクである」から「ややきつい」の範囲内で行う運動が、有酸素運動の目安です。「ラクである」の感覚は、「運動しながら会話ができるくらい」の程度です。


その範囲でウォーキングを継続していけば、だんだん歩ける距離が長くなります。


効果は2週間であらわれ、カラダの本来存在すべきでない組織にたまった内臓脂肪や異所性脂肪も徐々に減り始めます。さらに10週間続けると、血圧は5〜10下がり、インスリンの効きがよくなって血糖値も改善、中性脂肪も減少します。


もちろん、運動療法の効果は人によってさまざまですが、長く安全に続けることで、よりよい効果が得られます。


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大島 一太(おおしま・かずたか)
心臓専門医
大島医院院長、東京医科大学循環器内科学分野、東京医科大学八王子医療センター循環器内科兼任講師など。1996年、東京医科大学卒業、同大学院修了。聖路加国際病院循環器内科、東京医科大学八王子医療センター循環器内科、東京医科大学病院循環器内科に勤務。日本循環器学会や日本心臓病学会、日本不整脈心電学会など、多くの学術集会で教育講演、シンポジストなどを歴任。日本看護協会、東京都看護協会、日本臨床衛生検査技師会、東京都臨床検査技師会などで長年にわたり教育、研修講師を担当。著書に『Dr.大島一太の7日でわかる心不全』(日総研出版)、『これならわかる! 心電図の読み方』(ナツメ社)などがある。
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(心臓専門医 大島 一太)

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