なぜ5~6月は鬱屈した不満を爆発させ他人を殺める犯行が増えるのか

2023年6月7日(水)6時0分 JBpress

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

 長野県中野市で、散歩中の女性2人が刺され、駆けつけた警察官2人が猟銃で撃たれて死亡するという事件が発生したのは、5月25日の夕方のことだった。

 目撃者によると、迷彩服に迷彩帽、サングラス、マスクをした青木政憲容疑者(31)が、逃げる村上幸枝さん(66)を追いかけて、そのまま背中や胸を刃渡り30センチほどのナイフで刺した。「どうしてこんなことをするんだ」と叫ぶと、青木容疑者は「殺したいから殺した」と言い放って、その場を去る。その時には現場近くの青木容疑者の自宅前で、いっしょに散歩していた竹内靖子さん(70)が刺されていた。


なぜか5月の下旬から6月の上旬にかけて頻発する猟奇的事件

 それから約10分後。通報を受けてパトカーが駆けつけると、再び青木容疑者が現れ、停車したパトカーに近づき、手にした猟銃を構えて、運転席側の窓から発砲。池内卓夫警部(61)=2階級特進=を射殺すると、負傷して車外に出た玉井良樹警視(46)=同=をナイフで刺し殺した。この時の青木容疑者の目は血走り、ニヤリと薄ら笑いを浮かべていたという。それから青木容疑者は自宅に戻り、翌朝午前4時半ごろに投降して身柄を確保、逮捕されている。

 あまりに猟奇的な事件だった。その後の青木容疑者は取り調べに、こう供述していると報じられている。

「被害者の女性に悪口を言われたと思って殺した。射殺されると思ったので警察官も殺した」

 青木容疑者は大学に進学して上京してから、「大学でみんなに『(独り)ぼっち』とばかにされている」と思い悩み、殺害した女性2人と面識はなかったが、事件当日に「『ぼっち』と言われたように聞こえ、恨みを爆発させた」と話しているという。この青木容疑者の供述や生い立ちから見えてくる動機や刑事責任能力については、過去の事件に照らして、すでに解説している。

 ただ、こうした事件を取材してきて、そしてまた新たな事件報道に接して、いつも不思議でならないことがある。

 こうした猟奇的な事件は、なぜか5月の下旬から6月の上旬にかけて、頻発していることだ。


附属池田小事件と秋葉原通り魔事件はどちらも6月8日に発生

 近いところで言えば、コロナ禍前の2019年5月28日。神奈川県川崎市の小田急線登戸駅前で、通学バスを待っていた私立カリタス小学校の児童たちの列に、男が刃渡り約30センチの包丁で斬りつけ、見送りに来ていた保護者1人と児童1人が死亡、17人が重軽傷を負った凄惨な通り魔事件が発生している。斬りつけた男は、犯行直後にその場で首を刺して自殺。こちらは親族から「ひきこもり」と指摘されたことが、事件の発端となったようだ。

 また、神戸連続児童殺傷事件、というより「酒鬼薔薇事件」といえば、いまも多くの日本人の記憶にあるはずだ。兵庫県神戸市須磨区の中学校の正門に、「酒鬼薔薇聖斗(さかきばらせいと)」と名乗る犯行声明文が口に挟まれた子どもの頭部が放置されていたのは、1997年5月27日の朝のことだ。被害男児は、行方不明となった3日前の24日には殺害されている。その後、市内に住む男子中学生が逮捕されたことで、さらに日本中に衝撃が走った。

 事件から26年になる今年は、殺された小学6年の土師淳君(当時11)の父親が報道各社に手記を送り、神戸家裁が全ての事件記録を廃棄していたことが昨年判明したことを受けて、「最高裁の内規があるにもかかわらず、廃棄する行為は通常の組織ではあり得ない。絶対に許されるようなことではない」と痛烈に批判。すると、6月2日には最高裁の職員が神戸市内で父親と面会して、謝罪したことが報じられている。

 なお、当時14歳で「少年A」とされた加害男性は逮捕後、医療少年院に収容。2004年に仮退院、翌05年には本退院して、すでに社会復帰している。

 そして今週、過去に起きた大きな事件として、記憶を呼び起こすように報じられるはずの事件が2つある。2001年の「大阪教育大附属池田小学校事件」と2008年の「秋葉原通り魔事件」だ。そして、これも不思議なことに、どちらの事件も日付は同じ6月8日に発生している。


「理想の自分」と程遠い「現実の自分」

 大阪・池田小学校の事件は、午前10時過ぎ、1年生と2年生の教室に、包丁を持った宅間守(事件当時37=2004年死刑執行)が突然侵入し、次々と児童を襲った。児童8人が死亡。13人の児童と2人の教諭が重軽傷を負う。校内で児童が侵入者に襲われるという前代未聞の事件だった。

 東京・秋葉原の事件は、午後12時30分過ぎ、日曜日で歩行者天国だった中央通りに2トントラックが侵入し、次々と人を撥ねて停止。運転していた加藤智大(事件当時25=2022年死刑執行)がトラックから降りると、手にしたナイフで通行人を次々と刺していった。7人が死亡、10人が重軽傷を負った。

 この2つの事件にも、そして長野の事件にも共通するのが、事件を引き起こす加害者の慢性的な欲求不満だ。それも、自分の恵まれない境遇に対する不満、「こんなはずではなかった」というストレスを溜め込みながら、孤立した生活を送っていることだ。

 池田小学校の事件を引き起こした宅間守は、他者とのコミュニケーションがうまくとれず、トラブルを引き起こし、逮捕歴も十数回に及んだ。3回の離婚歴があり、消費者金融からの借金も数百万円あった。何をやっても裏目に出る人生。理想の自己像とも程遠い。だが、そこで自分を責めることはない。俺が悪いのではない、という他責的傾向が加わって、環境や他人のせいにする。それがいつしかエリートへの逆恨みになり、かつて入学がかなわなかった池田小学校を襲うことになる。

 歩行者天国を襲った加藤智大も、親が望んだエリートへの道を断たれている。有名大学への進学を諦め、派遣労働を転々としながら、職場での人間関係もうまくいかずに孤立していく。やがてネット掲示版に自分を受け入れてくれる居場所を見つけたつもりが、そこでもうまくいかなくなり、そんな状況に反抗するように事件を引き起こす。


その時は突然やってくる

 理想の自分に近づけない苛立ちと不満を抱えての生活。これは自分を貶めた環境や社会が悪いとする他責的傾向。そして、孤立。そんな抑うつ的状況が、激しい怒りに置き換わり、他者への攻撃となる。

 その瞬間は突如としてやってくる。ただ、それがこの季節に多いことが、いつも不思議だった。あるいは、人を殺してみたいという抑えきれない衝動が、異常な行動に駆り立てる。

 2年前には、「インターネットで人を殺す動画を見て、自分もやってみたくなった」と19歳の少年が、東京・立川のホテルで派遣された風俗店の女性を刺殺。駆けつけた店の従業員を刺したまま逃走した事件も、6月1日に発生している。

 熊本市の雑居ビルで、全身を布に巻かれた女性の遺体が発見されたのも、先月29日だった。単なる偶然だろうか。

 長野の事件も「ぼっち」とばかにされることに執拗にこだわり、事件当日に「『ぼっち』と言われたように聞こえ、恨みを爆発させた」というのなら、彼にそう仕向けさせたものはなんだったのか。「少年A」もなぜ、この時期に常軌を逸した行動に出たのか。

 人間も動物のひとつだ。とすると、やはり季節や気候の変動の影響を受ける可能性も、否定できないでいる。

筆者:青沼 陽一郎

JBpress

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