アップルがAIを多く語らない理由

2023年8月2日(水)16時0分 JBpress

 7月第5週に、米グーグルの持ち株会社、米アルファベットや、米マイクロソフト、米メタが2023年4〜6月期の決算を発表した。それぞれの決算説明会で各社の幹部は、昨今ブームとなっている生成AI(人工知能)分野への開発投資について語った。


AIを熱く語るグーグル、マイクロソフト、メタ

 米CNBCによると、アルファベットのスンダー・ピチャイCEO(最高経営責任者)と同社の幹部らは「AI」という言葉を66回使用した。マイクロソフトのサティア・ナデラCEOと幹部らはこの言葉を47回発した。米メタのマーク・ザッカーバーグCEOと幹部らは42回用いた。

 しかし米アップルはAIについて多くを語ることはしない。同社は8月3日(日本時間8月4日)に決算発表を行うが、その説明会でもおそらくAI開発に関する話を聞くことはできないだろうとCNBCは報じている。

 アップルのAIに対する冷静なアプローチは、ライバル企業とは対照的だ。アップル以外の米テクノロジー大手は、あらゆる機会を捉えてこの技術について熱く語り、利用者や投資家の期待を高めている。先の決算説明会でもグーグルやマイクロソフト、メタは、クラウドサービスや開発ツール、大規模言語モデル(LLM)など、「AIのゴールドラッシュでその金鉱を掘るために必要な道具を売ることに熱心だった」(CNBC)。

 例えば、グーグルはAIモデルを使用して検索エンジンを刷新する計画を明らかにしている。23年5月に開いた年次開発者会議では、生成AI機能を搭載した検索エンジン「Search Generative Experience(SGE)」を披露したほか、生成AIサービス「Bard(バード)」を一般公開した。

 マイクロソフトの取り組みの1つは「Microsoft 365 Copilot」だ。これは、Officeソフトウエアや電子メール、チャットなどを含むSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)に、提携する米オープンAIの「GPT-4」を基にしたLLMを組み込んだものだ。

 メタのAI分野への投資は、「Llama 2」と呼ばれるLLMだ。これはSNS(交流サイト)における新たなチャットボットの基盤や、ネット広告の自動生成に活用される可能性がある。

 ただ、各社の幹部らは、これらの取り組みやAI製品の展開にはしばらく時間がかかる可能性があるとも説明した。CNBCは、「AIが彼らの最も重要な製品をどのように変えるか、そしてそれが財務諸表をいつ強化し始めるかはまだ明確ではない」と指摘している。


アップルのAI、「縁の下の力持ち」

 一方、アップルでは、依然として全売上高の半分以上をスマートフォン「iPhone」が占めている。23年1〜3月期は全売上高が948億3600万ドル(約13兆3900億円)だったのに対して、iPhoneの売上高は513億3400万(約7兆2500億円)だった(決算資料)。「このような状況のアップルにとってAIを声高に主張する必要はない」とCNBCは報じている。

 ロイター通信によれば、アップルは23年6月に開催した年次開発者会議の基調講演で、「AI」という単語を1度も使わなかった。同社は新たな製品やサービスにAI技術を忍ばせ、その利便性だけを説明したという。必要に応じて、より専門的な「マシンラーニング(機械学習)」や「トランスフォーマー言語モデル」といった言葉を用いて機能を紹介した。

 このとき、アップルはゴーグル型ヘッドマウントディスプレー(HMD)「Apple Vision Pro」を発表した。同社が「空間コンピューター」と呼ぶこの製品を使って利用者同士はオンライン会議を行うことができる。そのオンライン会議では、相手もゴーグルを装着しているはずだが、映し出されるのはゴーグルを着けていないいつもの顔だ。これは「Persona」と呼ぶデジタル肖像生成技術を利用しており、利用者の体を3次元(3D)スキャンすることで実現している。この技術のバックグラウンドにはマシンラーニングがある。

 iPhoneの次期OS「iOS 17」では入力テキストの自動修正(オートコレクト)機能が改良される。OSが利用者の習慣や好みを学習し、入力単語を修正する場合と、そのままにする場合を判断するようになる。これは、マシンラーニング言語モデルの一種であるトランスフォーマー言語モデルで実現する。

 CNBCによれば、アップルはAIを「将来のコンピューティング」というよりも、むしろ自社端末で提供するサービスの基盤技術と捉えている。その役割は、スマホやパソコンのバックグラウンドでひそかに動く「縁の下の力持ち」。それゆえに同社はAI技術について詳しく話さないのだという。


4〜6月期決算発表でも計画詳細期待できない

 米ブルームバーグ通信は23年7月、アップルが、オープンAIやグーグルなどと競合する生成AI技術の開発を進めていると報じた。このことから、8月3日の決算発表では、アナリストらからこの計画についての質問が多数出ると予想される。しかし、今回の決算発表でもアップルがAIについて詳しく語ることはないだろうとCNBCは指摘している。

 ティム・クックCEOは、先の決算発表でAIについて質問された際、すぐに話を同社の製品や機能に戻した。

 「私たちはAIを非常に大きなものとみており、今後も慎重な方法で製品に取り込んでいく」(同氏)、と述べるにとどめたという。

筆者:小久保 重信

JBpress

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