なぜ今、コトラーの「マーケティング3.0」に再注目すべきなのか?

2023年8月29日(火)4時0分 JBpress

「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」(二宮尊徳)。「SDGs」「ESG」「サステナビリティ」などの言葉が普及し、多くの企業で取り組むべき重要課題として受け止められるようになった。だが、自社の成長と、環境問題・社会問題の解決を両立させるイメージがつかめず、SDGsに関する目標などが“お飾り”になっている企業もあるのではないだろうか。
 
 本連載では、サステナビリティのコンサルティングの第一人者である水上武彦氏が、ビジネスとサステナビリティを結びつけ、長期的に「儲かる」ものにするための経営やマーケティングの手法について、先進事例を交え、分かりやすく解き明かす。第2回は、SNSなどの発達によって、製品・サービスに対する多くの知識が広くシェアされる時代に、いかに消費者の心をつかみ、長期的な関係を築くかについて、マーケティングの大家フィリップ・コトラーのコンセプトをもとに解説する。

(*)当連載は『サステナビリティ SDGs以後の最重要生存戦略』(水上 武彦著/東京書籍)から一部を抜粋・再編集したものです。

 本書の出版を記念して、著者が副理事長を務める一般社団法人CSV開発機構が「CSV開発機構オープンセッション(シンポジウム)」を開催する。詳細は、同機構ホームページを参照のことhttps://csv-jp.org/?p=2858

<連載ラインアップ>
■第1回 ポーター、ドラッカーに学ぶ、サステナビリティにおける企業の役割とは?
■第2回 なぜ今、コトラーの「マーケティング3.0」に再注目すべきなのか?(本稿)
■第3回 サステナビリティにも「イノベーションのジレンマ」が存在?

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コトラーとサステナビリティ経営

 マーケティングの大家フィリップ・コトラーは、企業がマーケティングを通じて社会価値を創造するためのコンセプトを提唱している。「社会的責任のマーケティング」では、社会課題解決にマーケティングを応用するコンセプトを示している。具体的には、コーズ・プロモーション、コーズ・リレーテッド・マーケティング、ソーシャル・マーケティングだ(図1)(*2)

*2『社会的責任のマーケティング−「事業の成功」と「CSR」を両立する』、フィリップ・コトラー、ナンシー・リー、東洋経済新報社、2007年

 コーズ・プロモーションは、特定の社会課題(=コーズ)に対する社会や消費者の関心を高めるために宣伝などを行うものだ。

 コーズ・リレーテッド・マーケティングは、商品やサービスの販売などと社会課題への対応を関連付けるもので、商品やサービスの売上の一部を特定の社会課題解決に取り組むNGO/NPOに寄付するなどが典型的な活動だ。

 ソーシャル・マーケティングは、社会課題解決に向けた行動変化に焦点を当て、特定の社会課題に関する行動変化のキャンペーンの企画や実施を支援するものだ。

 また、コトラーは、製品志向のマーケティング1.0、顧客志向のマーケティング2.0に対し、社会志向のマーケティング3.0、自己実現志向のマーケティング4.0、テクノロジーの進化を反映したマーケティング5.0を提唱している。このうち、マーケティング3.0がサステナビリティ経営にとって重要な考え方だ(*3)

*3『コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則』、フィリップ・コトラー、ヘルマワン・カルタジャヤ、イワン・セティアワン、朝日新聞出版、2010年

 経済が成長し、需要が拡大し、競争が限定的な中では、製品志向のマーケティング1.0で十分市場を創り出すことができる。製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)の4Pを考えれば十分事業が成り立つ。「いかに製品を販売するか?」を考えることが中心となる。

 しかし、市場が成熟し、競争が激しくなってくると、顧客ニーズにしっかり応え自社の製品を選択し、継続的に購入してもらうことが必要になる。市場創造のためには、顧客志向のマーケティング2.0が求められる。市場をセグメント化し(Segmentation)、ターゲット顧客を選定し(Targeting)、顧客ニーズに対応して自社製品のポジションを定める(Positioning)、STPなどが求められる。ここでは、「顧客ニーズに応え、顧客をいかにつなぎとめるか?」を問う必要がある。

 近年は、市場がさらに進化し、消費者が製品に対する知識や経験を持つようになり、それがソーシャルメディアなどを通じ幅広く共有されるようになっている。こうした消費者が力を持つ時代には、製品・サービスの開発や販売において、消費者の共感を得て協力してもらい、その力を活用することが求められる。

 また、グローバル経済が発展する一方で、人々が人間的なつながりを求めたり、自己実現などの精神的充足を求めたり、環境や社会の持続性に不安を覚えたりしている。こうした人々の欲求に応えるには、人々を単に消費者とみなすのではなく、マインドとハートと精神を持つ全人的な存在と見なすことが必要だ。

 このように消費者の知識や意識が高度化した時代には、企業のほうも一段高い視座を持って、自社がいかに社会に価値を提供しているかを伝える必要がある。企業はパーパスを掲げて自社の社会的価値を明確にすることが求められる。また社会に価値を生み出す製品・サービス、社会貢献活動、消費者との対話を通じ、消費者のハートに訴えかけ、感情的な結びつきと長期的な信頼を獲得し、協力者となってもらうことが求められる。これを実践するのが社会志向のマーケティング3.0だ。「いかに社会(人々)の共感を得るか?」が重要となる。

 サステナビリティ経営の実践には、マーケティング3.0の考え方を持つことが必要だ。社会にとっての価値と消費者にとっての価値を明らかにする。自社が生み出す社会価値をストーリーにして消費者の問題意識、貢献意識、感情に訴えかける。共感してくれる消費者との協働で社会に価値を広げていく。「世界をよりよい場所にする」ことを目的とするマーケティング3.0の考え方を通じてサステナビリティ経営を実践することが企業の成功をもたらす時代になっている。

<連載ラインアップ>
■第1回 ポーター、ドラッカーに学ぶ、サステナビリティにおける企業の役割とは?
■第2回 なぜ今、コトラーの「マーケティング3.0」に再注目すべきなのか?(本稿)
■第3回 サステナビリティにも「イノベーションのジレンマ」が存在?

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筆者:水上 武彦

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