カーネギーメロン大学教授が提唱、組織の力を引き出すフォロワーシップ理論

2023年12月4日(月)4時0分 JBpress

 不確実性が増し、トップダウン型の組織が時代にそぐわなくなった今、何が組織の命運を握るのか。本連載では、元海上自衛隊海将である著者が、組織の8割を占めるフォロワー(部下)に着目し、上司の「参謀」に育て上げるために必要な考え方、能力について解説した『参謀の教科書』(伊藤俊幸著/双葉社)から、一部を抜粋・再編集。リーダーシップ一辺倒の組織を、自立型の臨機応変な組織に改革するカギを探る。

 第5回目は、組織全体の力を引き出すために、上司に積極的に働きかける「フォロワー」のあり方について解説する。

<連載ラインアップ>
■第1回 元海上自衛隊海将が伝授、「最強の部下」を作り、組織を激変させる方法
■第2回 防衛大学校初代学長が、学生たちに繰り返し訴えた「理性ある服従」とは何か?
■第3回 自衛隊で明確に使い分けられている「号令」「命令」「訓令」の違い
■第4回 ポテンシャルある若者を、2割の幹部に鍛え上げる自衛隊の仕組みとは?
■第5回 カーネギーメロン大学教授が提唱、組織の力を引き出すフォロワーシップ理論(本稿)

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正しいフォロワーシップとは

『参謀の教科書』(双葉社)

 参謀を育てる重要性は軍事組織に限った話ではなく、時代の要請と言えます。

 Volatility(ボラティリティ/変動性Uncertainty(アンサーテインティ/不確実性Complexity(コムプレキシティ/複雑性Ambiguity(アムビギュイティ/曖昧性という4つの言葉の頭文字を並べたVUCA(ブーカ)と呼ばれる不確実性の現代において、健全で活力のある組織運営をするためには、自律した人間が集い、共通の目的のために主体的に協調して行動するスタイルでないと、その変化のスピードに取り残されることになってしまいます。

 しかしながら、従来の組織論は常にリーダーシップを軸に考えられてきました。カリスマ型、強権型、人情型などリーダーのタイプはさまざまありますが、共通するのは「上が働きかけることで下が動く」という発想です。

 それに異を唱えたのがカーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授でした。リーダーシップだけにこだわる組織は組織全体の力を引き出せないとして、1992年に刊行した『The Power of Followership (邦題:指導力革命——リーダーシップからフォロワーシップへ)(牧野昇訳、プレジデント社刊、※絶版)という本で「フォロワーシップ理論」を提唱しています。

 リーダーシップとは「リーダーとしてのあり方」のことで、フォロワーシップとは「フォロワーとしてのあり方」のことです。そして、ケリー教授は、「積極的に上司に働きかけを行なうことが正しいフォロワーシップだ」と言ったのです。

■組織を変える力の8〜9割はフォロワーにある

 私がはじめてこの本を読んだときに、もっとも印象深かったのは、「ほとんどの組織において、その成功に対するリーダーの平均貢献度は20%にすぎない。フォロワーは残り80%を握っている」というケリー教授たちの研究結果です。つまり、成功は部下(フォロワー)の力にかかっているということなのです。

 先ほどの「パレートの法則」と矛盾するように聞こえますが、自衛隊の場合は、8割を占める下士官は言われたことや決められたことをきちっと行なうべき人で「フォロワー」というよりも「ワーカー」と呼ぶべきだと私は考えています。そして2割を占める幹部自衛官は「リーダー」であり、かつ「フォロワー」であることが求められています。

 このフォロワーシップ理論ではフォロワーのタイプを「貢献力」と「批判力」の2軸を使って5つに分類しています。その分類の仕方もまた秀逸なので、左ページに図を紹介しておきましょう。

 非常にわかりやすい分類かと思います。本書のテーマの参謀は「協働者」に該当します。すなわち、組織に対する貢献力があり、なおかつ組織に対して批判力のある人物です。ケリー教授も「協働者」こそ理想のフォロワーだとしています。その一方、日本的組織に多い指示待ち人間は「従事者」に該当します。実現可能性はさておき、「従事者」を参謀に育てるには批判力を高めればよいという筋道が見えます。そして、貢献力も批判力もない「逃避者」はできるだけ組織内にいてほしくない人ということもこの図から想像がつきます。

 では、貢献力は低いが批判力の高い「破壊者」はどうでしょうか?「口だけの奴なんて最悪だ」と思われるかもしれません。しかし、私は現役時代「破壊者」タイプの部下をできるだけ大事にしてきました。このタイプが部下として配属されたら「ラッキー」と思ったくらいです。

 なぜなら「破壊者」は改善意識があり、主体的に考えることができるからこそ上司に逆らうのです。往々(おうおう)にして彼らに足りないのは新たな環境変化に関する情報、すなわち知識であり、それをしっかり伝え、叩き込めばすぐに「協働者」に変わります。批判力は能力的なものもあるので、逆に「従事者」タイプを「協働者」に育てるにはどうしても時間がかかるのです。

■誰もが最初から参謀になれるわけではない

 そもそも若い人でいきなり「協働者(参謀)」になれる人はいません。思えば私も若いころは典型的な「破壊者」でした。たとえば私は「共同責任」という日本的な概念が昔から嫌いで、防大や幹部候補生学校で共同責任という名目で罰せられるようなことがあれば「こんなくだらない指導で正しい幹部自衛官が育つとは思えない」と学校を批判していたくらいです。

 しかし、そうした批判精神があったからこそ、現場でさまざまな状況に接し、知識を学ぶにつれ上官に対して有意義な提案ができるようになり、自分がリーダーになったときは自分にできる範囲で組織改革などを推し進めていくことができたのだと思います。


参謀の三大能力は「提案力」「対人力」「危機管理能力」

 では改めて、優れた参謀になるためにはどのような能力が必要なのか、ここで考えてみましょう。防衛大学校では「広い視野、科学的思考力、豊かな人間性」が幹部自衛官に求められる資質といいますが、私なりに整理した参謀に求められる能力は以下の3つです。

▶提案力
ロジカル・シンキング、クリティカル・シンキング、応用力、創造力、視座など

▶対人力
礼節、勇気、伝える力・聞く力、目利き力など

▶危機管理能力
計画立案力、OODA(ウーダ)ループを回す力、情報分析力、推論力、決断の早さなど

 まず、上司に対して主体的にリコメンド(提案)し、その意思決定をサポートすることが参謀の役割である以上、高い「提案力」を持つことは間違いなく参謀にとっての最重要スキルです。そのためにはロジカル・シンキングやクリティカル・シンキングをはじめとした、高度な知的スキルを身に付ける必要があります。

 当然、頭の回転の速い人ほど有利ですが、私は頭の回転は筋トレのように日々、脳に負荷をかけていれば伸びるものだと思っているので、若いときからコツコツ努力すれば高い提案力は誰でも身に付けることができると確信しています。

「対人力」を2番目に入れたのは、このスキルが欠けていたために才能を活かしきれなかった幹部自衛官を過去に何度も見ているからです。頭脳が武器である参謀であっても、組織の一員であることには変わりません。

 一流のリーダーを目指すのであればこの「対人力」を相当強化する必要がありますが、一流の参謀になるためなら、まずは必要最低限のものから身に付けましょう。日本型組織の場合、必要最低限のものとは「礼節」です。

 最後の「危機管理能力」に関しては提案力の一部という分け方もできますが、近年、企業にとってクライシス・マネジメントやリスク・マネジメントが重要な経営課題になっていることを踏まえ、あえて分けました。というのも「平時」における業務改善や、定石に従って計画を練るといったことは、参謀がいなくてもある程度できることです。

 しかし、「前提のないこと」や「未来に関すること」、もしくは「即座に重要な決断が求められるようなこと」に関しては、参謀の意義が存分に発揮されると思うのです。

<連載ラインアップ>
■第1回 元海上自衛隊海将が伝授、「最強の部下」を作り、組織を激変させる方法
■第2回 防衛大学校初代学長が、学生たちに繰り返し訴えた「理性ある服従」とは何か?
■第3回 自衛隊で明確に使い分けられている「号令」「命令」「訓令」の違い
■第4回 ポテンシャルある若者を、2割の幹部に鍛え上げる自衛隊の仕組みとは?
■第5回 カーネギーメロン大学教授が提唱、組織の力を引き出すフォロワーシップ理論(本稿)

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筆者:伊藤 俊幸

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