身寄りのない人の「遺留金」総額21億円以上。でも引き出せず、宝の持ち腐れに…金融機関が引き出しを拒絶する理由とは

2024年2月14日(水)6時30分 婦人公論.jp


森下さん「市区町村は遺留金の対応に苦慮している」(写真提供:Photo AC)

総務省の人口推計によると、日本の死亡者数はここ数年で増加傾向にあり、2022年には150万人以上の方が亡くなったそう。そのようななか、「高齢化と孤立化で無縁遺骨になる可能性は誰にでもある」と話すのは、朝日新聞記者の森下香枝さん。森下さんいわく、「市区町村は遺留金の対応に苦慮している」そうで——。

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遺留金使用の高いハードル


総務省が公表した実態調査は、身寄りのない人が亡くなったあとに残した金品を、どう処理するかという問題にも初めて切り込んでいた。

身寄りのない人の「遺留金」は総額21億4955万9637円あり、全国の市区町村に埋蔵金として保管されていたことがわかったのだ。

2018年3月末の時点では約13億円だったので、3年半の間で8億4千万円も増加していた(2021年10月末時点)。

だが、保管する市区町村はルールが定まらない遺留金の対応に苦慮し、宝の持ち腐れとなっている様子が報告書に記されていた。

引き取る人がいない死者10万5千人のうち遺留金が残されていたケースは4万8479件、なかったケースは5万5424件だった。

亡くなった人が現金を残していれば、市区町村の裁量で葬祭費にあてることができるという。

だが、預貯金の口座にあった場合、引き出そうとすると金融機関が相続人の存在を理由に拒むケースが報告書で報告された。

現金しか扱うことができない


「無縁遺骨」などの対策の先進地、横須賀市でその舵取りを担う福祉部福祉専門官の北見万幸さんにも苦い経験が記憶に残っている。

市内在住のひとり暮らしの男性は、がんが見つかる78歳までペンキ職人として働き、翌年、79歳で亡くなった。

身寄りがなかったので市で戸籍をたどり、相続人の調査をすると、東北地方に親族がいた。連絡したが、遺体や遺骨の引き取りは難しいと言われ、墓埋法が適用され、公費で荼毘に付した。

遺品整理をしていると、火葬と無縁仏にしてほしいと書かれた遺書と銀行の預金通帳が見つかった。男性の銀行の預金口座に20数万円が残されていた。

葬祭扶助の基準額は約21万円なので、口座のお金を充てれば弁済できた。

しかし、遺留金よりそのお金を口座から引き出すため、相続財産管理人を選任する行政手続きの費用のほうが高くつくため、口座に手をつけられなかった。

北見さんは、「行政の裁量では亡くなった方が残した現金しか扱うことができず、男性の残した預金を使って思いをかなえることはできなかった。今は多くの人が銀行口座にお金を預けているので、遺留金の使用はハードルが高い」と振り返る。

身寄りのない人の遺留金21億5千万円


引き取る人のいない死者の預貯金の扱いは法で明示されていない。

市区町村の葬祭費の負担が増加の一途をたどり、過去最高となっている。


「引き出し依頼を行ったが、相続人または相続財産管理人以外は引き出せないと金融機関に断られた」(写真提供:Photo AC)

21億5千万円ある遺留金も有効に使おうと2021年3月、厚労省と金融庁など関係省庁は手引をつくり、「遺留金は死者の預貯金を現金化したものも含まれ、葬祭費に充当できる」と記した。

金融機関にも周知したはずなのだが、今回の調査で2021年4月以降でも14市区町村で52件、預貯金が引き出せなかったと報告された。

「引き出し依頼を行ったが、相続人または相続財産管理人以外は引き出せないと金融機関に断られた」

「本店の判断だと支店から断られた」

「厚労省の手引に記載されていない相続放棄の証明書類、相続人の同意文書などを金融機関に求められ、対応困難と判断せざるを得なかった」

引き出しを断った金融機関に総務省がヒアリングしたところ、「預貯金は相続以外で払い出すことは本来、困難。金融機関が払い戻しに応じた責任を相続人から追及されるリスクがある」と弁明していた。

払戻請求に応じる意向


総務省に対し、多くの金融機関は今後、手引に基づき払戻請求に応じる意向を示している。

市区町村は遺留金を使うために相続人を探す調査をするが、地縁や血縁が薄れ、多くは難航している。そうなれば、最終的には遺留金は国庫に納めることになる。

松本剛明総務相(当時)は2023年3月、遺留金を葬祭費として円滑に使えるよう、厚労省と法務省に対し、市区町村、金融機関へ周知するよう勧告した。

厚労省も関係省庁と連携し、相続人の意思確認なしに、市区町村が葬祭費として預貯金を下ろせるよう法的根拠を明示し、改めて周知するという。

死に逝く人が弔いのために残した遺留金が国庫に行ってしまうことがないよう明確なルールづくりをしてもらいたいものだ。

※本稿は、『ルポ 無縁遺骨 誰があなたを引き取るか』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。

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