仲里依紗が、現代の怪人・ロバートの秋山竜次を見事に撮る!森崎ウィン監督がミュージカル作品にチャレンジ『アクターズ・ショート・フィルム4』

2024年3月12日(火)18時0分 婦人公論.jp


秋山竜次を演出中の仲里依紗監督(『撮影/鏑木真一』) ©︎wowow アクターズ・ショート・フィルム4

人気俳優たちが自ら脚本・監督する短編映画シリーズ、『アクターズ・ショート・フィルム』。これまで柄本佑森山未來玉城ティナ、野村萬斎など、作品を発表し話題を提供している。その新シリーズであるvol.4が2024年3月8日からWOWOWにて放映される。今回もアクターズ・ショート・フィルムの人間ドラマだけではなく、ジャンル映画の分野にも果敢に挑戦している。仲里依紗監督はモダンホラーを撮り、森崎ウィン監督がミュージカル作品にチャレンジしている。

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仲里依紗監督『撮影/鏑木真一』


現代日本に怪人という者がいるとしたら、ロバートの秋山竜次だろう。かつては殿山泰司、藤村有弘がいて、竹中直人が引き継いだような、映画やドラマの本筋を忘れさせてしまうような存在感のキャラクターだ。その秋山が主演した作品が本作である。仲里依紗の趣味、いや旬の怪人をジャンル映画で即使おうという意志は“買い”だ。

のっけから謎的要素が満杯。秋山を舐めるように撮影すれば、なぜかドラマに広がりが出来てしまう不思議さ。そんな出だしだ。秋山演じる鏑木は週刊誌カメラマン。同僚は寛一郎扮する若手記者の谷(『せかいのおきく』の好演、難解な舞台『カスパー』も演じた実力派)。

彼とスクープの張り込みを行うのだが失敗。時田編集長(杉本哲太)に叱責される。この組み合わせは、秋山の個性を演技派に転用させるようで効果的だ(心理的な演技はほぼしてないのにも関わらず、だ)。

鏑木はかつて超感覚を持った凄腕カメラマンだったが、2年前にスクープした女優の自殺事件でトラウマを負ってしまったのだ。それを知る谷も時田も鏑木には同情的である。しかし、契約更新も危うい鏑木は心理的に追い詰められる。そこへ謎のLINEメッセージが届く。鏑木はメッセージに誘われスクープを単独で狙うが……。

黙々とスクープ写真を撮り続け、謎の発信主に追い込まれる秋山竜次の演技は、それだけでスペクタクル。パブリックイメージの怪人が逆に恐怖に苛まれるわけなので、ホラー要素が濃厚ながら独特の笑いも生まれる。

特異なキャストでストレートなモダンホラーを撮った仲里依紗の演出は撮影監督・山崎裕の確かな表現力にも助けられ、じつに誠実に観客を喜ばせようと努めている。なかなか昨今の日本映画界にはいない心構えの持ち主だ。

脚本の山咲藍もビシッと短編ホラーを作るんだ、という流れを作っている。つい、仲監督に、あと3本短編ホラーを製作してほしい、それでオムニバス公開してくれたらと思ってしまう秀作だ。 


ソリッドなホラーを完成させた仲里依紗 ©︎wowow アクターズ・ショート・フィルム4

森崎ウィン監督『せん』



中尾ミエ『せん』を演出中の森崎ウィン監督 ©︎wowow アクターズ・ショート・フィルム4

映画は日本の里山の風景、お婆さん(中尾ミエ)の独唱で始まる。ラジオから流れる国際紛争、いつもと変わらぬ彼女の朝の支度への流れは、描写外の世界の歪さをサラリと伝えてくれる。ラジオのニュースは津田健次郎が声で出演して、臨場感を高めている。

ともすれば昔の教育映画風な収まりが良すぎる冒頭が、鍛え抜かれた中尾の歌声と抑制されたカメラ(撮影は花村也寸志)によって、絶妙なバランスを発揮する。

役場に勤め、いつもおばあちゃんの家に来る青年(鈴木伸之)は孫かと思うとそうではなく、家族とは離れて暮らしているようなのだ。孤独感に流されず、愚痴も漏らさず、淡々と日常を生きる老女を演じる中尾。

紛争地域の爆撃が激しくなるニュースがあり、夕暮れを迎えたラストカット。彼女の顔は『PLAN 75』での倍賞千恵子の表情に通じる、キャリアの長さと経験の深さで幕引きが出来る凄みである。


中尾ミエによるミュージカルは日常の内側と外側を照らす ©︎wowow アクターズ・ショート・フィルム4

最初から最後まで響く上田一豪の作詞(脚本も)、小澤時史のスコアは“25分間続く1曲”と感じ、丁寧に日常のある「ここ」と紛争地帯の「そこ」というバランスを崩さずに音楽映画として撮り上げた森崎ウィンのセンスは注目だろう。

友情、恋愛、恐怖、音楽、さまざまなテーマによって彩られたアクターズ・ショート・フィルム4。レディメイドな映画に飽き足らないファン、新しい才能に触れたいファンはぜひ観てほしいオムニバスだ。

婦人公論.jp

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