安蘭けい×咲妃みゆ「9.11」の実話をミュージカルで演じて。「悩みは人に小分けに話す」「聞くことでも浮上できる」

2024年3月15日(金)12時0分 婦人公論.jp


宝塚の先輩後輩でもある、安蘭さん(右)と咲妃さん。息ぴったり(撮影◎米田育広)

元宝塚歌劇団のトップスターやトップ娘役として活躍し、退団後はそれぞれ菊田一夫演劇賞を受賞している安蘭けいさんと咲妃みゆさん。共通点の多い実力派同士が、ブロードウェイミュージカル『カム フロム アウェイ』で初共演する。稽古場でのインタビューは、さまざまに話題が広がってーー。
(構成◎藤野さくら 撮影◎米田育広)

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「9.11」の実話がミュージカルに


安蘭 12人のキャストが100分間ノンストップでお届けするミュージカル。全員で約100人もの登場人物を演じ分けるのよね。いま稽古の半ばで、やっと通し稽古が終わったところ。みゆちゃん(咲妃)はどうだった?

咲妃 「やっとここまで来られた」と、少しだけホッとしました。セリフや歌の多さはもちろん、自分たちでセット転換までやるので、最初はもう無理なんじゃないかと思いました。(笑)ここからが作品を掘り下げていく、本当のスタートです。

安蘭 私も、通し稽古が出来たらきっと泣くわと思っていたけど、実際にやってみたら、感動に浸っている場合じゃなかった(笑)。まだまだ超えなければいけない山が、目の前にそびえているのを思い知らされた感じ。

咲妃 内容も他にはないものですよね。2001年の同時多発テロ、「9.11」での実話がベースになっていて。アメリカ領土に着陸できなくなった38機の飛行機が、カナダのニューファンドランド島の空港に緊急着陸したことから始まる物語。

安蘭 7千人もの乗客が、人口1万人の小さな町に降り立ったのよね。人種も出身もさまざまな人たちの5日間が、スピーディーに描かれる。私は2018年にブロードウェイで観ているのだけど、「9.11」の悲しい部分だけじゃなくて、笑いあり涙ありのドラマになっていて面白かった。これぞブロードウェイらしい表現だし、“強さ”だと感じたな。

咲妃 私は初めてニューヨークに行った時、空港から真っ先に向かったのがグラウンド・ゼロでした。小学生の時に「9.11」が起きて、当時から何かがずっと心に引っかかっていたんです。やっと訪れたその場所は、巨大な噴水の周りに追悼のお花が挿してあって、不思議なエネルギーに満ちていました。「私たちはこれを乗り越えるんだ」というような、前向きなパワーすら感じられて。とうこさん(安蘭)がおっしゃっていたように、これも“強さ”ですよね。

安蘭 分かる気がする。

咲妃 そういう感覚が、この作品の素晴らしい楽曲からも感じられて、お稽古の行き帰りに聴いていると、うわっと涙がこみ上げてくることがあります。テーマはシリアスだけれど、この作品が持つ明るくて強いパワーに、私自身も支えてもらっているような感じがしますね。

リアルなお芝居を目指して



咲妃 お稽古中、とうこさんは演出補のダニエル・ゴールドスタインさんに、よく質問なさっていますよね。

安蘭 私は昔、別の稽古場で失敗しているから。

咲妃 失敗?

安蘭 舞台経験が多くなると、細かく確認しなくても、ある程度出来たりするじゃない? それで以前、分からないことがあったのに、「きっとこうだろう」と思って聞きに行かなかったことがあったの。そうしたら稽古が進むにつれて、演出の方向性とどんどんズレていって。修正するのがすごく大変だった。

咲妃 とうこさんにも、そんなことが。

安蘭 だからもう、分からないことがあれば、ちゃんと聞こうって決めているの。周りに「なんでそんな初歩的なことを聞いているのか」と思われてもいいやって。過去の失敗は今の自分を生かす、と開き直って。

咲妃 質問に対する返答を一緒に聞けて、私たちはありがたいです!

安蘭 ただ、私がメインで演じているダイアンは、あまり悩まずに演じているかも。テキサスから来た女性で、ざっくばらんな性格で、という。

咲妃 もうダイアンさんにしか見えない。とうこさんの、不必要な力を抜いてお芝居なさっている様子がすごく好きで。

安蘭 酔っぱらうシーンとかリアルでしょう。「お酒好き」というところは、想像力で演じていますので……。

咲妃 ええと……ノーコメントです。(笑)

安蘭 (笑)。それはさておき、ブロードウェイ版を観た時、役者さんたちが『もしかして本人ですか?』というくらいリアルだったのね。衣裳がシャツとパンツだけというのもあって、演じているのに演じていないかのような。だから私もそこまでいきたいなと。

咲妃 劇中では、石川禅さんが演じるイギリス人のニックと惹かれ合うんですよね。

安蘭 実際のダイアンとニックのカップルは、今もラブラブなんですって。お2人は、この作品を100回以上もご覧になっているそう。モデルになった方たちが何度でも観たいと思うのだから、この作品の魅力が分かるよね。みゆちゃんは地元テレビ局の新人レポーター、ジャニスという役。演じていてどう?

咲妃 100分間に5日間の物語を詰め込んでいるので、かなりスピーディーな展開。さらにジャニスのセリフには日付や時刻が多くて、お客様に時間経過を示す役割も担っているので、そのスピードに私自身がまだ追いつけていなくて。もっと余裕をもって届けたいというのが、今の目標です。

安蘭 確かに、みゆちゃんのセリフで場面が変わることが多いから大変だよね。私たちはそのセリフを聞いて、いまどこの場面だとか確認できるからいいけれど。

咲妃 全員がそれぞれに大変ですよね。複数の役を演じるので舞台上にずっといるし、袖に入ってもほんの一瞬で、すぐに出てきたり。

安蘭 そうそう。衣裳は変わらないけど、ジャケットを脱いだり、帽子をかぶったり。『いま私は何の役?』ってなることも。

落ち込んだときの対処法は



咲妃 お稽古は大変ですが、今回初めてとうこさんと共演できるのが嬉しくて。

安蘭 初共演とは思えないほど、すっかり仲良くなっているよね。

咲妃 共通点といえば、2人とも猫好きなこと。稽古場でとうこさんの猫さんの写真を見せていただいてます。あとは、車の運転が大好きなところも。

安蘭 みゆちゃんて、おうちで静かに参考書とか読んでいるタイプかと思ってたんだけど。結構アクティブと聞いて、同じタイプだ!と。

咲妃 「参考書を読んでそう」はよく言われるんですけど、なぜでしょうか。

安蘭 勉強熱心だからかな。(笑)このカンパニーでは一番年下でフレッシュなんだけど、前進しようとするエネルギーをすごく感じる。他のキャストも、なぜか精神的にみゆちゃんを頼っているという。

咲妃 恐れ多いです……。

安蘭 キャストには宝塚で同じ星組だったちえ(柚希礼音)もいて、私たちは当時トップと二番手だったから、ついちえには余計な世話を焼いてしまうんだけど。みゆちゃんに関しては、本当になにもアドバイスすることはなくて。

咲妃 お稽古の後半は、思い切ってトライ・アンド・エラーを繰り返していこうと思っているので、とうこさんからアドバイスをいただくことを目標にします。

安蘭 そうやって果敢にチャレンジするところだよね。皆が「強い!」と思うのは。

咲妃 落ち込むことだってあるんですよ。そういえば、とうこさんは落ち込んだとき、どうされていますか?

安蘭 20〜30代の頃は、人に悩みを話すなんてプライドが許さないと思って、1人でとことん落ち込んでから、あとは気持ちが浮上するのを待っていたかな。でも今は、体力的にしんどくなってきたので(笑)、気軽に話せる複数の友人に、電話やLINEで「ちょっと聞いて」と。小分けにおしゃべりしてスッキリするようにしてる。

咲妃 小分けに、っていうのがポイントですね。

安蘭 そうそう。分散してちょこっと話すだけなら、聞くほうもサラッと忘れられるでしょう。悩みって必ずしも答えを求めているわけじゃないから。年を重ねて、そういう風に自分を解放できるようになったのは、良い変化だなって思ってる。みゆちゃんは?

咲妃 今お聞きしていて気づいたんですが、私は逆に、悩みを持っている人の話を聞くことで、浮上するかもしれないです。

安蘭 自分も落ち込んでいるときに?

咲妃 心がキューッとなっているとき、SOSを発している人がフッと現れたりして。話を聞いている間に、自分自身もリセットされることが多い気がします。あとは、友人から「相談したい」って言われたら、「ちょっと車で温泉でも行こうか」という話になったりもするので、お出かけによる気分転換の効果もあるかもしれません。

自分の身体は自分で作る


安蘭 普段のリラックス方法なら、私は「お風呂」かな。温泉も好きだし、毎日どんなに疲れていても、絶対に湯船には浸かるようにしてる。本やスマホを持ち込んでいろいろ見たり、ラベンダーやイランイラン、キンモクセイなどのアロマオイルを垂らして、キャンドルの灯りでゆっくり過ごしたり。

咲妃 音楽を聴くのもいいですよね。いまハマっているのは、ナタリー・レインさん。友人に教えてもらったアーティストさんなんですが、特に『Amen』という曲が素敵なんですよ。人は人を助けるよ、こんな狂った世界でもきっと救いはあるっていう歌詞が、今の私に響いて。皆さんにもぜひ聴いてほしいです。

安蘭 楽屋ではどう? みゆちゃんは、いろいろとセッティングしてそうなイメージ。

咲妃 それもよく言われます。(笑)でも、お気に入りのお水をストックしておくくらいで、シンプル。こだわりゼロの楽屋です。

安蘭 それは意外。お水は何を飲んでいるの?

咲妃 今は「観音温泉」っていう、静岡県伊豆奥下田のお水が好きで。体にいいのはもちろん、味も好きなので飲んでいます。あとは食べることが好きです。「自分の身体は自分が摂取したものでしか作られない」といいますから、納豆やお味噌などの発酵食品を毎日摂るようにして。

安蘭 私も発酵食品はよく食べるよ。

咲妃 やっぱり! 私、宝塚時代はよく髪染めをしていたので、髪の毛がボロボロだったんですね。でも退団後に食事に気を配るようになったら、身体も髪も元気になって。だからつい人の髪にも目がいってしまうんです。とうこさんのツヤツヤの髪は、『食をおろそかにしていらっしゃらない方の髪だ!』とひそかに思っていました。

安蘭 見られていたとは。また1つ、「発酵食品を食べる」という共通点が増えたね。(笑)


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