桂由美「93歳、ウェディングドレスを作り続けて60年。当時は呉服業界や姑たちの反発に遭ったが〈お色直し〉で普及していった」

2024年3月26日(火)12時30分 婦人公論.jp


「当時、呉服業界の方々は、ウェディングドレスを敵視していました」(撮影=大河内禎)

結婚式では和装が主流だった時代に、日本で初めてウェディングドレスのデザインを手掛けた桂由美さん。今に至るその歩みは、まさに日本の「ブライダル」の軌跡そのもの。ドラマティックな人生を振り返っていただくと——(構成=篠藤ゆり 撮影=大河内禎)

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<前編よりつづく>

業界からの反発でマイナスからのスタート


私がヨーロッパに行くことを知ったある女性週刊誌から、海外の著名人にインタビューをしてほしいという思いがけない依頼がありました。たとえば、女優からモナコ公国の公妃となったグレース・ケリー。駆け出しのデザイナーが、おいそれと会ってもらえる方ではありません。

そこで洋裁学校の顧問をしてくださっている議員の方に相談したところ、後に外務大臣となる三木武夫さんが、私をサポートするよう各国の日本大使館に手紙を出してくださったのです。

おかげでパリ滞在中、グレース・ケリーにインタビューすることができ、約10ヵ月の滞在中には、オードリー・ヘプバーンやソフィア・ローレンといった大女優ともお目にかかれたのです。

帰国して、64年にショップをオープン。当時、いくつかの女子大でアンケートを取ったところ、約4割の女子大生が結婚式にウェディングドレスを着てみたいと希望していました。ところが実際は、100人中97人が和装で結婚式を行います。なぜかというと、お姑さんがウェディングドレスでは納得しないから。

当時、呉服業界の方々は、ウェディングドレスを敵視していました。百貨店の婦人服部長と交渉した時は、「呉服はドル箱だからドレスは売れません」という答えが返ってくる。マイナスからのスタートでした。

折しも日本は高度成長期を迎え、ブライダル産業も成長していたころ。そこで呉服業界が考えたのが、お色直しというスタイルです。式は打ち掛けで、お色直しは振袖。2種装うことで需要を増やそう、というアイデアです。

お色直しが定着してくると、女性たちは、「せっかく2着着るなら、1着はウェディングドレスにしたい」と主張するようになりました。こうして少しずつ、ウェディングドレスが普及していったのです。

夫のアドバイスでターバン姿に


私生活では、42歳のとき、11歳上の大蔵省の官僚だった人と見合いで結婚しました。私が若いころは見合い結婚が主流。20代は仲人さんからたくさん縁談が舞い込んできましたが、優秀な男性は異口同音に、「結婚したら仕事はやめてくれますね?」。

学校とお店の二足のわらじを履こうとしているのに、そんな縁談は受けられません。そうこうしているうちに、当時としては婚期を逸したわけです。

40歳になったとき、このまま誰とも縁がないまま終わるのは寂しいと思って仲人さんに相談したところ、白羽の矢が立ったのが夫となった人でした。見合いの場所はホテルオークラ。仲人さんからは、着物を着ていくようにと言われました。それが当時の常識だったんです。

後に夫から、「ファッションデザイナーと会えると思って勢い込んで行ったのに、着物姿の女が現れて……」と言われました。形にとらわれない感覚の人だから、感性が合ったのだと思います。

あるとき、夫がこう言いました。「黒柳徹子さんはタマネギ頭がトレードマークになっている。君も髪形を決めて、誰が見ても桂由美だとわかるようにしたら?」。いいアドバイスですよね。

そこで思いついたのが、ターバンです。帽子デザイナーの第一人者だった平田暁夫さんにお願いしてターバンをデザインしてもらい、以降、トレードマークにしました。

まだまだ新しいことに取り組みたい


81年、アメリカの市場に向けて日本製品をアピールするイベントに参加することになりました。そのときに生み出したのが、着物のお引きずりから着想した「ユミライン」のドレスです。

当時日本では女性の結婚年齢は20代が主流でしたが、アメリカでは40代、50代で結婚し、式を挙げる人もいます。そういう方は、スカートが大きく膨らんだロマンチックなドレスより、もう少し大人のエレガンスを表現できるドレスのほうがよいのではないか。それを、日本の最高級のシルクで作ってみようと思ったのです。

おかげさまでユミラインは大好評。今も欧米の花嫁の定番ドレスとして、人気のシルエットとなっています。

目下進めているのが、アニバーサリーウェディングの提案です。結婚40年のルビー婚式や、45年のサファイア婚式、50年の金婚式など節目となる年に、子や孫、親しい人をお招きしてパーティをすると、いい記念になるのではないでしょうか。

最近は結婚しない若者が増えていますし、結婚しても式を挙げない人も多いですよね。でも若い人も、親や祖父母のアニバーサリーパーティに出たことで、自分も早く結婚したい、式を挙げてみんなに祝福してもらいたいと感じるみたいです。

私は戦争中、本当に紙一重のところで命を保つことができました。だったら、精いっぱい生き切らないと申し訳ありません。まだまだ、やりたいことやアイデアがあります。命が続く限り、新たなチャレンジを続けていきたいですね。

婦人公論.jp

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