銀行で学費を振り込もうとしたら詐欺被害に遭っていると疑われ…77歳の芸人「おばあちゃん」NSC入学までのてんやわんや

2024年4月5日(金)12時30分 婦人公論.jp


衣装をキャリーケースに詰めて営業へ向かう芸人・おばあちゃん(写真:『ひまができ 今日も楽しい 生きがいを - 77歳 後期高齢者 芸歴5年 芸名・おばあちゃん』より)

厚生労働省の調査によると、2023年6月時点で70歳以上まで働ける制度がある企業は約10万社とのこと。社会が「人生100年時代」に向けて変化する中で、自発的に働く高齢者の方もいます。今回紹介するのは、77歳で芸歴5年の若手芸人「おばあちゃん」。おばあちゃんは「認知症でも詐欺被害でも孫の付き添いでもありません」と言っていて——。

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認知症でも詐欺被害でも孫の付き添いでもありません


NSCの合格通知が届き、まずは主人に報告です。

「お父さん、私は吉本に行くことにしたよ」

「ああ、そうかい。吉本は老人ホームも作ったのかい」

「いやいや違うよ、お笑いの勉強をするんだよ」

「今さらお笑いの勉強かい? お前自体がもうお笑いじゃん」

そんな会話を交わしました。でもそれで、あっさりと報告終了です。

主人はこれまでの長い結婚生活で、私が何かやると決めたら絶対に実行する人間だとよく知っているので反対はしません。

「協力はしないけど邪魔もしないよ」というスタンス。とは言いつつも、自分のできる範囲で協力してくれています。ありがたいですね。

健康診断書


次に、学校へ提出する健康診断書を発行してもらわなければなりません。

かかりつけ医はあるのですが、個人医院ゆえ、必要な診断項目すべての検査はおこなえない。そこで、初めて行く総合病院へ問い合わせの電話をします。

「学校に提出する健康診断をお願いしたいのですが」

「はい、大丈夫ですよ。おいくつの方ですか?」

「71歳です」

「えっ!?」

電話に出た受付の女性は、しばらく絶句した後。

「いったいどこに出すんですか?」

「お笑いの学校です」

「えーっ!」

再び驚かれた。

でも健康診断は問題なく受けられるとのことで、予約して後日検査に行きました。


『ひまができ 今日も楽しい 生きがいを - 77歳 後期高齢者 芸歴5年 芸名・おばあちゃん』(著:おばあちゃん/ヨシモトブックス)

担当してくれたのは50代くらいのベテラン医師でしたが、私のようなケースは初めてだったらしく……。

「(医師のコメント欄に)どこまで書いていいのか分からない」

それはそうですよね。だって70代なんて、どこかしら身体に不調があるに決まってるんだから。

でも、血圧が多少高いことや膝の手術歴があることが入学取り消しの理由になるのだけは避けたい。

そこで、「いつもかかりつけ医に診てもらっていますから診断書には余計なことを書かないでください」と先生にお願いしたら、書き方を配慮してくださいました。

ただ、お笑いの学校に行くとも伝えてあったので、最後に冗談交じりに言われましたよ。

「念のため、認知症の検査もしておきますか?」って。

振り込み詐欺


入学までのてんやわんやはまだまだ終わりません。

今度は、数十万円の学費を支払うために銀行へ向かいました。窓口で通帳を渡し、「学費の振り込みをお願いします」と伝えると、「この通帳は誰のものですか?」と担当者。

「私のものです」

「学校に通われるのはお孫さんですか?」

「いえいえ、私です」

「えっ!? カルチャーセンターみたいなところですか?」

「ううん、違いますよ」

「何の学校ですか?」

「お笑いです」

「お笑いの学校って、何をするんですか?」

「よく分からないんですけどね、お笑いのことを教えてくれるって言うんで」

普通、振り込みをするだけでそこまで細かく確認しないですよね。

その上、私の説明も的を射ない。きっと担当者は振り込み詐欺に遭っていると慌てたはず。

「ちょっとお待ちください」と窓口から奥に引っ込んで、支店長らしき人のところへ行きました。

ほかにも複数の銀行員が私を見ながら、ひそひそと何かを話している。その時は私もまさか詐欺を疑われているとは思っていなかったので、ニコニコしながら見返したりして。呑気(のんき)なものですよね。

そして、再びさんざん話を聞かれてから、合格通知書も持参していることを思い出した。合格通知書には名前も住所も記載されているので納得してもらえ、ようやく30分以上かかって無事に振り込むことができました。

入学式の日


こうしていよいよ入学式の日を迎えます。おこなわれるのは、新宿にある『ルミネtheよしもと』。面接に行った限りでは、シルバー向けのコースに入るのかな? と思っていたのですが……。

周りを見回せば、何百人もいる新入生のほとんどが10代、20代。

70代のおばあちゃんはあきらかに浮いています。そして案の定、簡単には座席までたどり着かせてもらえません。

劇場のロビーに着いて入学式の受付へ向かおうとすると、チケット売り場の人に呼び止められます。

「おばあちゃん、そっちじゃないですよ。チケットはこちらです」

公演チケットを買い求めに来た一般客だと間違えられました。今度は、入学式の受付をしている男の子が私の顔を見て言いました。

「おばあちゃんね、今日は付き添いはダメなんだよ。入れないから、帰ってもらえる?」

孫に付き添って見学に来た祖母だと勘違いされたようです。

「いや、私本人です」

合格通知書を見せると、男の子は「えっ!?」と驚いた表情で私の顔を二度見しましたよ。

50代くらいまでなら、NSCに入る人は結構いるみたいなんです。また、定年を過ぎて挑戦する男性もちらほらいるそう。でも、さすがに70を過ぎたおばあちゃんは珍しすぎた模様。

周囲にいた同期の人たちも、おばけでも見るような顔をしていてね。

もう、逆に楽しくなっちゃった。むしろ、この年で学びに来られることが幸せだなと思えた。

だから、開き直って「いくらでも見て!」。そんな気持ちになれましたね。

※本稿は、『ひまができ 今日も楽しい 生きがいを - 77歳 後期高齢者 芸歴5年 芸名・おばあちゃん』(ヨシモトブックス)の一部を再編集したものです。

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