本郷和人『光る君へ』河原で遺体を見つけておどろいたまひろ。でも庶民の遺体の扱いとしてはいたって普通で…平安時代の埋葬について
2024年4月15日(月)12時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。第十五話は「おごれる者たち」。強引に藤原定子(高畑充希さん)を中宮に、藤原詮子(吉田羊さん)を内裏の外へ追いやった藤原道隆(井浦新さん)。それから2年が経ち——といった話が展開しました。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるあのシーンをプレイバック、解説するのが本連載。今回は「平安時代の埋葬」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし!
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河原に沢山の遺体が…
前回のお話では、上地雄輔さん演じる藤原道綱がまひろとさわの寝床を間違えたために、二人の関係がぎくしゃくすることに。
さわが「死んでしまいたい」と河原に走ると、そこにはたくさんの遺体が…というショッキングなシーンが描かれました。
疫病が流行り始めていたとはいえ、河原に遺体をそのまま放置、というのは今の常識から考えると考えにくいことかもしれません。
そこで今回は、平安時代に人間が亡くなったとき、遺体をどう処理し、埋葬していたか、について考えてみたいと思います。
現代日本人の感覚・平安時代の人の感覚
あらためて考えると…
(1)遺体は故人そのものであるから、大切に扱う
具体的には埋葬してお墓を作り、時にお墓参りをする。これが現代日本人の感覚です。
本郷和人先生が監修を務める大人気の平安クライム・サスペンス!『応天の門』(作:灰原薬/新潮社)
ご存じの通り、日本では火葬が普及しています。火葬は「火あぶり」を連想してイヤ、という国もありますが。
(2)大切なのは霊魂であり、霊魂が体から離れた状態が「死」だから、遺体はもはや大切ではない
という考えもあります。遺体を鳥に食べさせるような“鳥葬”などもいまだにありますね。この意味で、平安時代の人の感覚は(2)に近いと思います。
埋葬場所と墓の場所が別
話は戻って平安時代。
天皇家は別ですが、藤原家のえらい貴族たちも、お父さんおじいさんの遺体がどこに埋葬されてるか、実は知りません。
「埋葬する場所はあそこ(宇治市の木幡というところ)」と決まっていても「ズバリ、ここ!」とピンポイントで知っているわけではないのです。
遺体が埋葬されたところに墓を作る(「埋め墓」といいます)のではなく、お参りするための墓を作って(こちらは「詣り墓」)、お墓参りはそちらに行く。
貴族ですらこんな具合ですので…庶民が亡くなったら、その遺体はほとんど“ゴミ扱い”といっても間違いありません。
地面を掘って埋めるどころか、放り捨てるだけ。
鴨川べりにも遺体がごろごろ
さすがに市中に病原体の苗床にもなりうる遺体があるのはまずいので、しかるべき葬送の地(鳥辺野、蓮台野、化野など)や、町外れに捨てに行きます。
ですから、夏はカップルで賑わう鴨川べりなどは、かつて遺体がごろごろしていたわけですね。
その遺体を野犬なんかが食い荒らすわけで…
雅やかな京都の町といったって、そりゃあワイルドな光景が広がっていたわけです。
※本稿は、『応天の門』(新潮社)に掲載されたコラムの一部を再編集したものです。
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