『ミナリ』へ繋がる、ユン・ヨジョンの役者人生で見せる様々な“顔”

2021年4月23日(金)12時0分 シネマカフェ

『ミナリ』(C)2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.

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《text:西森路代》

映画『ミナリ』への出演により、各国の映画賞で評価され、4月26日に行われる米アカデミー賞の助演女優賞にノミネートされているユン・ヨジョン。

『ミナリ』ではアメリカで娘と息子と暮らす韓国人夫婦のもとに呼び寄せられ、韓国からやってきた一家のおばあちゃん役を演じている。しかし、このおばあちゃんが、幼い長男からすると、想像していた「おばあちゃんらしい」ところのない人物で、最初はうまくコミュニケーションができないのだが、次第に長男とおばあちゃんが打ち解けていく様子が描かれる。


しかし、アカデミーの作品賞にもノミネートされているだけあり、単に温かい家族像を描くだけでなく、当時の移民の現実や、家族の中にある問題点などにもフォーカスが当てられ(ときには娘の存在などにフォーカスを当てないことで気になることすらある)、表に見える以上のことが込められているように思えて、後々まで、「あれはどういう意味があるのだろう」と考えを巡らせたくなる作品となっている。


この『ミナリ』で重要な役割を演じたユン・ヨジョンは1947年生まれで、1966年から演技活動を開始。『パラサイト 半地下の家族』にも影響を与えたというキム・ギヨン監督の映画『下女』のセルフリメイク『火女』(1971年)に出演し、韓国の映画賞で新人女優賞や主演女優賞などを受賞した。同じ年には、韓国を代表する歴史上の悪女と言われてきた人物を描いたドラマ「張禧嬪」で主演するなど活躍。

しかし74年に結婚し渡米。10年足らずで離婚して再び芸能界に復帰した。この結婚していた時代にアメリカ生活も経験しており、英語も習得。『ミナリ』では韓国からアメリカにやってきた役のため、英語を話すシーンは少ないが、ほかの作品でも英語を使う演技を見せることも多い。

復帰後は、母親役、祖母役などを数多く演じている。「がんばれ!クムスン」、「棚ぼたのあなた」、「家に帰る道」など、ホームドラマへの出演も多く、何かしらの問題や悩みを抱えながらも、力強く生きる役も多い。


一方で、映画の世界では世界的にも評価の高い監督、ホン・サンス作品の常連でもあり、2010年の『ハハハ』に始まり『3人のアンヌ』、『自由が丘で』などに出演。出演時間は少なくても、どこか印象に残る役を演じている。

先述の『下女』をイム・サンス監督がリメイクした『ハウスメイド』では、主人公とともにハウスメイド役を演じ、この演技が認められ、韓国の青龍映画賞などで助演女優賞を受賞している。

また、2015年の『チャンス商会〜初恋を探して〜』では、主人公のおじいちゃん・ソンチルと恋におちる花屋の女主人を演じた。


2016年に主演を務めた映画『バッカス・レディ』は、『ミナリ』でユン・ヨジョンに興味を持った人にオススメしたい作品だ。この作品でユン・ヨジョンは、ソウルにある鐘路という地域の公園に集まる高齢者男性相手の売春で生計を立てるソヨンという主人公を演じた。こうしたソヨンのような女性は実際にも韓国に存在しており、彼女のような女性や、彼女が相手をする男性たちも含めて、高齢化社会の現実に迫った作品になっていた。

同時に、ソヨンの暮らすアパートにはトランスジェンダーのティナ(アン・アジュ)、義足の青年ドフン(ユン・ゲサン)が暮らしており、またソヨンがひょんなことからフィリピン人の母親を持つ少年の面倒を見ることになったり、またソヨン自身が息子と生き別れていたりと、普段は見えにくい韓国社会の別の一面が描かれていた。


近年、日本で公開される映画でユン・ヨジョンに出会う確率は高い。今年公開の『チャンシルさんには福が多いね』では、主人公のチャンシルが住む家の大家さんを演じ、主人公と不思議な連帯を感じさせる役になっていた。また『藁にもすがる獣たち』でも、ペ・ソンウ演じる主人公の母親役で出演。

演技活動以外にバラエティ番組にも出演しているユン・ヨジョン。日本でもCSや配信で見られる「ユン食堂」シリーズでは、素の姿も見える。これらの番組では、『82年生まれ、キム・ジヨン』のチョン・ユミ、「梨泰院クラス」のパク・ソジュン、「チェオクの剣」や「イ・サン」などの時代劇で活躍のほか、昨今はバラエティへの出演も多いイ・ソジンらも出演しており、俳優の後輩たちとの関係性を見るのも楽しい。


このように、ユン・ヨジョンは、ドラマでは、いわゆる橋田壽賀子作品のような大衆的なホームドラマの中でのどこにでもいそうな母親やおばあちゃんを演じ、映画では、社会的な意義のある作品や、作家性のある監督作品にも出演し、孤高の人物や自立した人物、一筋縄ではいかない人物などを演じていて、その活躍の幅は広い。

しかし、どんな作品でも、どこかすんなりとは収まらず、何かをこちらに訴えかけるような役を演じているような印象がある。『ミナリ』のおばあちゃんらしくないおばあちゃん役は、これまでに演じてきた役とどこか重なるようでいて、また新たな役のようにも思える。『ミナリ』を見て興味を抱いたら、彼女の他の出演作を見て、様々な顔に注目してみるのも良いのではないだろうか。

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