『心はロンリー』40年経っても変わらない“自分たちが面白いものを” 三宅恵介氏が込めた思い「テレビもまだまだ」

2024年4月27日(土)6時0分 マイナビニュース

●新しい視聴者に媚びずにギャグ作り
明石家さんまが主演するフジテレビ系スペシャルドラマ『心はロンリー 気持ちは「・・・」 FINAL』(27日21:00)。さんまが、三宅恵介ディレクターをはじめとする『オレたちひょうきん族』(フジ)の制作スタッフ、そして後に『踊る大捜査線』シリーズ(フジ)などの脚本を手がける君塚良一氏とタッグを組み、シリアスなドラマの中にたくさんのナンセンスギャグを散りばめた異色のドラマで、1984年から11作が放送されてきた。
第1作から40年という月日が流れ、テレビをめぐる環境が大きく変化した中で、令和の最新作はどのような意識で制作に臨んだのか。シリーズ全12作でメガホンを取る総合演出の三宅氏に、今作に込めた思いを聞いた——。
○Z世代だなんだって気にせず
テレビ界に“コンプライアンス”が言語化されていなかった40年前と違い、ギャグの作り方にはやはり変化があったという。
「昔は、さんまさんが風船を取るために電信柱に登ると、向こうのマンションで女の人が着替えてて、さんまさんを追うはずのカメラがそっちが気になって撮っちゃうとか、ちょっとエッチなネタは今はできないですね。動物を使ったのもできないし、生意気な子どもに悪口言われた女優さんがその子をバンって叩くなんてことも、昔は平気でやっていました(笑)」(三宅氏、以下同)
その中で変わらず貫かれているのは、「自分たちが面白いものを作ろう」という姿勢。「Z世代だなんだって気にせず…まぁ気にしてもマネできないし、むしろ逆手に取りますね。最近の人は1.5倍速でしゃべってる内容がギリギリ分かる速さでドラマを見てるらしいけど、元のスピードを1.5倍速にしちゃって、“これを1.5倍速で見てる人は2.25倍速になります”ってテロップを入れて、“速すぎて分かんないだろ”っていう笑いにするつもりです(笑)」と、新しい視聴者に媚びずにギャグを作っている。
○分かりにくいギャグは「考察視聴」向き?
『心はロンリー』の名物と言えば、「お腰(=腰巻き)姿の女性が雷の中で走りすぎる=雷おこし」といったものに代表される「分かりにくいギャグ」。その源流は、『オレたちひょうきん族』にあった。
裏番組の『8時だョ!全員集合』(TBS)では、セットが派手に壊れるなど大きな動きで小学生が見ても楽しめる笑いを作っていたのに対し、「やっぱり土曜の8時でいろんな世代が見てるから、分かりやすさ・伝わりやすさというのは一番なんですが、そのバランスを変えたんです」と狙ったという。
「例えば新選組のコントがあって、セットに『誠』という掛け軸があるんだけど、よく見たら『誠ちゃん』って書いてあるわけです。それに気づいた人が“分かった!”と面白がってくれて、そこから伝達していくんですよね。だから、誰でも見て分かるギャグは6割、残りの4割を分かりにくいギャグというバランスを考えていました」
この精神をより先鋭化させた『心はロンリー』。前回から21年ぶりの放送となるだけに、その世界観に親しみのない視聴者が増加していることも考慮して、「なるべく分かりやすくはしています」というが、「やっぱり“あれ気づかなかったでしょ?”って言いたいよね(笑)」と、難易度の高いギャグを忍ばせている。
伏線を幾重にも張った複雑なミステリーとは正反対のドラマだが、「分かりにくいギャグ」はもしかすると、SNS時代になって発達したドラマの「考察視聴」とマッチする可能性を秘めているのかもしれない……(?)
川口春奈吉田羊に感じたさんまとの相性の良さ
『心はロンリー』を、「明石家さんまさんにしかできない“バラエティドラマ”」と表現する三宅氏。「さんまさんは、『男女7人(夏/秋物語)』(TBS)をはじめドラマもやって、バラエティもやってるので、その役から逸脱しないで自分自身も表現できるんです。だからシリアスなシーンでも、スッと笑いを入れることができる。そんな『心はロンリー』みたいな番組を、ほかの芸人さんで誰ができるかなと考えても、なかなか難しいなという気がします」と捉える。
そうした中、今作で娘役を演じる川口春奈と、元妻役を演じる吉田羊には、最初の段階でさんまとの相性の良さを感じた。
「役者さんは笑いのところをあえて立てたり、セリフを置きにいく人が多いんです。でも、さんまさんは置きにいかない自然な笑いが好きで、川口さんと吉田さんもそうやって演じていました。だから、すごく間が合うのを感じましたね。それは大竹(しのぶ)さんとも同じ空気感なので、さんまさんも随分触発されたと思います」
○フジテレビ全盛期を思い出す制作体制
かつてはバラエティのスタッフを中心に制作していた『心はロンリー』だが、今回はドラマ制作のスタッフが助監督として参加している。それは、バラエティ部署に『心はロンリー』を経験しているスタッフがほとんどいなくなったことに加え、働き方改革や、制作における作業が大幅に増えたという事情があることが理由で、「昔より関わってる人数は3倍多い」と明かす。
そこで、ドラマとして成立するように、本業のスタッフを招集。「バラエティのスタッフだとレギュラーの番組と掛け持ちしてるから、来れる日と来れない日があったりするけど、ドラマのスタッフは1つの作品に専属でずっといてくれるので、これは本当に助かったし、この形にしてなかったらできなかった」と、大きな力になった。
このチームで制作を進める中で、かつて業界トップで好調だった頃のフジテレビの雰囲気を思い出したという。
「一番最初に24時間の特番(87年『一億人のテレビ夢列島』/現『FNS27時間テレビ)をやったときは、バラエティの横澤(彪)プロデューサーのもと、系列局で1つの番組を作ろうという意図があって、編成、営業、広報も巻き込んで、みんなの力で成功することができたんです。ただ時代が変わって、だんだんセクショナリズムになってきて、1つのテロップを入れるのも“問題があるからできません”なんて言われちゃうことも出てきた。それはおかしいじゃないですか。だから、これを機に“悪いしきたりをなくしましょう”なんて言う編成マンもいるし、今回の『心はロンリー』が良いきっかけになればいいなと思いますね」
●フジ局内外の協力があって実現
今作はフジテレビ開局65周年と、さんまのデビュー50周年も記念したものとなっており、さんまがこれまで番組でやってきたキャラクターやギャグなどが次々に登場。『ひょうきん族』『笑っていいとも!』『明石家サンタ』、さらには他局から『さんまのからくりTV』(TBS)のネタもお目見えし、グループのニッポン放送では『ナインティナインのオールナイトニッポン』の生放送で撮影を行った。
このように、局内外の協力があって実現したこともあり、「番組を見てくれた人がハッピーになってほしいというのはもちろんだけど、テレビをやってみたいと思ってくれる人がいたらいいなと思ってるんです。テレビもまだまだ、やればできるんだぞというのが伝われば」と願っている。
○さんまがトップランナーで走り続ける理由
今作で『FINAL』と謳っている中、さんまは事前番組で「『FINAL+1.0』でも『シン・心はロンリー』でもいい」と、さらなる続編への意欲を公言していたが、三宅氏は「やれればいいけど、みんな年だしね。でも、『心はロンリー』みたいな番組で、世の中に対して“このヤロー”と思ってることを笑いにできればいいなと思います」という姿勢。
75歳の今も現場に立ち続けるが、フジテレビでは『ミュージックフェア』の石田弘エグゼクティブプロデューサーが80歳でまだまだ現役だ。
「この間石田さんとお会いして、“俺は『ミュージックフェア』の60周年やってるぞ。お前も何かやってるらしいな”と言われたので、“石田さんがいるからやらせていただけるので、まだまだ元気にやってくださいよ”と言いました。石田さんは(三宅氏の上司だった)横澤さんとは仲悪かったけど(笑)、俺はバンドやってたから気が合って、昔からいろんなお店に連れて行ってもらったり、お世話になってたんですよ。そういう先輩が今もやっているのは、ありがたいですね」
“お笑いBIG3”の中で、タモリとビートたけしがレギュラー番組を徐々に減らしていく一方、2人より年代が下のさんまは、テレビ界のトップランナーとして走り続けている。「なんであんなに元気かっていうと、一人暮らしで話す人がいないから(笑)。スタジオが癒やしの場だから帰りたくないんだと思います」というだけに、その現場にはまだ三宅氏の存在が必要なようだ。
●三宅恵介1949年生まれ、東京都出身。千代田企画代表取締役。慶應義塾大学卒業後、71年に制作会社・フジポニーに入社し、機構改革に伴い80年にフジテレビジョンへ転籍。『心はロンリー 気持ちは「・・・」』のほか、『スター千一夜』『欽ちゃんのドンとやってみよう!』『笑ってる場合ですよ!』『オレたちひょうきん族』『ライオンのいただきます』『ライオンのごきげんよう』『タケちゃんの思わず笑ってしまいました』『FNS27時間テレビ』『あっぱれさんま大先生』『タモリ・たけし・さんまBIG3!世紀のゴルフマッチ』『たけし・さんまの有名人の集まる店』『明石家マンション物語』など、フジの代表的なバラエティを演出してきた。現在は『はやく起きた朝は…』のプロデューサー、『明石家サンタの史上最大のクリスマスプレゼントショー』の演出を務めている。

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