原作者の“問い”に映像化で“答え”を出す――『ナニワ金融道』から『おいハンサム!!』まで…山口雅俊氏が貫く「漫画原作」に向き合う覚悟

2024年4月27日(土)8時2分 マイナビニュース

●『セクシー田中さん』騒動に心を痛める制作者たち
ドラマ『セクシー田中さん』(日本テレビ)の原作者・芦原妃名子さんが、今年1月に脚本の作成過程におけるドラマ制作側との見解の相違を告白し、その経緯を説明した文書を削除した後、「攻撃したかったわけじゃなくて。ごめんなさい。」という言葉を残して急死したことは、テレビ界だけでなく、世間に大きな衝撃を与えた。
多くの制作者が心を痛める中、これまで『ナニワ金融道』『きらきらひかる』『闇金ウシジマくん』『カイジ 人生逆転ゲーム』といった漫画原作のヒットドラマ・映画を生み出してきた山口雅俊氏もその1人。自ら脚本・監督も手がける同氏は、どのような姿勢で原作の映像化に向き合っているのか。様々なドラマ賞を受賞した人気作の続編『おいハンサム!!2』(東海テレビ・フジテレビ系、毎週土曜23:40〜)を手がけ、6月21日には映画版も公開される同作の事例も含め、話を聞いた——。
○“これを映像化することにとにかく意味があるんだ!”と突き進む
フジテレビでキャリアをスタートした山口氏がプロデューサーデビューしたのは、青木雄二氏の原作漫画をドラマ化した『ナニワ金融道』(96年)。映像化にあたっては、映画界の有名監督との競合になったが、「こちらがフジテレビのまだ実績もない新人プロデューサーであろうと、青木さんも出版社もすごくフラットに見てくれました」(山口氏、以下同)といい、時間をかけて権利を勝ち取った。
その時から一貫しているのは、「原作者が投げかけている“問い”を見つけ、映像化することによってそれに“答え”を出す」という覚悟だ。
「よくある“オリジナルを作るには間に合わないから、原作を持ってきました”みたいなケースは、だいたい失敗します。そうではなく、誰か1人がものすごい熱量を持って“これを映像化することにとにかく意味があるんだ!”と情熱と志を持って突き進んでいくことが大事ではないでしょうか」
そこで行うのは、原作が訴えようとしているもの、原作のスピリッツを探し出し深く理解すること。「読み込むのは当たり前、大前提です。『おいハンサム!!』の原作の伊藤理佐さんとお話ししていたら、“山口さんのほうが私の漫画に詳しいですね(笑)”と言っていただいた。それくらいの(原作との)向き合いが必要」という。
人気原作者の作品は、連載が始まる前から映像化権の争奪戦が始まることもあるが、「そういう作品をドラマや映画にするのは、自分がわざわざやらなくていいのかなと思います。どうやって実写化するのか、誰も手を付けないような作品のほうがいいですね」という姿勢だ。
○『ナニワ金融道』『闇金ウシジマくん』で出した“驚き”と“答え”
撮影現場でも原作漫画を読んでいたという『ナニワ金融道』で出した一つの“答え”はキャスティングにあった。
「中居(正広)くんが演じた主人公の灰原が、大阪の金貸しの世界に入って成長するという話で、一番最初の「大阪のカネと欲望の本音の世界」の洗礼を受けるのが入社した街金融「帝国金融」の先輩・桑田という男との出会いなんですが、この役を小林薫さんがOKしてくれたというのが大きかった。あの当時、桑田という一見ふざけた“エグい”キャラクターを、状況劇場の看板俳優で、テレビでも山田太一さん脚本の『ふぞろいの林檎たち』に出演するなど硬派で端正なイメージの小林薫さんに演じさせるというのは、誰も思いつかなかったでしょう。でも、結果的に中居正広くん、小林薫さん、そして社長には緒形拳さんという帝国金融のキャスティングに有無を言わせぬ“驚き”があって、ものすごい人気漫画を生み出した青木雄二さんに対する映像化する側としてのアンサーになったと思います」
『闇金ウシジマくん』(10年、MBS)においても、山田孝之の主演というキャスティングが当初“驚き”をもって、結果、好意的に受け入れられたことに加え、「そもそも闇金業者が主人公というドラマなんてできないとか、タイトルから“闇金”を外さなきゃダメだという話もあった中で、地上波ギリギリのところでとにかくオンエアすることに意味があった。結果、自分なりに(原作の)真鍋(昌平)さんに答えることができたかな」と振り返る。
●新たな設定・登場人物を作る中で守るもの
映像化にあたって、設定を変えることや、ドラマオリジナルの登場人物・ストーリーを作ることもある。『きらきらひかる』(98年、フジテレビ)は、1人のスーパーウーマン的存在の女性監察医が主人公の漫画原作から、新人監察医(深津絵里)を中心に個性的でプロフェッショナルな女性たち(松雪泰子、小林聡美、鈴木京香)4人が活躍する物語に仕立て、『おいハンサム!!』に至っては、複数の原作を融合してタイトルも新たに命名した。
「『きらきらひかる』の原作が伝えたいのは、一言で言うと“生きていることは、それだけで素晴らしい”というものだし、『ナニワ金融道』は“ここにある1万円がどのように得たカネであれカネはカネだ。それがカネの本質だ”ということ。『おいハンサム!!』の伊藤理佐さんの原作は、“幸せとは何か”そして “幸せはどこにあるか”なんですよね、たぶん。原作を映像化するにはそこを守りつつ、プロデューサーや脚本家や監督である僕が、なりふり構わず“答え”を出そうと“もがく”ことが大事だし、それしか方法はないと思っています」
これまで手がけてきた原作の原作者には全員、直接会って話し合い、仕事をしてきたという山口氏。原作ファンという存在もある中で、「必ず批判もされますが、とにかく自分たちはこういう思いでこの“答え”を出したんだと言えることができれば、いいのではないかと思います」と考える。
○松本清張が「原作を超えた」映画『砂の器』
自身の手がけた作品以外で、山口氏自身が“驚き”を感じた映像化作品がないかを聞いてみると、松本清張原作の『砂の器』を挙げてくれた。
「最初の映画(74年)は、原作と比べると“驚き”しかありませんでした。そもそもは音楽による殺人を描いた長編推理小説なんですが、映画の脚本は、原作のエピソードを大胆に取捨選択し、主に2つの要素を大きい柱として抜き出した。冒頭の、蒲田駅構内で死体が発見され、その前夜に被害者と犯人と思われる二人がバーで“カメダ”について話し込んでいたという導入と、終盤の、故郷を捨てたハンセン病を患った父親とその息子が巡礼のため流浪する、という原作では数行しか触れられていないエピソード。あとは、橋本忍さんと山田洋次さんの脚本と野村芳太郎監督の演出で映像的に大きく膨らませて、映画を観た松本清張さんが“原作を超えた”とおっしゃったそうです。原作小説はもちろん、映画もまた、まさしく『砂の器』。“砂の器”という言葉が象徴する、積み上げてきた人生の脆(もろ)さをまぎれもなく描いたのです」
●木南晴夏が矢面に立つのは「フェアではない」
『セクシー田中さん』の騒動でクローズアップされた問題点には、SNSでの批判や誹謗中傷というのもあった。その攻撃の矛先は、脚本家だけでなく、出演者に向かうことも。
『おいハンサム!!』にも出演し、『セクシー田中さん』と撮影時期が重なっていた木南について、山口氏はX(Twitter)で「誰よりも役に真剣に向き合い、誰よりも的確で期待や想像を超えた演技をする、かけがえのない女優であることだけは言っておく」とポストしたが、そこには、「とても心を痛め、喪失感がある中で、出役の人は何かあるとネット記事で写真が使われてしまったりする。それはおかしいしフェアではない。だから、『おいハンサム!!』を見てもらえば分かるけれど、木南晴夏さんはこの騒動とは関係のない一人の女優なのだ。ただ、与えられた役に他の追随を許さないやり方で息を吹き込む貴重な役者なのだ、ととにかく伝えたかった」という思いがあった。
一方で、このツールにはプラスの側面もあると捉えている。
「『おいハンサム!!』でMEGUMIさんが演じる千鶴という役について、SNSで“諸行無常の母”と書かれているのを見て、なるほどなと思って参考にしたりしています。視聴者の方が的を射ることが多いですから、僕はSNSで意見や感想を読んだり、批判されたりするのが好きです。フジテレビにいた頃は山田良明さん(『北の国から』などのプロデューサー)が上司で、いろいろ意見してくれたのですが、やっぱりとにかく誰かに何かを言われて立ち止まって考えることはすごく大事だと思う。それが今は視聴者からダイレクトに来るようになったということですね」
○原作者が感じた作品の広がり「本当に漫画ってすごい」
4月に行われた『おいハンサム!!2』のプレミア試写会で、最初にドラマ化のオファーを受けた際の心境を回想した原作の伊藤氏は、山口氏から直接電話を受け、「“漫画を混ぜてドラマにしたい”って言うから、絶対新手の詐欺が来たと思ってました(笑)」と打ち明けた。
そこから実際にドラマ化され、続編が放送され、さらには映画化までされることに、「地味に一人で描いていた漫画が、面白い監督(山口氏)に見つかって、ハンサムな吉田鋼太郎さんに演じてもらって、その作品を面白がってくれる方がいっぱいいて、本当に漫画ってすごいなと思っています」と、作品が広がっていくことの喜びを語っている。
しかし、『セクシー田中さん』の騒動を受け、各局では今までのように漫画原作をドラマ化しにくい空気感が生まれている。それでも山口氏は「これからも面白いもの、そして自分にしかできないものがあれば、原作ものにも挑み続けていきたいですね」と意欲を示した。
●山口雅俊兵庫県神戸市出身。フジテレビで『ナニワ金融道』シリーズ、『きらきらひかる』シリーズ、『ギフト』、『タブロイド』、『アフリカの夜』、『危険な関係』、『太陽は沈まない』、『カバチタレ!』、『ロング・ラブレター〜漂流教室〜』、『ランチの女王』、『ビギナー』、『不機嫌なジーン』などをプロデュース。独立して、株式会社ヒントを設立。『カイジ』の映像化の企画を持ち込んで1作目をプロデュース、シリーズを立ち上げるなどした後、企画・プロデュース・脚本・監督をすべて担当した作品として、ドラマ・映画『闇金ウシジマくん』シリーズ、ドラマ『やれたかも委員会』、ドラマ『新しい王様』シリーズ、ドラマ『闇金サイハラさん』、ドラマ・映画『おいハンサム!!』などがある。

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