2024年春ドラマ23作、“視聴率無視”で採点「非の打ちどころなし」「誰もが楽しめる」「堺雅人と比べたくなる吸引力」

2024年5月4日(土)10時30分 マイナビニュース

●映画につなげる収益化の流れも見事
主要23作がそろった2024年春ドラマ。今回もドラマ解説者の木村隆志が、主要新作の初回放送をウォッチし、俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコでオススメ作品を探っていく。
別記事(「2024年春ドラマ」オススメ5作を発表 “多彩な品ぞろえ”で起こった“春の異変”とは)において2024年春ドラマの主な傾向を【[1]強力主演が生み出した“多彩な品ぞろえ” [2]過去の事件、謎の死、記憶喪失…】の2つと解説。
おすすめドラマとして、『からかい上手の高木さん』(TBS 火曜23時56分)、『Destiny』(テレ朝 火曜21時)、『ブルーモーメント』(フジ 水曜22時)、『おいハンサム!!2』(東海テレビ・フジ 土曜23時40分)、『アンチヒーロー』(TBS 日曜21時)の5作を選んだ。
本記事では、それらを含む全作品のショートレビューと、目安の採点(3点満点)を挙げていく。
『366日』 月曜21時〜 フジ
出演者:広瀬アリス眞栄田郷敦北村一輝ほか
寸評:月9は「重いラブストーリー」路線を継続。仲間との関係性を丁寧に積み上げていく脚本は好感が持てる一方、16年前の楽曲をあえてモチーフにしたことから、良くも悪くも作り手の思いが先行した作品になった。事故で意識不明→目覚めたが…の流れでは眞栄田の見せ場が少なく、視聴者にはストレスフル。感情表現の上下動が巧みな広瀬と眞栄田なら、バチバチにぶつけ合う関係性が見たかった感もある。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『アンメット ある脳外科医の日記』 月曜22時〜 カンテレ・フジ
出演者:杉咲花若葉竜也、岡山天音ほか
寸評:杉咲を筆頭にこれほど演技巧者をそろえられるのはカンテレ制作ならではだろう。なかでも若葉の起用だけで映像が引き締まり、質がグッと上がった。ただ、原作漫画から主人公を変え、記憶障害を前面に押し出したことで、作品としてのバランスが難しくなったか。医療ドラマとしての感動に、ヒューマン、ミステリーなど、優先順位があいまいで焦点が絞りづらく、見る人を選ぶ作品になっている。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】
『95』 月曜23時6分〜 テレ東
出演者:高橋海人、中川大志、松本穂香ほか
寸評:「テレ東60周年記念作」であり、強力キャストの力作。95年という舞台設定は平成初期ブームの時流に合い、高校生たちの熱い青春群像劇というジャンルも希少性が高い。それでも話題にならないのは、豪華だが強引なキャスティングが原因か。『今日から俺は!!』のように笑いへ振り切るくらいでなければ、年齢の違和感を拭うことは難しそう。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆ 期待度☆】
『Destiny』 火曜21時〜 テレ朝
出演者:石原さとみ、亀梨和也、安藤政信ほか
寸評:大学時代の青春群像劇に、新旧の事件を絡めてミステリー&サスペンスを加速させ、さらに20年にわたる愛憎劇へ……という流れはスムーズで、映像から緊張感と色気が感じられる。長野と横浜の舞台落差も効果的で、アラフォーキャストの大学生も話題性としてはアリ。TBSの名作『最愛』と似た構造で目新しさはないが、2つの事件と1組の男女を1クールかけて追う連ドラとしての醍醐味は十分。テレ朝としては渾身のオリジナルで、課題の配信も上々のスタートを切った。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
『くるり〜誰が私と恋をした?〜』 火曜22時〜 TBS
出演者:生見愛瑠、瀬戸康史、神尾楓珠ほか
寸評:火曜ドラマ定番のラブコメに“記憶喪失”をプラスし、「世代の異なる3人のイケメンをそろえる」という女性向け王道の構成。記憶と恋人を探すより、「素を見せず悪目立ちしないようにしてきた自分の人生を生き直す」という要素を濃くすることでポジティブなムードに。ただ「芯の強さを感じさせる」という生見の持ち味は出づらい設定か。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
『お迎え渋谷くん』 火曜23時〜 カンテレ・フジ
出演者:京本大我、田辺桃子、長谷川京子ほか
寸評:「イケメン俳優とマジメ保育士の恋」というギャップを生かしたベーシックなラブコメ。保育園という舞台と「ともにウブすぎる」キャラ設定は、癒し度最高峰の作品かもしれない。ダブルボケのメイン2人と天真爛漫な園児たちを愛でる作風に特化することで、SNSで明るくツッコミを入れながら楽しめる作品になった。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『からかい上手の高木さん』 火曜23時56分〜 TBS
出演者:月島琉衣、黒川想矢、江口洋介ほか
寸評:からかいがいい意味で中学生のレベルを超えず、好意をほのめかすことで甘酸っぱいムードを創出。消しゴムのおまじない、飲み物の間接キス、自転車2人乗りなどの思春期の距離感も徹底され、それが老若男女を問わず、クスッと笑えて、2人を応援したくなる世界観につながっている。特筆すべきは、俳優界のプロスペクトである2人の魅力を最大化するような今泉力哉監督の演出。小豆島のロケーション、10年後に再開した2人を描く映画につなげる収益化の流れも見事で、漫画・アニメからの実写化としては、非の打ちどころがない仕上がり。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
●『VIVANT』を踏襲したような仕掛け
『ブルーモーメント』 水曜22時〜 フジ
出演者:山下智久、出口夏希、水上恒司ほか
寸評:「気象災害の学び」「人命救助のカタルシス」「過去の災害をめぐるミステリー」という原作漫画の素晴らしさに、団結力で魅せるチームドラマという魅力を加え、さらに臨場感あふれるヘリや車両、壮大なロケなどの迫力をプラス。その結果、『コード・ブルー』『TOKYO MER』あたりに似た感もあるが、裏を返せば、「誰もが楽しめるエンタメ作になった」ということだろう。ボン・ジョヴィの主題歌や劇伴も含め、より多くの人々に見てもらうためのプロデュースが徹底されている。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆☆】
『Believe -君にかける橋-』 木曜21時〜 テレ朝
出演者:木村拓哉、竹内涼真、斎藤工ほか
寸評:情報を伏せたPR、味方か敵かわからない大物を大量投入などの仕掛けは『VIVANT』を踏襲か。「木村拓哉を刑務所に入れる」というシチュエーションなどテレ朝らしからぬ話題性重視の方針が透けて見える。わずか1話で「冤罪を晴らす」「陰謀を突き止めて悪を成敗」「末期がんの妻に寄り添う」などの明確なゴールを提示できたのは好材料。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】
『Re:リベンジ -欲望の果てに-』 木曜22時〜 フジ
出演者:赤楚衛二、錦戸亮、芳根京子ほか
寸評:初回から薬殺、心臓病、襲撃、5カ月昏睡、恋人を寝取られ、復讐を誓う……余貴美子の演技、K-POP主題歌なども含め、「あえて韓国ドラマ風の既視感を狙った」としか思えないプロデュース。2010年代中盤あたりならド真ん中かもしれないが、なぜ今これなのか。「激しい展開の連続がネット反響に結びつかない」ことがその答えに見えてしまう。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
『約束 〜16年目の真実〜』 木曜23時59分〜 読売テレビ・日テレ
出演者:中村アン、横山裕、岡部たかしほか
寸評:口の中にビー玉を詰めた遺体はホラーで、深夜ドラマとしてのつかみは上々。記憶を失い、父親が逮捕され、友人も恋も失い、故郷を追われながらも、刑事になり事件解明に挑む…全部乗せの主人公に共感できれば楽しめそう。ほぼ怪しい人物のみという設定の中、「キャストが真犯人を知らないまま撮影に臨む」という試みが不穏なムードを加速。探り、疑い、隠し、だまし合う心理戦をうまく演出できれば名作にも。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『ダブルチート 偽りの警官 Season1』 金曜20時〜 テレ東
出演者:向井理、内田理央、伊藤淳史ほか
寸評:詐欺師を詐欺師として成敗する『クロサギ』のテイストに警察官をプラス。『婚活探偵』『パリピ孔明』で一皮むけた向井の真価が問われるプロジェクトに。「テレ東が初のWOWOWとの共同製作」はいいが、ゴールデンタイムで有料放送のSeason2につなげるのはNGの感が。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『イップス』 金曜21時〜 フジ
出演者:篠原涼子、バカリズム、染谷将太ほか
寸評:「イップス」というキャッチーな脚本はバラエティ畑のオークラらしく脱力感あふれる。倒叙ミステリー最大の醍醐味であるトリック破り、長尺コントに見える主演2人の演技……随所に「軽すぎでは?」の感が漂う。何よりもっとイップスの描写にこだわり、深掘りしたいところ。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
『9ボーダー』 金曜22時〜 TBS
出演者:川口春奈、木南晴夏、畑芽育ほか
寸評:「3世代をターゲットにしてコア層の個人視聴率を取っていく」というマーケティングに基づく企画だが、序盤からネット記事でありそうなエピソードの連続で、脱落者を招いたか。今後は3姉妹を取り巻く、厳しい世間と優しい男たちのバランスが「視聴者の共感を得られるか」の鍵を握りそう。銭湯での入浴シーンや弾き語りなどのアクセントシーンもてんこ盛りだが、最も気になるのは「なぜ母は10年ブランク×2回の無理な出産をしたのか」と、失踪した父との夫婦関係。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
『JKと六法全書』 金曜23時15分〜 テレ朝
出演者:幸澤沙良、大東駿介、日向亘ほか
寸評:『虎に翼』『アンチヒーロー』という大作がある中、17歳の“女子高生弁護士”という設定は虚実皮膜の絶妙なライン。制服姿で青森弁まじりの法廷弁護に、学園生活のシーンを加え、さらに同世代に寄り添うメッセージ性も込めて、若年層が見られるリーガルドラマに。幸澤の大抜てきを大東が全力でサポートするような関係性が微笑ましい。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
●長谷川博己の法廷シーンは圧巻
『花咲舞が黙ってない』 土曜21時〜 日テレ
出演者:今田美桜、山本耕史、上川隆也ほか
寸評:なぜこの作品をリメイクするのか。杏のシリーズは『半沢直樹』直後で池井戸潤と勧善懲悪のブームだったが、現在そのムードはなく、売りの爽快感は軽め。マーケティング重視で企画を決める日テレらしくない選択で、朝ドラ主演を控える今田にとって代表作になるかは疑問。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
『街並み照らすヤツら』 土曜22時〜 日テレ
出演者:森本慎太郎、森川葵、浜野謙太ほか
寸評:ベースはクライムサスペンスだが、危うさが伝わってこないのは、商店街の再生、地元仲間との絆、コメディと要素が多く、焦点が絞りづらいからか。伸び盛りの主演に加えて助演に演技巧者がそろうだけに、トラブルで急仕上げを余儀なくされた脚本・演出の密度が鍵を握る。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『東京タワー』 土曜23時〜 テレ朝
出演者:永瀬廉、松田元太、板谷由夏ほか
寸評:「20歳差の年の差不倫」にトップアイドルを起用した確信犯の作品。ある意味で王道のアイドルドラマであり、永瀬にとっては大人俳優への道を切り拓く上で勝負作の1つ。ポイントは性的な刺激ばかりに頼らず、あえて23年前の小説を令和によみがえらせた意味をストーリーの中に盛り込めるか。労を惜しまぬ東京ロケにも期待がかかる。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆ 期待度☆】
『6秒間の軌跡〜花火師・望月星太郎の2番目の憂鬱』 土曜23時〜 テレ朝
出演者:高橋一生、橋爪功、本田翼ほか
寸評:まさかの第2弾。しかも花火店が舞台の物語でありながら、またも夏ではない季節に放送。ともあれ、橋爪が演じる幽霊と高橋のゆるい会話劇は不変で脱力した世界観が貫かれている。本田を加えた3人の関係性に宮本茉由が演じる謎の女性が参戦。こちらは幽霊が見えず、しかも主人公にプロポーズするなどの波紋による変化が見どころの1つ。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
『おいハンサム!!2』 土曜23時40分〜 東海テレビ・フジ
出演者:吉田鋼太郎、木南晴夏、佐久間由衣ほか
寸評:こちらは既定路線の第2弾。短くも味のあるエピソードをつなぎ合わせる繊細な技は健在で、目を凝らすほどカット割りやカメラワークの工夫が伝わってくる。随所にはさまれる食事シーンの主張も、吉田の押しつけがましくないレベルのハンサムぶりもほどよく、脚本・演出・プロデュースのすべてを手がける山口雅俊のセンスそのものか。ヒット作をすかさず続編→映画につなげるマネタイズに東海テレビの本気。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
『アンチヒーロー』 日曜21時〜 TBS
出演者:長谷川博己、北村匠海、堀田真由ほか
寸評:謎多き主人公に情報を伏せたPRがフィット。『VIVANT』と同じ手法であり、スタートダッシュに成功した。長谷川の法廷シーンは圧巻で『リーガル・ハイ』の堺雅人と比べたくなるほどの吸引力がある。部下たちも正体がつかめず翻弄される主人公に視聴者も釘付けになるのは必然で、終盤は検事正・野村萬斎との因縁や対決で盛り上がりそう。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
『ミス・ターゲット』 日曜22時〜 ABC・テレ朝
出演者:松本まりか、上杉柊平、沢村一樹ほか
寸評:苦労人の松本がついにつかんだ全国ネット地上波連ドラ初主演。それだけで応援したくなる感はあるが、「結婚詐欺師が本気婚活」というコンセプトはいかにも軽い。序盤で「男の基準は金」「普通の恋愛経験はゼロ」という主人公を応援したいという気持ちにさせられなければ苦戦必至か。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
『ACMA:GAME アクマゲーム』 日曜22時30分〜 日テレ
出演者:間宮祥太朗、田中樹、古川琴音ほか
寸評:ぶっ飛んだ設定は休日朝の特撮ドラマを彷彿。原作漫画から設定年齢を変えたことで、各所に違和感が表れてしまった。『カイジ』『ライアーゲーム』『イカゲーム』のようなヒリヒリ感は薄く、リアリティ度外視の分残酷なまでに追い込んだほうが視聴者を引きつけられたのでは。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら

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