【インタビュー】橋本愛、過去のやり直しより「ともに生きる」という人生観

2023年6月20日(火)12時50分 シネマカフェ

橋本愛『ザ・フラッシュ』/photo:Maho Korogi

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“運命の分岐点”は誰の人生にも訪れる。あのとき、こうすればよかった。このとき、こちらを選択すればよかった。『ザ・フラッシュ』の主人公であり、幼いころに母親を亡くしたスーパーヒーロー、フラッシュことバリー・アレンも、運命の分岐点と選択がもたらしたものに苛まれる。そんな彼を見守り、ともに戦うことになる仲間として、劇中にはスーパーガールことカーラ・ゾー=エルが登場。

その吹き替えを担当した橋本愛に、役柄と声の演技について、さらには自身の“運命の分岐点”について聞いた。「“後悔はしないけど反省はする”の気持ちで行きたい」という橋本さん。その真意は…?

イメージとは全く違う役への挑戦
「徐々にいろんな表現をしていきたい」

──スーパーガールことカーラ・ゾー=エルのキャラクターをどう捉えましたか?

スーパーマンのいとこであるカーラは強さやかっこよさ、たくましさを持つ一方、繊細で儚く、弱さも持ち合わせている人。けれど、弱いからこそ人の痛みが分かるし、人を助けたい気持ちもあるんですよね。そういった彼女の愛情深さや温かい人間味を感じながら演じました。

──声を演じるにあたり、気をつけたところは?

演じられているサッシャ・カジェさんの声質やトーンと全く同じにするのは難しくて。ですが、限りなくにじり寄る気持ちでやりました(笑)。声って、ある程度は骨格や体格で決まってくるものですよね。でも、「この体からこの声は出ないよな」とは思ってほしくなかった。サッシャさんの表情を見て、声を聞いて、何を感じながら演じていらっしゃるのか、なるべく汲み取りながら演じたかったんです。リスペクトを持って演じるという意味でも、彼女の表現からかけ離れることはしたくありませんでした。

──劇中では、カーラのすべてが描かれるわけではありません。彼女の過去などについて、想像を巡らせたりもしましたか?

私自身の解釈でしかありませんが、1つ想像したのはクリプトン星が滅んだときのこと。カーラとカル=エル(スーパーマン)は唯一の生き残りとして、故郷が滅びる瞬間を見ているわけですよね。それってものすごい体験だし、想像しようもないほど壮絶な心境になったと思うんです。と同時に、何かが滅んだ瞬間を知っているからこそ、何かを守るという気持ちの強さが彼女の中に芽生えた気もしていて。そのあたりの心の変遷は自分の中ですごく想像しました。

──声だけでなく、カーラのようなスーパーヒーローを演じたい願望はありますか?

可能であれば、もちろん演じたいです! 体はまだ硬いんですけど、アクションが好きなので。実はプライベートでキックボクシングやダンスを習っていたりもするんですが、そういったイメージが私にはあまりないかと…。機会があれば、ぜひよろしくお願いします(笑)。

──パブリックイメージから離れた役柄を演じて驚かせたい気持ちも?

なんて言うか、私の中にはいろんな人格があって。しかも、対極の人格がいっぱいあるんです。でも、今はまだその中の2つか3つぐらいしか認知されていない気がして。これまでのイメージとは全く違う役をいきなり私に託すのも難しいとは思いますが、徐々にいろんな表現をしていきたい気持ちはあります。

──人格はいくつぐらいあるんですか?

いっぱいあるんですよ、本当に(笑)。幼稚園児みたいな自分もいれば、大人びた自分もいる。上品な人がいるかと思えば、ヤンキーみたいな人もいる(笑)。優等生もいるしギャルもいる。盛りだくさんで楽しいですけどね。そんな子たちをいつか解放してあげたいです。



過去のすべての選択とともに生きる

──ぜひ(笑)。さて、本作では“運命の分岐点”が物語の鍵を握りますが、橋本さん自身、「あの瞬間があったから、今の自分がある」と思えるような出来事はありますか?

たくさんあります! それこそ声に関して言うなら、(『グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜』で)成島出監督とご一緒したとき、「昔の日本女優のような声を出してほしい」という演出を受けたことがあって。当時の私の体の使い方では、監督の要望に応えられなかったんです。けれど、「君の骨格なら出せるはず」と粘り強くおっしゃっていただき、トレーニングを重ね、新しい声を出せるようになりました。自分の声に興味を持ち始めたのもそのときからですね。「あっ、こんな声も出るんだ」って。そういった発見が面白かったし、成島監督との出会いがあったからこそ、自分の中に広がるものを感じました。

──逆に、過去をやり直したいと思ったことは?

そういった気持ちを持ったことがないと言えば嘘になりますが、この『ザ・フラッシュ』やタイムループを題材にした作品たちのおかげで、過去を変えてもあまりいい結果にならないと学んで(笑)。結局、「今が大事」という結論にたどり着きますよね。もちろん、失敗した直後は「もう、変えたい…」と思います。でも、その失敗がないと学べないし、学べていないからミスが起こる。だから、「後悔はしないけど反省はする」の気持ちで行ければ。

──もともと前向きなタイプですか?

もともとなのかな? 少なくとも今はそうです。私の好きな言葉に、「そのときにした選択は、それしか選べなかったから選んだ」というものがあって。どんな選択もそのときの自分の限界であり、そのときの自分の最善だったと考えるようになってからは、いい意味で仕方がないと思えるようになりました。それが未熟な自分にとっての頂点だったということは、その頂点をこれからいくらでも突き破っていけるという伸びしろを意味しているとも言えます。そう考えることで、過去のすべての選択を許せるようになりました。

──「過去のすべての選択を許す」のは、なかなか難しいことでもあります。

「許す」というより、「ともに生きる」と言ったほうがいいのかも。これも言葉の話になりますが、深田晃司監督の『LOVE LIFE』という映画で、主人公が経験した過去の過ち、喪失に対して、「君だけは乗り越えるな」といったような台詞があって。例えば大切な人の死を周りがどんなに乗り越えようとも、私だけは乗り越えなくていい。悲しい気持ちを無理になくさなくても、それと一緒に生きればいい。そういった考えが、私の姿勢の基本になっているのかもしれないです。

──最後に、ご自身の俳優人生を変えた“運命の映画”についても聞かせてください。

15歳のときに出演した『桐島、部活やめるってよ』です。当時はまだ、この仕事に対して何の覚悟も誠実さもなくて。そんな中、同年代の共演者さんたちが信念を持ってお芝居に取り組んでいる姿を見て、「このままではこの人たちに失礼だな」と思うようになりました。自分はこの道から降りるのか、続けて頑張るのかを考えたとき、彼らに追いつきたいなと思ったんです。あの映画によって自分の基盤みたいなものが形成されましたし、日本映画の至高に携わることができたという意味でも思い入れのある作品ですね。

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