「2024年夏ドラマ」オススメ5作は? パリ五輪開催中の難しいクールで意欲作ズラリ

2024年8月7日(水)10時0分 マイナビニュース

今夏は長期休暇や大型イベントがある上にパリ五輪が開催される難しいクールながら、各局プロデューサーの意欲が感じられる作品がズラリ。連日ドラマ関連の記事が量産され、Xのトレンドランキングをにぎわせるなど、さまざまな話題を提供している。
主要作がそろったこのタイミングで「本当に質が高くて、今後期待できる作品」を唯一のドラマ解説者・木村隆志がピックアップ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、今回の前編では「2024年夏ドラマ主要22作の傾向とおすすめ5作」、次回の後編では「目安の採点付き全作レビュー」を挙げていく。
2024年夏ドラマの主な傾向は、【[1]「パリ五輪開催」の難しさがハッキリ】【[2]「夏なのに」命をめぐる重い物語が続出】の2つ。
傾向[1]「パリ五輪開催」の難しさがハッキリ
長年テレビ業界、なかでも民放ドラマ班の間では「夏は難しい」が定説。その理由は「会社員も学生も長期休暇があるほか、外食なども含め在宅率が下がる」「大型の夏イベントなどが多くドラマの視聴習慣がつきにくい」などと言われてきた。
しかし、『半沢直樹』(TBS)や『昼顔 〜平日午後3時の恋人たち〜』(フジテレビ)がヒットした2010年代中盤あたりから業界内に「夏でも勝負できるのではないか」「むしろ夏だから思い切った挑戦がしやすい」というポジティブなムードが発生。近年では酷暑も相まって在宅を選ぶ人も増え、「連ドラも見てもらえる」という声も聞こえてくる。
ただそれでも今夏はパリ五輪が開催される難しいクール。競技中継は7月24日から8月12日までの20日間に及び、その時期は夏ドラマの第1話から第7話あたりとバッティングする。民放にとっては「自局での五輪中継時にドラマの中断を余儀なくされる」ほか、「それがない日も五輪中継が裏番組として脅威となる」だけにリアルタイム視聴してもらうことが難しい。
そのため、6月最終週から7月第1週の早い時期に第1話を放送して五輪開催前に面白さを伝えようとしたり、1〜2話見逃しても気軽に戻ってきやすい作品にしたりなどの工夫が見られる。
たとえば、『笑うマトリョーシカ』(TBS)は6月28日、『海のはじまり』(フジ)は7月1日にスタートし、その他も大半が第1週までに第1話を放送した。
また、1〜2話見逃しても大勢に影響のない1話完結型の刑事・医療ドラマも目立っている。刑事は『ギークス〜警察署の変人たち〜』(フジ)、『GO HOME 〜警視庁身元不明人相談室〜』(日本テレビ)、『降り積もれ孤独な死よ』(読売テレビ制作・日テレ)、医療は『マウンテンドクター』(カンテレ制作・フジ)、『新宿野戦病院』(フジ)、『ブラックペアン』(TBS)。もともと刑事・医療ドラマは「大崩れを避けた安全策」として選ばれやすいだけに、その多さが今夏の難しさを裏付けていると言っていいだろう。
傾向[2]「夏なのに」命をめぐる重い物語が続出
前述したように難しいクールだからこそ、安全策の刑事・医療ドラマが増えているのだが、両ジャンルに共通しているのは“命をめぐる物語”であること。刑事のベースは殺人事件であり、医療は常に生死を分けるストーリーが放送されている。つまり、それだけシリアスな世界観の作品になりがちなのだが、今夏の“命をめぐる物語”は刑事・医療だけではない。
『海のはじまり』と『あの子の子ども』(カンテレ制作・フジ)は、どちらも学生の妊娠と中絶・出産がテーマの物語。しかも令和の事情を詳細かつシビアに描き、序盤からネット上には「思っているより重いドラマだった」などの声があがっていた。
本来、夏は最も明るく楽しいムードの作品が合う季節で、かつての『ビーチボーイズ』『WATER BOYS』『花ざかりの君たちへ〜イケメン♂パラダイス〜』(すべてフジ)などがそうだったようにライト層を引きつける手段でもあった。しかし、徐々にそれがうまくいかなくなると、安定感を求めてドラマフリークが好む重い物語が優先されていたが、今夏はその傾向が強いことになる。
ただ制作サイドは命をめぐる重い物語をそのまま放送しているわけではない。重さをやわらげる美しいロケ映像、さわやかな音楽、箸休めとなるパートの挿入などの見やすくするための工夫を施している。また、命をめぐる物語は重いからこそ終盤の感動が大きく、「最後まで見てよかった」と序盤の印象が覆されるケースも多いだけに、パリ五輪が終わり、夏ドラマが終盤を迎える9月は盛り上がるかもしれない。
これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『海のはじまり』『クラスメイトの女子、全員好きでした』の2作。
『海のはじまり』は、元助産師だった生方美久の脚本に引き込まれる。『silent』『いちばん好きな花』の前2作はどこか尻つぼみの印象もあったが、妊娠から中絶、出産、ステップファミリーまでを描く今作はその不安はない。風間太樹の演出で重さをやわらげ、人気者の目黒蓮と有村架純を囲うキャストもスキのない布陣。
『クラスメイトの女子、全員好きでした』は、今夏の掘り出し物。小説の盗作をめぐる現代パートを“振り”にしたメインの中学時代パートに引き込まれる。甘酸っぱさと苦さ、あるあると笑いを織り交ぜた世界観は年齢不問の面白さ。何より美男美女をあえてそろえずリアルな教室を再現した子役のキャスティングに感心させられる。
その他、『笑うマトリョーシカ』は、政界が舞台だが、ヒューマンとサスペンスが見事にミックスされ、次々に怪しげな人物が登場して視聴者を良い意味で翻弄している。『あの子の子ども』は、高校生の妊娠を具体的かつリアリティたっぷりに描き、夏休みの学生たちに向けた放送意義も明確。『降り積もれ孤独な死よ』は、虐待と暴力衝動というダークなテーマながら、意外な展開で視聴者の予想を裏切る脚本と若手俳優たちの熱演で見応えがある。
これら以外では、宮藤官九郎らしい個性的なキャラクターと軽重織り交ぜたエピソードが楽しめる『新宿野戦病院』もおすすめとして挙げておきたい。
「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局の動画配信サービスなどでチェックしてみてはいかがだろうか。
○2024年夏ドラマおすすめ5作
No.1 海のはじまり (フジ 月曜21時)
No.2 クラスメイトの女子、全員好きでした (読テレ・日テレ 木曜23時59分)
No.3 笑うマトリョーシカ (TBS 金曜22時)
No.4 あの子の子ども (カンテレ・フジ 火曜23時)
No.5 降り積もれ孤独な死よ (読テレ・日テレ 日曜22時30分)
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら

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