上院議員なのに議会内で職質、米共和党の骨太な黒人大統領候補とは

2023年5月25日(木)6時0分 JBpress


トランプ氏はデサンティスにノー

 南部フロリダ州のロン・デサンティス知事(44)が5月24日に2024年米大統領選への出馬を表明した。

 ドナルド・トランプ前大統領が「ロン・デサンクティモニアス(「不吉なデサンティス」)と名付けて忌み嫌う対抗馬がいよいよ満を持して登場した。

 5月22日には、米共和党唯一の黒人上院議員、ティム・スコット上院議員(57=サウスカロ内ナ州選出)が、2024年大統領選に出馬表明した。

 トランプ氏はSNSにこう投稿した。

「スコット上院議員、ご健闘を祈る。大統領候補が急に賑やかになってきた。(スコット候補は)全く当選する見込みのないデサンクティモニアスよりも大きくステップアップした格上の候補者だ」

「スコット氏は2017年、(黒人のために設置された地域への)投資を盛り込んだ減税法案で協力し合った仲だ」

(Trump on Tim Scott: ‘Big step up’ from DeSantis | The Hill)

 トランプ氏にとっては、候補者乱立で票が分かれ、それだけ自分の支持率が安定化するという読みがある。

 と同時に、長期的に見れば黒人のスコット氏の登場は本選挙では民主党支持の黒人票を切り崩すといった「大所高所」からの読みもありそうだ。

(トランプ氏が私欲だけでなく共和党のことを考えていればの話だが)

 スコット氏が、反トランプか親トランプかは目下のところはっきりしない。が、仲は悪くない。

 トランプ氏は大統領の時に人種問題ではスコット氏の話をよく聞いていた。トランプ氏はスコット氏に一目置いていた。

 2017年バージニア州シャーロッツビルでの極右武装集団がリベラル派の集会に殴り込みをかけた際に、トランプ氏が「双方には善良な市民がいる」とツイートしたのに対し、スコット氏は「擁護しがたい発言だ」と抗議、苦言を呈した。

 当時、トランプ氏に苦言を呈する者はいなかっただけに目を引いた。

「大統領は深く物事を考えずに言ったのかどうか、大統領としてのモラル・オーソリティを取り消すのは並大抵のことではない」

 人種問題の節目では党内で黒人共和党議員の役割を果たしてきた。

 ジョー・バイデン氏の大統領就任演説に反論する恒例の共和党代表演説(2021年1月)を行ったスコット氏は、「米国は人種差別国家ではない」と、以下のような演説を行って注目された。

「(黒人が受けてきた)苦痛の過去を現在行なわれている人種問題の論議に不正直に引用し、使うのは正しくない」

「人種差別の問題を別の形の人種差別にすり替えて論議を戦わすのは後ろ向きだ」


オラクルのエリソン氏ら3000万ドル拠出

 貧しい母子家庭で育ち、地方大学(バプテスト教会系のチャールストン・サザン大学)を卒業、保険の外交員から郡議会、州議員を経て連邦下院議員として中央政界入り。

 当時州知事だったニッキー・ヘイリー氏(大統領選にすでに出馬)に選ばれて欠員補充の上院議員になった。

 知名度も、これといった実績もない南部の黒人がなぜ、名乗りを上げたのか。

 唯一注目すべき点は、立候補時点で3000万ドル超の政治献金を集めていることだ。

 スコット氏の大統領立候補の可能性をメディアが報じ始めた2021年以降、同氏を支持するスーパーPAC(政治委員会)「オポチュニティ・マターズ・ファンド(Opportunity Matters Fund=その後「Trust in The Mission」に改名)には大手ビジネスソフトウエア「オラクル」の共同創業者、ラリー・エリソン氏から2500万ドルが拠出された。

 このほか、コングロマリット「コーク・インダストリー」や「ニューバランス」のジェームズ・デイビス氏らも政治資金を出している。

(Hedge funds piled into these A.I. stocks during the first quarter (cnbc.com))

 トランプ氏が集めた5億ドルにはかなわないが、「保守本流に流れてきたカネがスコット氏に流れ出したことは要注意。トランプ氏やデサンティス氏に流れていた潮流が逆流する可能性は十分にある」(共和党ウォッチャー)というのだ。

(Trump’s political operation raised over $500 million after 2020 election despite increased scrutiny)

 共和党内でもナンバー2のジョン・ソーン上院院内総務(サウスダコタ州選出)が早くもスコット支持を表明するなど動きが出ている。

 サウスダコタ州は2024年1月8日に全米最初の予備選が行われるアイオワ州隣接州。ソーン氏の動きは予備選に少なからぬ影響を与えそうだ。

 ソーン氏は「スコット氏は本物だ。必ずや大統領になる人物だ」と言い放っている。


上院議員バッジをつけていても職務質問

 スコット氏は6歳の時に両親が離婚し、シングルマザーの貧困家庭で育った。生まれつき運動能力が優れており、高校時代は野球選手として活躍、大学にはスポーツスカラーシップを得て入学した。

 南部サウスカロライナ州ではさんざん差別を受けた。車を運転していて何度もパトカーに停止命令を受けた。年に7回は止められたという。

 上院議員になり、議員バッジをつけていても、議会構内でキャピタル・ポリ—ス(議会警察官)に呼び止められた。

 黒人を対象にした職務質問(Racial Profiling)だった。

 それでもスコット氏は保守・共和党員であり続けた。高校時代に白人の恩師に学んだキリスト教の神の下での平等こそが米国憲法の根幹であることがバックボーンにあったからだという。

 今年2月、アイオワ州での遊説の際、スコット氏はこう述べた。

「私(の立候補)を一番恐れているのはリベラル派の極左の人たちだ」

「彼らは、私が減税法案に賛成した時は、私をプロップ(Prop=黒人にしてはあっぱれな奴)と呼んだ」

「私が治安強化のために警察に対する予算を増やした時にはトークン(Token=黒人の端役)だと呼ばれた」

「バイデン大統領を批判するや、彼らは私をニガー(黒人を蔑む言葉)と呼んだ」

「(リベラル派の)こうした中傷に心は乱れ、白人支配をしみじみと感じ、恐れてきた」

「私の人生を振り返ると、彼らのウソを見逃すわけにはいかない。山の頂から深い谷間に至るまでこの国に存在する真実について明らかにしたい」

「会社の重役会議室に、学校のすべての教室に、私たちのメッセージを送る。人の集まる体育館から下町にある教会まで本当の真実を伝えたい」

「共和党と米国は被害者意識に溺れるのか、それとも勝利者であることを選ぶかの岐路に立たされている」

「不平不満をとるのか、(米国の)偉大さをとるのか」

 まさに黒人差別をなくすためだというスローガンを掲げながら、私腹を肥やしている一部のリベラル特権階級に対して挑戦状をたたきつけたともいえる。

 スコット氏にすれば、人種問題の解決はリベラル派の偽善に阻まれている。その化けの皮を剥がねば人種差別はなくならないという体験的信念だった。

 スコット氏の立候補は、そうした勢力に引きずられているバイデン政権に対する挑戦である。


中国の仕掛けた「経済戦争」に総力を挙げよ

 スコット氏は、さらにこう続ける。

「もし米国を崩壊させる青写真を望むなら、バイデン氏が過去2年間左翼にしたい放題にさせてきた政策を見ればいい」

「米国を分裂させるために人種問題を政争の武器にしているのがリベラル民主党だ」

「白人の子供たちはみな抑圧者だと叫び、黒人や他の有色人種の子供たちの将来は不平不満しかないとでも言うのか」

「米国の未来は、共通の基盤を創り上げるコモンセンス、保守主義を超える新たな保守主義を打ち立てることによる以外にない」

「今充満しているポリティカル・コレクトネス(性差別・人種差別の廃止の立場からの政治的正当性)を打破することだ」

 スコット氏は、具体的な政策としては、

①連邦政府の野放図な歳出の削減

②妊娠人工中絶禁止

③急増する犯罪防止のための治安警備抜本改革

④台頭する中国との「経済戦争」での勝利を目指す総合的な体制の構築——などを掲げている。


デサンティスはいずれ自滅する?

 前出の共和党ウォッチャー氏は、スコット氏についてこう指摘する。

「長所は、共和党保守本流の主張を踏襲していることだ」

「スコット氏は、トランプ氏を支持する保守派(億万長者から草の根、エバンジェリカルズまで含む)でも、モラル上・法律上の問題でトランプ氏には嫌気が差している人も支持できる政策上の基盤に立っている」

「かつて、民主党リベラル派の白人が黒人のバラク・オバマ氏支持になだれ込んだのと同じ現象が共和党サイドでも起こりうる」

「デサンティス氏は立候補前に反LGBTQ問題やディズニーとの法廷闘争などネガティブ要因が露呈しており、トランプ氏の攻撃も受け、苦戦するだろう」

「その意味では、スコット氏が予備選で相当健闘する下地はある。トランプ氏が起訴に次ぐ起訴で脱落すれば、スコット氏が共和党候補に躍り出る可能性はある」

「さらに本選挙でバイデン氏との一騎打ちになれば、民主党支持の黒人やラティーノ、無党派層の票はスコット氏に雪崩を打って流れるかもしれない」

「世論調査ではトランプ氏がダントツだが、世論調査も形式や調査方法がまちまちであまり信用できないといった専門家の指摘もある」

「そうした中で、選挙登録済みの有権者、支持政党、党員資格などをチェックして実施したワシントン・ポスト・ABC世論調査結果では以下のような結果が出ている(4月28日から5月3日)。

トランプ:53%
デサンティス:25%
ヘイリー:6%
スコット:4%

(April 28-May 3, 2023, Washington Post-ABC News poll)

いずれにせよ、スコット氏の動向からは目が離せない。

筆者:高濱 賛

JBpress

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