孤独は脳卒中・心臓病・がん・認知症を誘発、早死の危険性は6割にも
2023年6月23日(金)6時0分 JBpress
孤独——。
米国でいま、孤独というものに注目が集まっている。
日本でも多くの人が孤独感を抱いていることは想像に難くないが、米厚生省トップのビベック・マーシー医務総監(米公衆衛生局長官)が先月、「私たちの流行病:孤独の蔓延と孤立」という81ページの報告書を出したことで、米国では改めて孤独への関心が集まっている。
というのも、これまで病気とみなされてこなかった孤独が、人の心身に多大な影響を及ぼす「流行病」と捉えるべきではないのかとの考え方が出てきたからだ。
マーシー氏は報告書で、社会的孤立が蔓延して継続された場合、健康に多大な影響が出るとの見解を示している。
孤独がこれまで病気とみなされてこなかったのは、世界保健機関(WHO)が定める国際疾病分類のICDコード上に「孤独」というカテゴリがなかったことによる。
つまり孤独を感じて病院に行ったとしても、病気と認識されず、ICDコードがないために保険適用されてこなかったのだ。
孤独感は早死に直結する
病気と診断されなくとも、孤独を感じる人は実に多い。
米調査会社「モーニング・コンサルト」が実施した調査によると、米国では成人のおよそ5人に3人が孤独であるとしている。
特に人種的マイノリティや低所得の市民はより強く孤独感を抱く傾向があるという。
マーシー氏は、孤独が単なる寂しいといった感情ではなく、「精神的、肉体的な病気につながる原拠である」としている。
前出の報告書によると、社会とのつながりの欠如は、心臓病のリスクを29%、脳卒中のリスクを32%、高齢者の認知症のリスクを50%高めるという。
さらに、早死にする可能性も60%も高くなると記している。
何百万人もの米国人がワクチンも免疫も特効薬もない、孤独という問題に苦しんでいるのが今の米国の姿であり、社会のあらゆるレベルに静かに浸透し始めている。
孤独とは、必ずしも物理的に他人と離れていることを意味するわけではない。
社会的に孤立し、他人と有意義なつながりを持つことができていない状態を指す。そのため、家族と生活をしていても重度の孤独感を抱えている人たちもいる。
孤独をサポートする企業が誕生
そうした中、これまで孤独に取り組むための本格的な臨床アプローチがなかったことに気づき、保険会社と提携して孤独に陥っている人をサポートするため、臨床医が監督するチームを作って技術対応サービスをする企業が誕生した。
それが米医療サービス会社「ピクス・ヘルス」である。
同社は孤独にはうつ病と同じように症状のレベルがあるとし、慢性的に孤独感を抱く人は悲観的になりがちで、「誰も助けてくれない」と思うようになりやすいという。
こうした人たちの傾向として、薬を飲まなくなり、家族ともかかわらなくなり、地域社会との関係も希薄になる。
そこでピクス・ヘルス社はまず慢性的な孤独に陥る危険性のある人たちを特定することから始め、電話をして積極的にかかわりをもつようにしている。
同社は相手の孤独の度合いや居住環境、生活状況を聞き出し、サポートが必要であるかどうかを判断。
同社のシンディ・ジョーダン社長は米メディアに述べている。
「ソーシャル・メディアが世界にもたらしたものは、(ネット上に)7000人もの友人をつくり出すことだったが、一人ひとりは孤独感を募らせていた」
さらにこうも指摘する。
「誰かと一緒にいるだけではダメなのです。孤独は診断が可能で、治療ができるものなのです。(医学界は)どうしてうつ病と同じような扱いにしないのでしょうか」
孤独の度合いが高い人は、単に外出頻度を増やしたり、地域社会とのかかわりを持つことで気分がよくなるわけではないという。
孤独に陥っている人は、薬も医師も家族も、誰も助けてくれないと考えがちになる。
「あらゆる面をサポートすることで、孤独を解決できると思っています」
継娘の自殺がきっかけに
ジョーダン氏は深い孤独感を抱える人の状況を改善するには、特別な介入が必要になると説く。
ただどういった介入が最善であるかは人によって差異があるため、見極めるのが難しい。
実はジョーダン氏の継娘は2021年、慢性的な孤独感から命を絶っている。
その時に痛感したのは、医師は身体上の病気は治せても、孤独に苦しむ人の心を治療はできないということだった。
継娘は愛する人たちに囲まれていたにもかかわらず、本当の寂しさに打ち勝つことができなかった。
孤独は1日にタバコ15本吸うのと同じ
継娘が友人に送った最後のメールは、自分がいかに孤独であるかを述べた内容だった。
こうした経験もあり、ジョーダン氏は孤独の初期段階にある人を見つけることができれば、多面的にサポートすることができるとしている。
「孤独は水面下に潜んでいますが、健康への害は非常に大きいのです」
「慢性的な孤独は高血圧、心臓病、肥満、うつ病、アルツハイマー、がん、認知症など、ほとんどすべての危険な病気を誘発します」
「実際、長引く孤独の健康リスクは、毎日15本のタバコを吸うのと同じであることが研究により判明しています」
これらの健康問題は、患者さんが頻繁に病院に通うことが必要になり、最悪の場合、深刻な医療事故につながる可能性もある。
また孤独は、ヘルスケア以外の事業で働く人たちや雇用者にも大きな負担になる。
孤独を抱える人は、健康上の問題に直面する頻度も高く、仕事を休む日数も多くなる。そして、転職する可能性も高くなる。
一般的に、医療機関は身体的な症状を診断するだけなので、医師は他の精神疾患と同じように、孤独感をつのらせている人々を具体的に診断し、治療の方法を探ることが重要になってくる。
また孤独にまつわる他者からの偏見を払拭することも、同様に大切だ。
不安障害やうつ病などは徐々に解消されてきたが、孤独感ではまだそこまでいっていない。
ジョーダン氏はこう結論づける。
「孤独はおそらく、米国が直面している大きな経済問題になっている。多くの人が孤独を抱えていることで、対処に多額のお金がかかる」
「今こそ、この問題に真剣に取り組む時だ」
この状況は米国だけでなく日本にも当てはまるのかもしれない。
筆者:堀田 佳男