日本の人口の数倍の人が飢餓に直面、対岸の火事ではない気候変動

2023年7月21日(金)6時0分 JBpress

 日本で暮らしている限り、世界で億単位の人たちが飢餓に直面していることはなかなか実感できない。

 食料不足でお腹を空かせ、命の危険に直面している人たちが、国連が発表した最新の報告書では約7億3500万人もいるというのだ。

 日本の人口の約6倍もの人たちが飢えに苦しんでいる。いったいどういう状況なのか。

 7月12日に国連の5つの専門機関が共同で発表した報告書「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)」によると、気候変動をはじめ、ウクライナ戦争や地域紛争などが原因で、飢餓に直面している人が億単位にのぼる。

 そして、2019年以降だけでも新たに1億2200万人が飢餓に追い込まれているという。

 日本のメディアでは大きく報道されていないものの、極めて重要な問題である。

 日本は長らく飽食の時代と言われ続け、あり余る食品の選択に困るほどだが、世界では億単位の人たちが真逆の状況にある。

 同報告書によると、2022年の世界人口の29.6%(24億人)が中度・重度の食料不足に直面しているという。

 これがいまや「新常識」であることを認識しなくてはいけない。

 スイスのジュネーブにある国連機関である人権高等弁務官事務所のトップであるウォルカー・トゥルク氏は、同報告書について次のように述べている。

「私たちの環境は燃焼してしまっている。溶けてさえいる。枯渇し、乾燥してもいる」

「環境問題を担当する政策立案者が緊急に、かつ早急な対応を取らない限り、『人類はディストピア(暗黒世界)』に向かうことになるだろう」

 気候変動が農作物や生態系に悪影響を及ぼし、世界的な食糧不足が懸念されていることは論を俟たない。

 トゥルク氏は2015年に196カ国が締結したパリ協定(第21回気候変動枠組条約締約国会議)にも触れている。

 同協定では締結国が世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて摂氏2度未満、可能であれば1.5度に抑えるという内容で合意している。

 だが、こうした国際的な取り決めが厳守されることが少ないことは多くの方が知る通りで、最近の気候変動が如実にそれを物語っている。

 日本では最近、秋田が大雨に見舞われているが、米東部バーモント州でも歴史上、類を見ないレベルの洪水が発生し、被害総額は数十億円にのぼっている。

 そうかと思えば、米中西部では旱魃被害が広がっており、バイデン政権はコロラド川の水量を守るため、流域の自治体に節水の協力金として総額1600億円を支払うことにしている。

 カリフォルニア州などでも4年連続で旱魃被害に見舞われている。

 またカナダでは今年に入り、山火事が4000件以上も発生し、これまでの消失面積は10万平方キロメートル(韓国の面積とほぼ同じ)に達している。

 この数字は過去最悪である。

 米国立気象局によると、カナダの山火事の煙が米中西部と東部に流れ、ニューヨーク州全域やイリノイ州、オハイオ州、イリノイ州、ペンシルバニア州などに大気汚染警報が発令されている。

 世界の飢餓状況をもう少し述べると、西アジア、南米、アフリカの多くの諸国でも飢餓は深刻な問題になっている。

 特にアフガニスタン、ナイジェリア、南スーダン、ソマリア、イエメンを含む18カ国での状況は悪化している。

 国連世界食糧計画(WFP)のシンディ・マケイン事務局長は、「彼らが直面する飢餓の深刻さはかつてないほど深刻になっている」と発言し、こうも指摘した。

「この気候変動の報告書は、いま私たちが立ち上がり、飢餓を防ぐために行動しなければいけないことを示している」

「何もしなければ、結果は壊滅的なものになる」

 さらに気候変動だけでなくなく、「飢餓のホットスポット」といわれる国々が直面する問題もある。

 ホットスポットとは深刻な飢餓がみられる地域のことで、今年はハイチ、ブルキナファソ、マリ、ソマリア、イエメンなどを含む世界22か国が挙げられている。

 ホットスポットが引き起こされる理由は気候変動による旱魃や洪水などのほかに、内戦・紛争、経済危機などがあり、多くの国では外貨準備高が低く、輸入制限があり、食料価格の緩和策も効果が上がっていない。

 また中東諸国もいま、世界平均のほぼ2倍の速度で地球温暖化を経験しており、住民と経済に壊滅的な影響を与える可能性が高い。

 この地域に住む約4億人は熱波、長期にわたる旱魃、海面上昇のリスクにさらされている。

 こうした気候変動を抑えるため、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)第28回締約国会議(COP28)が2023年11月と12月に開かれ、開催地にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイが選ばれた。

 議長に指名されたのは、同国の産業・先端技術大臣のスルタン・アル・ジャベール氏で、こう発言している。

「エネルギー転換の基本的な課題は、第1に排出を抑制しながら、いかに経済成長を実現させるか」

「第2にエネルギー安全保障と気候変動の対策を推進し、維持すること」

「第3は、誰も取り残さないようにする方法を模索すること。この課題を解決していかなくてはいけないし、しなくてはいけない」

 議長として揺るぎない決意を表明したアル・ジャベール氏は2006年、33歳で再生可能エネルギー企業、マスダールを設立。

 産業・先端技術大臣になったいま、2050年までに炭素排出量を正味ゼロにするという国の公約を果たそうとしている。

 同氏は、エネルギー転換に向けて現実的な方策を提示し、気候変動対策、エネルギー安全保障、経済成長を同時に確保するために現実的で実用的、かつ経済的に実行可能な計画を求めている。

「先進的な気候変動対策は必要であるだけでなく、強力な経済的推進力にもなり得る」

「うまくやれば、世界を新たな低炭素・高度成長発展の軌道に乗せることができる。だから、私たちは気候変動への挑戦をチャンスとして捉えなければならない」

 アル・ジャベール氏はパリ協定に見合った実用的な目標を追求しており、お手並み拝見といったところだ。

 フランスのジャック・シラク元大統領が生前、「家が燃えているのに、私たちはよそを見ている」と言ったように、多くの人たちはこの問題を軽視しがちだ。

 世界中の人たちは今こそ現実を直視し、一人ひとりがやるべきことをしていかなくはいけないだろう。 

筆者:堀田 佳男

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