Z世代のフィルムカメラブーム、驚きだらけ ネガは捨てる、オリンパスμだけが欲しい

2024年3月13日(水)6時30分 マイナビニュース

Z世代を中心に広がるフィルムカメラブーム。同世代がフィルムカメラやフィルムを買いに来るカメラ専門店の担当者に話を聞いたところ、「現像した写真は一切プリントしない」「現像済みのネガはいらないので捨てちゃう」「きれいに撮れないカメラはどれか、と聞いてくる」「人気があるのはオリンパスμ」など、往年のカメラファンなら思わずビックリしてしまうようなZ世代の好みやトレンドが明らかになりました。
30秒で分かる! この記事のポイントまとめ
東京・新宿の新宿 北村写真機店にZ世代のフィルム写真の好みや楽しみ方を取材したところ、さまざまな驚きがありました。Z世代はフィルムを現像しても写真をプリントせず、スマホで見るためデータのみを受け取ることが多いとのこと。現像したネガフィルムはいらないので廃棄をお店に頼むのだとか。デジタルカメラやスマホではきれいに撮れるのが面白くないと感じており、ピントが甘く色がにじんでいる描写をフィルムカメラに求める傾向も。人気の中古カメラはオリンパスのμで、インフルエンサーの影響が大きいようです。往年のフィルム時代を知るカメラファンとは違うベクトルでフィルム写真を楽しんでいることが分かりました。
フィルムカメラを買いに来たのに知識は少ない
前回の「若者に人気のフィルムカメラ、始めるにあたって覚えておきたいポイントと注意点」に続くフィルム&フィルムカメラブームを探る企画の第2回は、現在のフィルムブームを牽引する若い世代の動向を販売の現場の方にインタビューしました。お話を伺ったのは、新宿東口にある「新宿 北村写真機店」の森由利加さんと大澤公廉さんです。
まずは、フィルムを購入する層について森さんにお聞きしました。同店では圧倒的に若い人、いわゆるZ世代が多いとのこと。「Z世代の方がフィルムで写真を撮ってみよう、と思ったきっかけは、フィルムカメラをもらった、実家を整理したら最近話題のフィルムカメラが出てきた、単に流行っているから、スマホの写真とはちょっと絵が違うから、といった感じのようです」
ただし共通しているのは、フィルムカメラや現像の知識を持たずに来店する人がほとんどだといいます。「現像の受付に来られて、カメラからフィルムを取り出してもらえますかとお願いすると、その場でぱっと裏蓋を開けちゃう方も少なくありません。フィルムの現像の仕組みが理解してもらえず、現像は不要だからデータだけ欲しい、とおっしゃる方もいます」
フィルムを巻き戻しせずにカメラの裏蓋を開けてしまった場合、感光してない部分もあるので、「とりあえず現像してみませんか」と提案するとのこと。「感光している部分があっても、それがフィルム撮影の“味”として面白がってもらえることもありますから」
撮影した写真をプリントするという概念がない
北村写真機店では、これまで一般に「DPE」と呼ばれている現像+プリントのコースと、現像後プリントせずにフィルムをスキャンしたデータで納品するコースが選べます。驚くのが、フィルム現像に出される若い人のほぼすべてが、写真をデータで受け取る後者のコースを選ぶそうです。データ作成は、通常の1カット約250万画素でのスキャンと、同じく約1,200万画素のスキャンから選べるのですが、ほとんどの場合スマホで楽しめればよいということで、データ量の軽い250万画素を頼む人が大半だといいます。
「撮った写真がスマホに入ればいい、とおっしゃる方がほとんどです。プリントもできますよとお伝えするのですが、注文される方はほとんどいらっしゃいません。それもあり、標準ではプリントでお渡しするのではなく、フィルムをスキャンしたデータでお渡しすることにしています。プリントは、一般的なLサイズの半分でよりリーズナブルな価格の『ハーフプリント』をご提案するようにしているのですが」
森さんとともに一緒にお話を伺った大澤さんも「プリントするという概念がZ世代にはたぶんないのではないでしょうか」と話すように、いまやプリントではなくデータでの受け取りが一般的になっているようです。おそらく、今回取材させていただいた新宿 北村写真機店だけの話ではなく、全国的な傾向といえそうです。
「ネガはいらないので捨ててください」
さらに、驚くべき事実を森さんの発言で知ることになりました。「若い人のほとんどは“ネガの破棄”を選択されます」
なんと、ネガが必要ない・・・。フィルム時代から長く写真を楽しんできた者として、これはある意味ショックでした。ネガがあれば、納得するまでプリントできるし、極論すればプリントは失くしてもいいけど、ネガは絶対失くしてはいけない、と心の奥底に焼き付いている人間にとって、ネガをあっさり捨てるのは驚き以外の何者でもありません。フィルムをスキャンしたデータはネット経由で納品されるので、ネガを破棄するのであれば来店するのがフィルムを現像に出すときだけで済むこともありそうです。また、スマホで見るだけなら、データがあれば十分と考えるところもあるでしょう。
「お客さまに対し、ネガはどうされますかと必ずお聞きしています。若い人は破棄がほとんどですが、長年写真を親しんでいる方々に『ネガは破棄しますか』とストレートに言ってしまうと気分を害される場合がありますので、そこは気をつけてお声をかけるようにしています」
「ネガを捨てることにためらいのない若い方ですが、それでも少しでも経済的にという感覚はあり、プラスチック製の安いハーフサイズのカメラがよく売れています。また、1枚1枚に緊張感を持って撮影されているようで、仕上がったものを見てちょっと暗かったりしただけでショックを受ける方も少なくありません。でも、そのような方もまたフィルムを購入されることが多く、もうちょっと頑張って撮ってみようとか、今度はフラッシュを焚いてみようとか、ある意味失敗も楽しんでいる前向きな方が多いですね。ちなみに、多くの方がフィルムカメラ以外にスマホでも撮影されている“二刀流”のようです」
「きれいに撮れないカメラ」を求めて来店する
フィルムの動向に続いて、カメラについてはどうなのか、気になるところです。フィルムカメラは、簡易的な作りの安いものは今でも新品で手に入りますが、一眼レフやコンパクトカメラは基本的に中古となります。そのあたりの状況を、中古カメラフロアを担当される大澤さんにお聞きしました。
「なぜ若い人たちがフイルムカメラを求めるのかというと、今のデジタルカメラはスマホも含めてきれいに撮れすぎちゃうからなんです。きれいに撮れないカメラ、きれいでない写真というのが、Z世代にとっては新鮮なんです。我々の年代からすると、中古カメラは時代をさかのぼる感覚ですが、若い世代は新しいものに出会ったという感覚なんですね。昭和に戻ったのではなくて、“新しい令和の表現”といった感じでフィルムカメラを買いに来られます。『きれいに撮れないカメラはどれですか』かと聞かれるんです(笑)」
話を聞いていた私と編集担当は、またまた絶句。今度はきれいに撮れないカメラがいいとは、思いっきり頬を引っ叩かれた気持ちになってしまいました。カメラやレンズが出ると、メーカーはいかにきれいに撮れるかアピールします。レビュー記事でも、写りの良さにスポットを当てることが多いのですが、そんな思いとは真逆の要望があるとは驚かされます。
「若い人にとって、写真はきれいに撮れるのが当たり前ですので、逆にノイズが走っている、ゴーストやフレアが盛大に出ている、ピントがなんとなく甘い、色がにじんでいるというのが新しい。スマホやデジタルカメラのようにキレイに撮れる必要はまったくないのです」
インフルセンサーが薦めるオリンパス「μ」だけを探しに来る
そのようなフィルムカメラの状況ですが、Z世代のフィルムユーザーはどのようなカメラを買って撮影を楽しんでいるのか知りたいところです。これに関しても意外な答えが返ってきました。
「人気があるのがコンパクトカメラ。なかでも、オリンパスの「μ」シリーズの人気が圧倒的です。インフルエンサーやユーチューバーが紹介したらしく、μだけが指名買いされます。ほかのカメラもありますよ、と提案しても見向きもされず、在庫がなければ『じゃいいです』と立ち去られる方がほとんどです。ちなみに、μシリーズの現在の店頭価格は4万円台からですね。発売当時は3万円前後だったんですが…。それでも全然商品が足りなくて、棚に置いたらすぐ売れちゃいます。μ以外では、キヤノンのオートボーイも人気で、3万〜4万円ぐらいです。そのほかのメーカーのコンパクトカメラは1万円台後半ぐらいから2万円台になります」
何はともあれ、オリンパスμシリーズの人気は凄まじいようです。5〜6年ぐらい前までのフィルムコンパクトカメラは、中古カメラ店でホコリをかぶって無造作に置いてあることが多く、1,000円前後で買えるものもざら。もちろんμシリーズも例外ではなく、このままジャンクとして扱われて消えていくんだろうな…と思っていました。インフルエンサーやユーチューバーなどがZ世代に与える影響力に恐れ入りました。
「μシリーズの価格が一気に上がったのはコロナ禍に入ってからですね。レトロブームが始まり、そのなかでフィルムカメラで撮った写真が新鮮なので使ってみたいという人が増えました。需要があるから、高く売る人間が出てくる。正直、今の値段は“転売ヤー”の影響が強いですね。μも、本来はせいぜい2万円前後ぐらいが妥当な価格なんですが、この価格で販売すると転売ヤーが片っ端から買い漁っていきますから、本当に欲しい人に渡らないんですよ。悩ましいです」
お店でもなかなか買えないとなると、フリマアプリやネットオークションなどを頼りたくなりますが、大澤さんはやはり中古カメラはカメラ店で買うべきだと答えます。「ジャンク品以外はメンテナンスされていて、購入前に現物で動作確認をしたうえで購入できます。ちょっとした不具合がある場合も、正確にお伝えできます。当店は修理専門の部門があり、そこで店頭に出す中古カメラはメンテナンスしていますが、古いカメラゆえ部品がなく、ほぼ現状でのお渡しというものも少なくありません。しかし、それでも現状でしっかり動くことは確認が取れています。万が一動作不良になった場合も、アフターフォローいたします」
今回取材した北村写真機店には、ジャンクカメラやジャンクレンズのフロアもあります。さまざまなジャンクと出会うことができますが、初心者がジャンクを買うことにお店はウェルカムなのでしょうか?
「基本的に、ジャンクカメラの購入は初心者の方にはオススメしていません。正常に動くものと思って購入する方が一定数いらっしゃるからです。まず壊れていますとお伝えしたうえで、どこがどう壊れているのかという質問に対しては、そういう検査ができないくらい壊れています、とお答えするようにしています。正常に動くカメラを探しているのであれば、通常の中古カメラ売り場に行くようアドバイスしています」
フィルムカメラのブームを牽引しているZ世代のフィルム写真の楽しみ方やフィルム写真に対する考えなど、往年のフィルム時代を知っている者としてはカルチャーショックを受けることばかり。Hi-Fi(ハイファイ)よりもLo-Fi(ローファイ)な写り、そしてファストではなくスローな撮影体験、そのようなことがZ世代と呼ばれる若い人たちに受けていることが分かりました。
著者 : 大浦タケシ おおうらたけし 宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマンやデザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌および一般紙、Web媒体を中心に多方面で活動を行う。日本写真家協会(JPS)会員。 この著者の記事一覧はこちら

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