シェアサイクルが福岡市にもたらした意外な効果 “漕がない電動”も座るタイプへ? 主要3社の最新動向

2024年4月23日(火)11時24分 ITmedia NEWS

サービス開始当初は「Merchari」(メルチャリ)ブランドだった。写真は東京都国立市

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 コロナ禍はシェアサイクルにとって追い風であったという記事を2021年に公開したが、その後、新型コロナは感染症法上で5類となり、数年間続いてきた行動制限やリモートワークの流れも落ち着いてきた。では、シェアサイクルはどうなったのだろうか? 2024年1月下旬に福岡で開催された「第14回全国シェアサイクル会議」を中心に、シェアサイクルの主要事業者に、最近の動向を取材した。
●福岡を制した「チャリチャリ」は毎日地球1週分を走行する
 チャリチャリ(福岡市、neuetから4月1日に社名変更)が運営する「チャリチャリ」は、福岡市で最も使われているシェアサイクルだ。東京都心部ではドコモ・バイクシェアの赤い自転車を見かける機会が多いが、福岡市のシェアサイクルは「チャリチャリ」の一強状態にある。2023年の実績で、ユーザーの走行距離を合計すると1年間で地球367週分、チャリチャリのユーザーで毎日地球を1周している計算となる。
 チャリチャリの歴史をさかのぼると、2018年2月にメルカリグループによる「Merchari」(以下メルチャリ)として福岡市でスタートした後、2019年8月にneuet社に事業譲渡、その後「チャリチャリ」にブランド名称を変えた。という歴史がある。
 メルカリにも使われる赤を基調とした車体デザインはサービス開始当初から変えておらず、サービス名称ももともとのメルチャリから微修正レベル。そんな事情もあって、日々チャリチャリを使っているユーザーでも運営事業者が変更になったことを意識している人は少ないかもしれない。
 メルチャリのスタートから5年が経った今、ライド回数は2018年の15万回から739万回へと約50倍に、登録者数は2.9万人から約28倍に成長した。2022年と2023年の比較でも、ライド回数は前年比で125%、登録者数は154%と大きく成長している。実証実験の開始時点(2018年4月)と比べ、自転車台数は約14倍に、自転車のレンタル・返却を行うポート数は57カ所から684カ所へと約12倍に、サービスエリアは20平方kmから、100平方kmへと大きく成長した。新型コロナウイルス感染症の流行による行動制限が無くなった現在でも成長し続けているという。
 他のシェアサイクル事業者に比べ、チャリチャリのユニークな点は次の2点だ。まず、チャリチャリではローンチ当初に電動アシストタイプではなくノーマルタイプの自転車を投入していた。さらに料金体系も、30分ごとにいくらというような階段状のプランではなく、1分ごとに細かく料金が発生するように設定。代表取締役の家本賢太郎さんによると、こうした料金体系は世界のシェアサイクルサービスを見回しても極めて例が少ないという。
 これは短時間の利用ニーズを重視しているプランといえる。30分ごとの料金では10分の利用でも30分の料金を支払う必要があるが、このプランならまさしく“使った分だけ”の支払いで済むというわけだ。
 そしてその効果は利用回数として数値にも現れている。シェアサイクルの損益分岐点は、自転車1台につき4回転(1日に4回以上レンタルされること)が目安とされているが、チャリチャリでは天神・博多の都心部では10回転を超えており、中には15回転を超えるエリアもあるという。
 チャリチャリの利用1回あたりの平均移動距離は約1.8km(=1マイル)で、電動アシスト自転車が投入されてからも大きくは変わらない。同社では2021年に電動アシストタイプの自転車を投入したが、投入前は福岡市民からも、社内からも電動アシストタイプの自転車の利用に懐疑的な声が上がった。
 実際に、同社グループの自転車販売店のデータとしても福岡エリアでは電動アシストタイプがそれほど売れていないというデータもあった。しかし実際に電動アシストタイプを投入してからは、圧倒的に電動アシストタイプが使われている。2024年に新規投入する車両については、電動アシストタイプのみを計画しているほどだ。
「放置自転車」ワースト1位の汚名返上へ
 福岡市は2001年と2003年に、放置自転車の台数が多い都道府県ランキングでワースト1位になったことがあった。こうした状況を受け、駐輪場の整備や放置自転車を禁止する啓蒙活動、放置自転車の撤去などを行政が実施。また、福岡市における実証実験の開始によって、実験エリア内の自転車の放置率は2017年の2.5%から、現在は1.3%に半減している。また、撤去台数は3万3000台から8800台へと減少している。
 放置自転車の問題には、買い物や施設利用などで一時的に「放置」する他に、転勤や進学などにより自転車を「放棄」される問題もあったが、現在は放置自転車の問題はほぼ解消した。これには、自転車を所有から共有に切替を促進するシェアサイクルのチャリチャリの貢献もあるだろう。
 チャリチャリのポートに管理人などは基本的に常駐していないものの、新幹線博多駅筑紫口や、HEARTSバスステーション博多など利用者が非常に多いポートについては、利用開始のサポートや自転車の整理を行うために人を常駐させているポートもあるという。
 同社は4月に福岡県久留米市でもシェアサイクル事業を展開開始。久留米市は、これまで同社がサービスを提供する東京、名古屋、福岡、熊本と比べると人口規模は小さいが、同社が“マザーシティ”と表現する福岡市の中心部から特急列車で最短約30分、また熊本市からも約80km、新幹線では20分の距離にある。両都市から近接しているとは言えないものの、通勤や通学で往来する人も多く、結びつきが強い都市と言える。
●ステーション数で日本最大、HELLO CYCLING
 OpenStreetの工藤社長は「我々が展開するHELLO CYCLINGのステーション数は全国の事業者で最大です。でも、利用回数は……ドコモ・バイクシェアの方が上なんです」と紹介すると、会場では笑いがこぼれた。
 同社のステーション数は日本全国で7400カ所。偶然にもこれは台湾の主要都市で展開する「YouBike」のステーション数と同等だ。旅行で台北市内などの「YouBike」のポートや自転車を見かけたことがある人も多いだろう。日本と台湾では面積の違いもあり、単純な比較に意味は薄いかもしれないが、「YouBike」は月間1000万回、年間では1億回の利用がある台湾最大のシェアサイクルサービスと、ステーションの数では同等規模に成長している。
 OpenStreetでは、これまで主力としてきた電動アシストタイプの自転車に限らず、新たに「電動サイクル」と呼ぶ、“漕がずに進む”車両を2024年2月に千葉市とさいたま市の一部に投入した。これは、2023年7月の道路交通法の改正によって新設された「特定小型原動機付自転車」に分類され、16歳以上であれば免許不要で利用できる。
 「電動キックボード等」と言われることが多いこの車両区分だが、OpenStreetとglafitが共同開発した「電動サイクル」もこの区分に分類される。福岡で開催された全国シェアサイクル会議の直後に、関係者向けの試乗会が開催された。
 車体については、フル電動タイプの車両のため走行音がしなかったり、ウインカーにニュートラルが無いため誤操作しやすかったりするなど、細かな点での心配はあるが、これまで電動キックボードに比べて安全性は高そうに感じる。
 というのも、電動キックボードは車輪の経が小さく、重心も高いため、安定性に疑問があった。これに対し、電動サイクルは車輪の経もあり、座って乗れるため重心も下がる。交通ルールを守れば、公道(車道)もある程度安全に走れるだろう。
●都内で存在感を放つドコモ・バイクシェア 郊外ではスポーツタイプなども
 ドコモ・バイクシェアは、北は北海道、南は沖縄(那覇)まで、日本の各地でシェアサイクルを自らまたは提携事業者との協力によって運営している。
 ドコモ・バイクシェアの自転車は、ドコモのコーポレートカラーである赤を基調としたデザインで、都内(都心部)で特に目にする機会が多い。東京都内の広域相互乗り入れが可能な区は、千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、品川区、大田区、渋谷区、目黒区、中野区、杉並区、練馬区、世田谷区、台東区、墨田区の計16区に拡大している。
 都心部ではシティタイプの自転車を投入するが、その他エリアではエリアに合わせた自転車を投入している。例えば、仙台市の「海手(うみのて)サイクル」ではシティタイプと比べて車輪の大きなタイプの自転車を投入している。ほかにも、長野県東御市では、隣接する上田市・千曲市との合同実験とは異なり、スポーツタイプの電動アシスト自転車を投入するなど、多様なタイプの車両を投入している。

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