半導体デバイスを売るから顧客課題の解決を売るへ、ADIが挑むビジネスモデルの転換

2024年4月23日(火)7時5分 マイナビニュース

半導体メーカーだけど半導体デバイス“だけ”を売ることからの脱却を目指す。そんな半導体メーカーとしてのビジネスモデルの転換をAnalog Devices(ADI)が推し進めている。
半導体メーカーとして半導体デバイスを売らないとはどういうことなのか? 同社の日本法人アナログ・デバイセズでインダストリアル ビジネス グループ、エコシステムのディレクターを務める須藤徹氏に、その意図を聞いた。
省人化、自動化の時代に半導体は何ができるのか?
世界的な産業界のトレンドとしては、脱炭素(CO2排出量の削減)やコロナ禍で寸断されて浮き彫りになったサプライチェーンの保護、そして高度化する産業技術に対応できる専門人材の不足といったものが挙げられる。
人がモビリティでどこかに移動すれば、その分CO2が排出されることとなるし、コロナ禍では工場に出社することが困難になり、操業が危ぶまれるなど、さまざまな問題が生じた。そうした経緯を踏まえれば、究極的に言ってしまえば、工場の無人化・省人化を実現し、人手を介さず、すべてロボットや産業機器が勝手に動いてモノを作り上げてくれるようになればよいわけで、多くのロボットメーカーや工作機械メーカーなどから、さまざまな視点からそうした省人化・無人化に向けたソリューションが打ち出されつつある。
ADIとしても、「プロセスオートメーション」、「ファクトリオートメーション(FA)」、「モーションコントロール」、「ロボティクス」、「インテリジェントビルディング」の5分野でセンシングの活用が増えていくと見ており、重点分野に据えているという。中でも世界のCO2排出の37%を占めるとされる産業分野において、そうした排出されるCO2の70%がモーター駆動も伴うものと言われており、そうしたモーターの駆動効率改善を図っていくことを重視。「コネクト」「コントロール」「インタプリト」の3つをポイントに据えているという。
コネクトとは、工場の資産(各機器)の状況を把握するための透明性を担保した接続の実現を意味する。受注情報や在庫情報、マーケティング情報などのBIで活用されるような情報と、生産情報をダイレクトに結びつけることができれば、最適数量の生産などが可能となる。そのためには工場内の各機器をネットワークで接続する必要があり、それを実現するためには耐ノイズ性能などを加味したソリューションを実現する必要がある。
コントロールは、リアルタイムでの細かな動作制御によって動作時間を最適化することで消費電力の削減、ひいてはCO2排出量の削減を実現しようということ。また、AGV/AMRのような無人車両の活用では、単にタイヤを回転させる・止めるというモータコントロールのみならず、バッテリの長寿命化や居場所を把握するためのインテリジェントプロセッシングの実現なども必要となる。そのため、同社でも旧Maxim Integratedの畳み込みニューラルネットワーク(CNN)向けアクセラレータ内蔵Armマイコン「MAX78000」や60GHz帯などの無線技術などといったハードウェアに加え、ソフトウェアを動作させるためのROSや、モビリティのモーションコントロールまでライブラリを含めた形で提供していこうという動きとなっているという。
そしてインタプリトは、いわゆる予兆検知といわれる分野で、各種センサから得られるデータを踏まえつつ最適なタイミングでの保守の実行による、工場のダウンタイム低減を図ろうという取り組みで、やはり必要なデータだけをサーバに送ることによる通信量の削減などエッジAIが活躍する場の1つとも言える。
半導体を売るのではなく、顧客課題の解決策を売る
ここで重要となってくるのは、これまでこうしたソフトウェアまで含めたソリューションを用意した半導体メーカーは多々あったが、提供するハードウェア側はEVK(評価キット)であったり、リファレンスボード上で、開発段階でそうしたボード上で、そうしたソフトウェアを走らせてもらって、実製品には顧客が起こし直したボードに各種の半導体デバイスを載せてもらうというビジネスモデルであったという点だろう。
ADIはここの発想を転換しようとしている。例えばAGV/AMRの開発の場合、周囲の状況把握のためにLiDAR、レーダー、光学イメージセンサ、赤外線など、どのセンサを組み合わせて活用するべきか?、といったような開発の複雑性が増していっている。そうした状況下にあって、単に低コストかつ高性能な半導体デバイス単体を顧客に提案しようとしても、顧客の技術レベル次第では最終的に必要とするシステムを構築できない可能性もある。それであれば、いっそのことADIとして、顧客がやりたいことに必要な半導体がすでに搭載された状態の量産にも適用可能なレベルのボードとソフトウェアをソリューションとして提供することで、買ったらすぐに使える状況を作り上げれば、顧客はすでに保証済みのボードを自由に使うことができるようになる。
また、ソフトウェアについても将来的にはオープンソースとして自由に使えるようにすることで、幅広いユーザーに活用してもらえる可能性を持たせたいとしている。
ただし、パートナーの存在も継続して重視していくことも掲げており、「ADIとしては尖った、ある機能に特化したソリューション、例えばモーションコントロールだけのボードで、中央のマイコンですべてを制御するのではなく、分散処理として活用してもらうといったイメージ」(須藤氏)と、パートナーとは互いにウィン-ウィンの関係を継続できるとする。
須藤氏は「半導体デバイスを買ってもらうのではなく、顧客が何をやりたいのかを支援していくことを目指す」と語る。特に、日本の顧客に向けては、「いろいろと特色のあるパートナーが出てきていることから、そうしたパートナーと協力していく形で、市場の開拓を図っていきたい」と、自社に足りない部分もそうしたパートナーの力で補い、日本市場特有の顧客課題の解決に挑んでいく姿勢を強調する。
ちなみに、すでに2023年のある展示会で半導体デバイスではなく、開発したボードを活用したデモを行っていたところ、そのボードがどこで買えるのか? と聞かれたこともあるという。2024年に入って、量産販売可能なADI製ボードとして、モーターコントロール(モーションコントロール)、イメージング、エッジAIなどの分野のものが出来上がりつつあるという。実際、4月24日〜27日にかけて大阪府のインテックス大阪にて開催される溶接・接合・切断技術の専門展示会「2024国際ウエルディングショー」の同社ブースでは、開発中の自動走行ロボット向けモータコントロールボード「TMCM-2611-AGV」のデモなどを行う予定だという。
半導体デバイスを単に売るのではなく、顧客がやりたいことができるソリューションを売る、という新たなビジネス価値の創出を目指すADI。本当に複雑化する一方の電子機器開発の救いの手となるのか、その動向を今後も注視していく必要があるだろう。

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