新型「iPad Pro」先行レビュー 6年ぶりのフルモデルチェンジ、その進化は価格に見合うのか 実機を試す
2024年5月14日(火)7時28分 ITmedia NEWS
薄く、軽く、M4チップは想定よりかなり高速に動作する。ディスプレイはこれまで見たどのアップル製品よりも美しい。またApple Pencil Proは、絵を描く人なら二度と手放せなくなる利便性の高さを持つ。5月15日に発売されるiPad Proをひと足先に借りることができたので、先行レビューをお届けしよう。
●前のモデルより100g以上軽量化
初代iPadから14年。2018年にスクエアなベゼルのiPad Proがニューヨークで発売されてから早6年。iPad ProがM4チップを搭載して久しぶりにフルモデルチェンジした。
正面から見るとほぼディスプレイだけ、背面から見ると左肩にカメラがあるだけ……という形状なので、写真で見るとあまり変わらないように見えるが、実際に見ると驚くほど薄くなっている。
筆者が借りたのは、iPad Pro 13インチ(M4)1TBモデルと、新しいMagic Keyboard、そしてApple Pencil Pro。13インチモデルは前モデル(12.9インチ)の6.4mmから5.1mmに、1.3mmも薄くなっている。11インチは5.3mmなので、今13インチモデルの方が若干薄くなっている。
iPad Pro本体は薄くなっただけでなく、13インチの場合100g以上、新型のMagic Keyboardと合わせると123g(Wi-Fi仕様の場合)軽くなっている。従来、iPad ProをMagic Keyboardと組み合わせて持つとずいぶん重く感じたものだが、より軽く感じられた。Magic Keyboardは、本体表面の手に触れる部分がアルミに変わっており、触り心地と耐久性が良くなっている。
そういえば、メインカメラは超広角が省略されている。海外などではiPadで撮影する人をよく見るが、国内の場合は「撮影するのはiPhone」という人が多そうなので、ここはあまり問題にはならなさそう。
画面側のフロントカメラは長辺の中央に移動された。ビデオ会議する際にはMagic Keyboardやスマートフォリオで、横向けにして立てて会議する人が多いと思うので、これは理に適った変更だと思う。
ともあれ、見た目の薄さ、軽さは相当なものである。
●パフォーマンスは大幅向上
薄くなったにもかかわらず、パフォーマンスは相当向上している。
M3チップで採用した3nmプロセスの第2世代という触れ込みだったので、M4チップでの改良はタンデムOLED用のディスプレイエンジンの搭載が主で、CPUやGPUの性能はそこまで上がってないと思っていた。だが、ベンチマークを計測したところ、コアごとの性能は前モデルのM2チップより17〜50%向上している。
ハードウェアとOSが違うので、一概に比べるわけにはいかないかもしれないが、M3が搭載されたMacBook Airと比べても11.4〜23%向上してる。これまでのM1〜M3の進化と同様に、Mシリーズチップは世代を追うごとにおよそ15〜20%性能向上する……という法則は守られている。
また、M2で搭載されたメディアエンジンや、M3で搭載されたダイナミックキャッシング、メッシュシェーディング、ハードウェアアクセラレーテッドレイトレーシングなども搭載されているので、8Kなどデータ量の多いビデオ編集や、3Dグラフィックス、ゲームなどにおいては、さらに高いパフォーマンスを発揮できる。
●アップル史上、もっとも美しいディスプレイ
さらに注目は、HDR輝度1000ニト、ピーク輝度1600ニト、200万:1のコントラスト比を実現しているタンデムOLEDディスプレイだ。間違いなく歴代アップル製品で、もっとも美しいディスプレイを持つ製品だといえる(サイズ感の違うiPhoneを除けば)。
今回同時に発売されたiPad Air(M2)と比べてもその差は歴然で、この美しいディスプレイはiPad Pro(M4)ならではの魅力といえるだろう。写真でお伝えできるかどうかは分からないが(ウェブを経由することで圧縮されるし、最終的に色彩はこの記事をご覧になるディスプレイに左右されるので)、肉眼で見る限りで一番特徴的なのは黒がはっきりと黒いこと。これにより、色の鮮やかさも際立っている。
写真やビデオの編集部、3Dグラフィックスなど、映像を扱う人にとっては、このディスプレイは魅力的だ。
ただし、悩ましいのはクリエイティブにこのディスプレイを使っても、必ずしもこの色域、コントラスト比でクライアント側が見てくれるとは限らないということだろう。また、モノトーンのマンガを描くのにも本機である必要はないかもしれない。
総合的には金銭的余裕や、他の機能も合わせての判断になると思うが、iPad Air(M2)のパフォーマンスも相応に上がっているので、円安で高くなり過ぎたiPad Pro(M4)より、iPad Air(M2)を選ぶというのも見識かもしれない。
●Apple Pencil Proは絵を描く人の必需品に
スクイーズ、バレルロール、触覚フィードバックという3つの新機能を搭載した「Apple Pencil Pro」も使ってみた。新型はiPad Pro(M4)だけでなく、iPad Air(M2)でも使えるようになっている。
ただ、過去のモデルで使用できたApple Pencil(第2世代)とは相互に互換性がないというのは、少々意地が悪いと思う。Apple PencilもMagic Keyboardも過去モデルとの互換性がなく、iPad Pro(M4)の導入コストを上げてしまっているのが残念だと思う。
とはいえ、新しいApple Pencil Proは素晴らしい。
特に、ギュッと強く握るとペン先の近くに小さなメニューが出てくるスクイーズは便利。ペン先の形状や、色、サイズなど変える時に、いちいちメニューまで戻らなくてもいい。Adobe Fresco、Photoshop、CLIP STUDIO PAINTなどのアプリが対応してくれれば、絵を描く人には手放せないデバイスになるだろう。
バレルロールは、ペンのロール方向の位置を反映できるというもの。カリグラフィや平筆のような表現が便利になるが、Apple Pencil Proのロール方向の向き自体が分かりにくいので、この機能を多用する人は、向きの分かりやすいグリップを使った方がいいかもしれない。
今回からAirTagと同じ「探す」にも対応したので、もし見失ったとしてもAppleネットワークの範囲内にいれば、場所を特定できるのは心強い。
●ハイエンド向きに、商品カテゴリーが移動
今回の貸出機は13インチモデルで、1TB、Wi-Fi+セルラー、標準ガラス(今回からNano-textureガラスを選択可能)を採用したもの。価格にして35万8800円。これにMagic Keyboard、Apple Pencil Proを組み合わせると、44万400円とかなり高価な製品になる。2年間のApple Careを追加すると46万7200円だ。
単純に円安のせいというのもあるが、この価格帯はもうプロ用機材として、プロカメラマンの機材やミュージシャンの楽器のように、これでお金を稼げて、究極的なクオリティーを必要とする人向けの道具になったといってもいいだろう。高性能を意味するProではなく、プロ向け機材ということである。
商品カテゴリーとしてハイエンド側に大きく広がったので、プロでもそこまでのクオリティーと性能を必要としない人にはiPad Air(M2)が用意されているという解釈でいいと思う。用途に応じて選択したい。