米テック大手のリストラ、偽情報対策を困難に
米メタ、米アマゾン・ドット・コム、米グーグルとその親会社米アルファベット、そしてツイッターの運営会社。これらは、いずれも2022年末から23年前半にかけて大規模な整理解雇(リストラ)を明らかにした企業だ。
例えば、メタは23年3月、今後数カ月で約1万人の従業員を一時解雇(レイオフ)すると発表した。同社は22年11月に当時の従業員の約13%にあたる1万1000人超の人員削減を明らかにしており、2回目の大規模解雇に着手した。アマゾンは23年1月、1万8000人超というリストラを発表。23年3月20日には、9000人を追加削減すると発表した。
だが、こうしたリストラが、ネットサービスの信頼性や安全性、倫理に重点を置くチームの規模縮小につながり、偽・誤情報やヘイトスピーチ(憎悪表現)など、問題のあるコンテンツが一層広がると懸念されている。
メタ、事実確認ツールを完全廃止
米CNBCによると、メタでは、偽情報対策チームのエンジニアがファクトチェック(事実確認)ツールを開発していた。これは、SNS(交流サイト)のFacebook(フェイスブック)やInstagram(インスタグラム)で広がる情報の真偽を検証するツールで、AP通信やロイター通信などが協力するというものだった。
だが、メタのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)は23年初めの決算説明会で、「効率化の年」を強調した。「重複するプロジェクトや優先度の低いプロジェクトを中止し、すべての組織を可能な限りスリムにすることに重点を置く」との目標を掲げた。これにより、メタではこの取り組みが中断された。ファクトチェックツールは、同社幹部の賛同を得て23年初めにテスト段階に入っていたが、その後完全に廃止されることになったという。
ツイッターやグーグルも信頼性・安全性部門で人員整理
米メディアによると、ツイッターでは、22年11月に人工知能(AI)に関する倫理チームが事実上解散し、このチームは1人を除き全員がレイオフの対象になった。また信頼性と安全性に関する部門ではその15%が解雇された。
グーグルでは23年2月、偽情報・過激派・有害性・検閲から社会を守ることを目的とした部門で約3分の1を削減した。メタは、23年1月初旬に約200人のコンテンツモデレーターの契約を終了したと伝えられている。また、アマゾンは23年3月にAI倫理チームを縮小した。米マイクロソフトでは倫理・社会チームの全員を削減した。
メタが米労働省に提出した書類によると、同社はInstagramの健全性に関するグループで、少なくとも16人を削減したほか、信頼・誠実・責任に関連する100以上の役職を削減した。
テック大手、信頼性や安全性の確保はコスト
米テクノロジー大手では、組織スリム化に重点を置く動きが広がっている。グーグルは23年1月、グループ全体で約1万2000人を削減すると発表した。対象になったのはアルファベットの従業員の約6%だった。マイクロソフトは23年1月、全従業員の5%弱にあたる1万人規模の人員削減計画を発表した。
ツイッターでは、22年10月下旬のイーロン・マスク氏による買収完了直後、全従業員の約半数にあたる3700人が削減された。それ以降、マスク氏の方針に反発する多くの従業員が同社を去った。米ニューヨーク・タイムズは23年2月、21年末時点で約7500人だったツイッターの従業員数は約2000人にまで減ったと報じた。
こうして、インターネットサービスの安全対策を担う多くのスタッフが解雇される事態になった。「米テクノロジー大手は、信頼や安全、AI倫理が企業の収益に寄与するとは考えず、単にコストとみているようだ」とCNBCは報じている。
有害なコンテンツや誤情報を排除するための業務や、AIの開発と使用に関する倫理的課題を検討・解決する業務が削減されたことになる。これは、テクノロジー大手の利用者に対する責任の軽視だと批判されている。
筆者:小久保 重信
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