村上春樹「ダイレクト・カッティング録音」の魅力とは? 自身のラジオ番組『村上RADIO』で語る
TOKYO FM+2024年3月31日(日)19時55分
作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00〜19:55)。3月31日(日)の放送は「村上RADIO〜ダイレクト・カッティング特集〜」をオンエア。ダイレクト・カッティングとは、レコーディングをおこなう際、マスター音源をテープに録音して編集せずに、いきなりディスクにカッティングすること。そんなダイレクト・カッティングで録音された楽曲を、村上DJの所蔵するレコードで紹介しました。この記事では、前半1曲について語ったパートを紹介します。
こんばんは。村上春樹です。村上RADIO、今夜はダイレクト・カッティングで録音されたアナログ・レコードを集めてみました。「ダイレクト・カッティングってなんだ?」という方もおそらくたくさんいらっしゃるでしょうね。短く説明すれば、かつてのLP時代、まず一度アナログ・テープに録音した音楽を、テープの段階で切り貼りして編集し、それをディスクにカッティングしていたわけですが、そのテープの段階をパスして、直接ディスクにカッティングしちゃおう、というのがダイレクト・カッティングです。アナログ・テープからデジタルの時代に移って、この方式もおおむね意味を失い、廃れてしまいましたが、優れたダイレクト・カッティング録音には、今聴いてもはっとさせられる緊迫感が漂っています。その辺を味わってください。
<オープニングテーマ曲>
Donald Fagen「Madison Time」
ダイレクト・カッティングは、テープ編集のプロセスを省いてあるぶん、クリアで原音に近い音になっているわけですが、なにしろ編集ができないものですから、演奏を間違えたら、あとでそこだけちょっと録り直して……なんてことは不可能です。つまりぶっつけ本番、一発勝負です。だから演奏するほうも、録音するほうも緊張します。その気合いで音楽の質がぐっと高まることもありますし、それと同時に、緊張で堅くなっちゃうミュージシャンも中には出てくるかもしれません。そういう「真剣勝負」の面白さも、ダイレクト・カッティング録音の醍醐味になっているんです。
*
◆The L.A. Four「Greensleeves」
今日はダイレクト・カッティングで録音されたレコードを特集します。
まず、L.A. Fourの「グリーンスリーブズ」を聴いてください。ギターのローリンド・アルメイダを中心としたカルテット、フルートがバド・シャンク、ベースがレイ・ブラウン、ドラムズがシェリー・マンという、西海岸在住の一流ミュージシャンをそろえた顔ぶれです。1977年の録音、録音場所はカリフォルニアですが、制作は日本フォノグラムで、録音スタッフは日本から出張した日本人が中心になっています。アルメイダのアコースティック・ギターの音色がとりわけ美しいです。
いまからちょっとかけますね。(よいしょ……)3曲目ですね。
本当は、こういう特集はできるだけ大きなスピーカーでがっつり聴いてもらいたいんです。そうしないと、そこにある音のクリアさやダイナミズムがよくわからないから。でも最近はradikoで放送を聴く人が中心になっているみたいで、残念といえばちょっと残念ですね。もちろん聴いていただけるだけで嬉しいんだけど、ぼくらの世代は、「スピーカーと正面から向き合って音楽を聴く」という行為に慣れちゃっているので、そういう傾向は、やはりいくぶん寂しくもあります。
----------------------------------------------------
3月31日(日)放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 4月8日(月)AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。
----------------------------------------------------
<番組概要>
番組名:村上RADIO〜ダイレクト・カッティング特集〜
放送日時:3月31日(日)19:00〜19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/
こんばんは。村上春樹です。村上RADIO、今夜はダイレクト・カッティングで録音されたアナログ・レコードを集めてみました。「ダイレクト・カッティングってなんだ?」という方もおそらくたくさんいらっしゃるでしょうね。短く説明すれば、かつてのLP時代、まず一度アナログ・テープに録音した音楽を、テープの段階で切り貼りして編集し、それをディスクにカッティングしていたわけですが、そのテープの段階をパスして、直接ディスクにカッティングしちゃおう、というのがダイレクト・カッティングです。アナログ・テープからデジタルの時代に移って、この方式もおおむね意味を失い、廃れてしまいましたが、優れたダイレクト・カッティング録音には、今聴いてもはっとさせられる緊迫感が漂っています。その辺を味わってください。
<オープニングテーマ曲>
Donald Fagen「Madison Time」
ダイレクト・カッティングは、テープ編集のプロセスを省いてあるぶん、クリアで原音に近い音になっているわけですが、なにしろ編集ができないものですから、演奏を間違えたら、あとでそこだけちょっと録り直して……なんてことは不可能です。つまりぶっつけ本番、一発勝負です。だから演奏するほうも、録音するほうも緊張します。その気合いで音楽の質がぐっと高まることもありますし、それと同時に、緊張で堅くなっちゃうミュージシャンも中には出てくるかもしれません。そういう「真剣勝負」の面白さも、ダイレクト・カッティング録音の醍醐味になっているんです。
*
◆The L.A. Four「Greensleeves」
今日はダイレクト・カッティングで録音されたレコードを特集します。
まず、L.A. Fourの「グリーンスリーブズ」を聴いてください。ギターのローリンド・アルメイダを中心としたカルテット、フルートがバド・シャンク、ベースがレイ・ブラウン、ドラムズがシェリー・マンという、西海岸在住の一流ミュージシャンをそろえた顔ぶれです。1977年の録音、録音場所はカリフォルニアですが、制作は日本フォノグラムで、録音スタッフは日本から出張した日本人が中心になっています。アルメイダのアコースティック・ギターの音色がとりわけ美しいです。
いまからちょっとかけますね。(よいしょ……)3曲目ですね。
本当は、こういう特集はできるだけ大きなスピーカーでがっつり聴いてもらいたいんです。そうしないと、そこにある音のクリアさやダイナミズムがよくわからないから。でも最近はradikoで放送を聴く人が中心になっているみたいで、残念といえばちょっと残念ですね。もちろん聴いていただけるだけで嬉しいんだけど、ぼくらの世代は、「スピーカーと正面から向き合って音楽を聴く」という行為に慣れちゃっているので、そういう傾向は、やはりいくぶん寂しくもあります。
----------------------------------------------------
3月31日(日)放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 4月8日(月)AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。
----------------------------------------------------
<番組概要>
番組名:村上RADIO〜ダイレクト・カッティング特集〜
放送日時:3月31日(日)19:00〜19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/
「村上春樹」をもっと詳しく
「村上春樹」のニュース
-
村上春樹、街で見かけた小澤征爾さんに驚いた過去「初対面の相手でも、とにかく誰にでもすぐに話しかけちゃうんです」「とても人なつっこい人」5月6日20時0分
-
村上春樹、小澤征爾さんから聞いた“野球”にまつわるジェームス・テイラーとのエピソードを明かす「すごい話です」5月6日6時0分
-
村上春樹「小澤征爾さんがオペラを指揮すると歌詞がとても聞きやすいんです」本人にその“コツ”を尋ねてみたら…5月5日11時0分
-
村上春樹、クラリネット奏者リチャード・ストルツマンと小澤征爾さんとの貴重なエピソードを披露5月5日6時0分
-
村上春樹、小澤征爾さんとアメフト観戦した思い出「ルールをよく知らなかった僕に、手取り足取り教えてくれました」5月4日11時0分
-
村上春樹・川上未映子両氏の最新短篇も掲載。 21世紀の日本文学を代表する作家たちが大集合した「新潮」創刊120周年記念号、5月7日(火)発売!5月2日17時46分
-
村上春樹、小澤征爾さんとの思い出を語る「“春樹さんが小説に書いてくれたおかげで、僕のレコードが売れてよかったよ。ありがとう”と礼を言われたことがあります」4月30日20時0分
-
村上春樹「自分のカヌーは自分で漕げ」学生時代にカート・ヴォネガットの小説で出会った言葉4月30日6時0分
-
村上春樹「地震で傷ついた地域が1日も早く立ち直って、元のようになることを祈っています」能登半島地震・被災地への思いを語る4月29日21時0分
-
村上春樹、小澤征爾さんは「音楽で物語を語ることに長けた人。そういうことができる人ってなかなかいません」4月29日20時0分