与謝野晶子が『光る君へ』の時代を生きた女性に親しみを抱いた理由とは?『源氏物語』や『紫式部日記』を読んでわかったこと
与謝野さん「天才は偶然には生まれない」(写真提供:Photo AC)
今年1月からNHKで放送中の大河ドラマ『光る君へ』。主人公は平安時代のベストセラー『源氏物語』を書いた紫式部。そんな彼女と同じように、近代の女流歌人として活躍し、『源氏物語』の翻訳を3度試みた与謝野晶子。今回は与謝野晶子が書いた評論集の中から、選りすぐりの言葉や詩を紹介します。与謝野さんいわく、「天才は偶然には生まれない」そうで——。
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天才は偶然には生まれない
紫式部のような才女たちが平安時代に一斉に輩出されたのは、ちょっと見ると宮廷と藤原氏一門からの支援があったためと思えるのですが、実際には彼女たち以前の才女がまず存在したのです。
華やかな文化は突如として現れるものではなく、天才は偶然には生まれません。
上流、中流の女性たちが学問、芸術、そして宗教に熱中する風潮は、遠く大化の改新の行われた飛鳥時代にさかのぼるものです。
奈良時代までの文明はおおむね、中国やインド、朝鮮半島諸国の模倣でしたが、平安遷都以降の日本人の生活には、新しい要求が湧きおこってきました。
上流、中流の男女が漢書、歌集、仏典のほか、日本文で描かれた小説などを読まずにはいられなくなったこと、小説や日記を盛んに書いて自己表現の端を開いたことは、その顕著な変化です。
源氏物語や紫式部日記を読むと、この女流文学者の教育、政治、音楽、学問、社会に対する独自で豊かな見識を知ることができます。
「紫式部と其時代」(『人及び女として』より)
自発的に学んだ平安時代の女性たち
私が親しみを抱いているのは、平安時代の中流階級に生まれた女性たちです。
平民でもなければ、貴族のような特権階級でもない、中間あたりの階級の男性は、仕官の資格として学問を修めなければなりませんでした。
そして、この階級の女性もまた競って高等教育を修めたのです。
教養のある親兄弟は学問・芸術の価値と必要性を知り、女性たちの高等教育を奨励しました。
父や兄が熱心に自ら教えたり、家庭教師とも言うべき人たちを雇って教えたりもしたのです。
紫式部が幼いころに、父親の藤原為時(ふじわらのためとき)が中国の歴史書「史記」を教えたのは有名な話ですが、兄の惟規(のぶのり)も常に妹の学問の相手となりました。
この階級の家庭は、初めから学問芸術を生活の重要条件としていました。
こういう恵まれた環境に生まれた女性たちは、自発的に学び、自己を教育しました。
その教育の質の高さは、今の女子大学の比ではないと思います。
「平安朝の女性」(『女性改造』一九二四年九月)
常識にとらわれず型にはまらない学びを
常識というものは、型の記憶を繰り返すものに過ぎません。
過去が現在に役立っている、それが常識です。
受験の準備のためでなく、個人の希望と長所に従って、自由に学べる制度を望みます(写真提供:Photo AC)
常識家というものは、いろんなことを知っていて、生きた百科事典のようなものです。
石橋をたたいて渡るというふうな、堅実な生活を基礎づけるためには役立ちますが、保守的にかたむきやすく、新しい生活の発明家にはなりにくいという欠点があります。
こうしたことを考えないで、常識を教えこもうとすると、人間の生活は停滞し、進歩しなくなってしまいます。
個性の創造
常識が不足しているのも困りますが、それがあまりありすぎて、肥満した人の心臓が脂肪過多で圧迫されるように、人間の命である想像力を萎縮させてしまう結果になっては困ります。
個性の独立を主張する時代にあっては、他人の型や法則をまねる必要はありません。
中学以上の教育においては、個性の創造を主として指導しなければなりません。
受験の準備のためでなく、個人の希望と長所に従って、自由に学べる制度を望みます。
「伊豆山より」(『人間礼拝』より)
※本稿は、『与謝野晶子 愛と理性の言葉』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
婦人公論.jp
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