本郷和人『光る君へ』花山院に矢を放った伊周・隆家兄弟は「左遷」。道隆一族の力が失われるきっかけに…左遷先で彼らはどんな扱いを受けたか
2024年5月13日(月)12時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。第19話は「放たれた矢」。藤原道長(柄本佑さん)が右大臣に任命され、公卿の頂点に。これを境に、先を越された藤原伊周(三浦翔平さん)との軋轢が高まり——といった話が展開しました。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるあのシーンをプレイバック、解説するのが本連載。今回は「左遷」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし!
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長徳の変
ドラマ内にて、叔父である道長と権力争いを続けてきた伊周ですが、弟・隆家がこともあろうに、花山院に向けて矢を放ってしまいました。
いわゆる長徳の変です。
退位した身とは言え、元天皇へ向けて矢を射掛けた、という前代未聞の事件。
それが明るみに出たことで、隆家はもちろん、伊周らはその責任をとって都から左遷。中宮定子らも含めて、道隆一族が朝廷内で力を失うきっかけになっていきます。
形式上は「左遷」だけれど
ここから歴史のお勉強となりますが、律令国家は罪人に対し、「笞・杖・徒・流・死」(ち・じょう・ず・る・し)の五種類の刑罰を用意していました。
本郷和人先生が監修を務める大人気の平安クライム・サスペンス!『応天の門』(作:灰原薬/新潮社)
順に、笞で打つ、杖で打つ、強制労働、配流、死刑です。
ということは、流罪は死刑に次いで重い刑罰になります。
たとえば源頼朝は伊豆国への流罪に処せられていますよね。頼朝は貴族としての身分が低かったので、単に流罪、なのですが、身分が高い人の場合はちょっと様子が異なります。
地方のイレギュラーな官職に任じる、すなわち形式上は「左遷」なのですが、内実は配流である、というかたちにすることがしばしばあるのです。
かなりきつかったはず
現在ならば、日本国中のどこの役所も刑務所も、しっかりと運営されています。罪人といえど、健康的な毎日が約束されています。
でも古代は、そんなわけにはいきません。イメージでいうと、かつてのソ連が行ったシベリア送り、みたいなものでしょうか。
罪人をキチンと管理するシステムなんて期待できませんから、地方の役人にいじめられても文句は言えず、かなりきつい毎日を強いられることが容易に想像できます。
なぜ「左」遷なのか
ただ、貴種流離譚を参考にすると、都びとは地方では重んじられ、崇められてすらいた。
なので、左遷先の共同体の「おさ」の娘を嫁にしたりして、それなりに平和な毎日を送れたのかもしれません。このあたりはケースバイケースなんでしょうね。
ここから、余計なことを。
日本では常に左が「上」、右が「下」という扱いです。たとえば、舞台の上から見て、舞台の左側を「上手」、右側を「下手」と呼びますよね。
でも中国では、左と右の価値が時代によって変わります。そして右が「上」とされていたときに生まれた言葉が左遷、なのだと思います。
そういえば、悪の宇宙人と戦ったウルトラセブン、本来はMー78星雲から地球に送られた天体観測員でした。彼もまた、左遷されてきたクチかもしれませんね。
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